米国発 カリフォルニアで白熱するフードトラック 前編

アメリカ西海岸で人気を集めているトラックにキッチンを搭載して料理を販売する「フードトラック」。前編では、フードトラックの人気の背景と高級食材を使用して成功した話題の店を紹介する。

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Vol.73

アメリカ西海岸で人気を集めている、トラックにキッチンを搭載して料理を販売する「フードトラック」。提供する料理はタコスなどの安価でお手軽なファストフードが主流だが、近年は高級食材を使用したり、エコに配慮したフードトラックが続々登場するなど、進化が見られる。さらに、フードトラックの料理を競うテレビ番組「Great Food Truck Race(グレート・フードトラック・レース)」も放映され、話題に拍車をかけている。前編では、フードトラックの人気の背景と高級食材を使用して成功した話題の店にスポットを当てる。

フードトラックは、どこにでも移動して販売できることが強み。コストが削減できるため、高級食材を使った料理を提供するフードトラックも登場
ハンバーガーの定番、ベーコンとチェダーチーズをトッピングするハンバーガーに、高品質な牛肉を使用したフードトラックにも人気が集まっている
ロブスターを使ったロールサンドを提供するフードトラックも。認知が広がり、テレビ番組のロケのケータリングとして呼ばれることもある

「高級食材をリーズナブルに」が成功の秘訣

「フードトラック」のブームは、2008年のリーマンショックがきっかけだ。当時、出店コストがかかり、路面店舗のレストランが構えられない状況の中で「自分の店を持ちたい」と考えた人たちが、ファストフードを販売するフードトラックに注目。もともと、アメリカ西海岸では日ごろからファストフードを食べる文化が根強くあること、家賃などの経費が削減できるため、少ないコストで出店できることから、フードトラックでの出店が相次いだ。また、今まではタコスやハンバーガーといったジャンクなファストフードが主流だったが、最近では高級食材にこだわったフードトラックも登場。セレブなど高級かつ本物志向の美食家が多い土地柄でもあるため、話題を集めることとなった。

一度食べたら病みつきになるという「スラミン・スライダース」のスライダーは、老若男女問わず常連客が多く、行列が絶えない

なかでも2010年にオープンして以来、不動の人気を誇るのが「スラミン・スライダース」(SLAMMIN SLIDERS)。ガイドブック「ザガット・サーベイ」(一般人投票による厳選したレストランを紹介)でも高く評価され、テレビや映画の撮影現場にもケータリングとして呼ばれる有名店となった。イタリアとフランス料理のシェフ歴40年のエドワード・アングルー氏と共同経営者であるトム・ミラー氏によるこの店のコンセプトはズバリ、「高級食材を使った料理をリーズナブルに提供すること」。アメリカで高品質な牛肉として人気が高い「Wagyu(和牛の血を引く現地生産牛)」を扱ったメニューを提供することで一躍ファンを獲得した。

同店で使用するのは、アメリカで“Wagyu”として初めて認可されたアメリカ中央部ネブラスカ州・インペリアル社の牛肉。特徴は、上品な味わいの霜降りで、ホルモン剤や抗生物質は一切使用せず、穀類か牧草による100%自然飼料で生育することにこだわる。「他社の“Wagyu”も試しましたが、口に広がる甘みがもっともよく、高品質であることが決め手でした」と、アングルー氏は語る。

この“Wagyu”を使ったスライダー(約7cm四方のバンズを使ったミニサイズのハンバーガー)を、全5種で提供。一番人気は「ダブル・オニオン・コウベ・スライダー」だ。オーダーすると、スタッフが「パティの焼き方はミディアムにしますか?ウェルダンにしますか?」と、好みの焼き加減を聞いてくれる。素材を活かすために塩とコショウのみで味付けし、揚げたスイートオニオンを挟んでできあがり。価格は、2つセットで7.50ドル(約780円)だ。

そのほか、チキンを使った「カリフォルニア・チキン・スライダー」や、チポテル(燻製にした唐辛子)を加えたアイオリソース(卵黄と油を乳化させて作ったソース)を付けながら食べる「スイートポテト&ペッパージャックコロッケ」などをそろえ、素材にこだわったメニュー17種類を提供する。「一般のハンバーガーより量は少なめですが、高級食材を使い、レストランの半額以下の価格で提供しています」とアングルー氏。フードトラックならではの価格設定と素材へのこだわりが成功の秘訣と言えそうだ。

店でもっとも人気のメニュー「ダブル・オニオン・コウベ・スライダー」。“Wagyu”の味をダイレクトに堪能できる
オーナーシェフのエドワード・アングルー氏(左)と、運営管理を担当する共同経営者のトム・ミラー氏(右)
SHOP DATA
スラミン・スライダース(SLAMMIN SLIDERS)
営業範囲:ロサンゼルス市を含むロサンゼルス郡、オレンジ郡、サンバーナーディーノ郡、リバーサイド郡、ベンチュラ郡
http://slamminsliders.com/

新鮮なロブスターをファストフードで味わう

「ロールン・ロブスター」(ROLL’N LOBSTER)も高級食材であるロブスターをメニューに組み込み、人気を不動としたフードトラックの店だ。ケーブルテレビで視聴率1位のドキュメントバラエティ番組「ミステリー・ダイナース(Mistery Diners)」で特集されるなどメディアに取り上げられたことをきっかけに、人気ドラマ「CSI」などの撮影現場でのケータリングとして呼ばれるようになったりと、評価、人気ともに定着した。

「ロールン・ロブスター」では、メイン州から空輸された新鮮なロブスターを使用した「コネチカットロール」が一番人気。あっさりとしていて、毎日食べても飽きない味だ

オーナーシェフのピーター・クレスト氏は、ロブスターの米国内の漁獲量の約半数を誇る、アメリカ最北東部のメイン州出身。2012年、ロサンゼルスで同店をオープンする際にこだわったのは、幼い頃から食べてきた地元・メイン州で獲れるロブスターだ。“メインロブスター”は、高級レストランでの取り扱いが主流となっている高級食材の1つ。「厳しい寒さに耐え抜いたメインロブスターは、身が締まっていて甘みもあり、香り豊か。味は格別です」とクレスト氏。巨大な爪を持つ体格が特徴で、1匹当たりの身が少ないため、希少なロブスターといえる。

このメインロブスターを使ったメニューは5種類。なかでも一番人気は「コネチカットロール」(15ドル=約1,560円)。表面を軽く焼いた約15cmのホットドッグ用ロールパンにレタスを敷いて、約113gの肉厚なメインロブスターを挟む。「素材そのものの味を活かすために、茹でたロブスターに溶かしバターをかけるだけ。好みでレモン汁を絞るのがおすすめです」とクレスト氏。そのほか、マヨネーズとセロリをロブスターと和えて、塩、こしょう、レモンで味を調えた「ニューイングランド・ロブスターロール」(13ドル=約1,350円)も人気だ。料理にマヨネーズを使ったこの料理は、メイン州を含むニューイングランド地方の伝統料理の1つ。また、アサリとアサリの煮汁、ポテト、生クリームで作った「クラムチャウダ」や、貝から外したばかりのアサリに、衣をつけて高温の油でさっと揚げた「ホールベリー・フライドクラム」など、メニューは全11種を提供。素材を活かした、メイン州でよく食べられる料理を提供しているのが特徴だ。

アメリカの4大テレビ局「FOX」によると、現在、フードトラックは約300万台が存在するといわれる。フードトラック業界の2007~2012年の年間成長率は8.4%、2017年までに売上は2012年度の650万ドルから2,800万ドルになると予測されているほど。今後もさらなる成長が期待されている。

ロブスターメニューの次に人気がある、アサリを揚げた「ホールベリー・フライドクラム」。これだけを食べに訪れるリピーターも多い
西海岸に移住しても、出身地メイン州のロブスター提供に尽力する、オーナーシェフのピーター・クレスト氏
SHOP DATA
ロールン・ロブスター(ROLL'N LOBSTER)
営業範囲:ロサンゼルス市、ビバリーヒルズ市などを含む88の市と、その周辺の多数の町村
http://www.rollnlobster.com/

取材・文/大山真理

※通貨レート 1ドル=103.8円

※価格、営業時間は取材時のものです。予告なく変更される場合がありますのでご注意ください。