インドネシア発 地元を支援するレストランがブーム 前編

インドネシアでは地元産の食材を食べてもらうことで、地元の生産者や農家の労働環境や暮らしをサポーするレストランが増加。今回は地元の食材にこだわって大人気のレストランを紹介する。

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Vol.87

インドネシアは熱帯雨林気候と熱帯モンスーン気候という雨の多い土地柄から、質の高い農作物が育ちにくい環境で、レストランは地元から十分な食材を入手することが難しい。そのため、輸入食材が多く利用されている。そんななか、地元産の食材を多くの人に食べてもらうことで、地元の生産者や農家の労働環境、暮らしをサポートし、地場産業を育てていくことを理念としたレストランが増えている。特に最近話題になっているのが、おしゃれな雰囲気で、かつトップクオリティの商品を提供するレストランやスイーツ店だ。前編では、地元の食材にこだわって大人気のレストラン2軒を紹介する。

料理で使うほとんどの食材を地元産にこだわるレストランが人気。地元の食材をモダンな料理で提供する
食材だけでなく、店内のインテリアも地元の職人が作ったものを採用。なかには、川にただよっている流木を利用した家具などもある
食べることで、地元の医療に貢献できるレストランも登場。店内にはインドネシアの医療現場の写真が飾られるが、南国風の店内は明るい雰囲気

地産地消で、地域産業を支援するレストランが話題

世界有数のリゾート地として知られているインドネシアのバリ島。空港から車で2時間ほど走った森林地域・ウブドは比較的気候が涼しく、自然やオーガニック、エコなどに関心の高い人たちが世界各国から多く訪れ、中心地のメインストリートにはカフェやレストランが軒を並べる。

「ロカヴォレ」で使用する食材の95%が地元産で、ていねいに調理した料理が提供される。写真は、じっくり煮込んだ牛の尾肉を焼いたステーキ。ポテトニョッキ、香味野菜などが添えられ、温かいオニオンコンソメスープをかけていただく

そのエリアに、2011年11月のオープン以来、予約がとりづらい店として注目を集めているのが、レストラン「ロカヴォレ」(LOCAVORE)。店名の「ロカヴォレ」とは、アメリカやヨーロッパではすでにトレンドになっている言葉で、「local (地元)」と「vore(~食動物)」を組み合わせた造語。「地元で取れた食物を食べる者」という意味で、彼らが目指しているミッションそのものでもある。「Modern Cuisine, Local Produce(モダンな料理を、地元の生産で)」という店舗独自の経営哲学を掲げ、レストランで使う食材の95%を地元産とし、100%オーガニックな食材で賄っている。

「おいしい料理を提供したい」という強い信念を持つシェフのエルケ・プラスメイジャー氏とレイ・アドリアンシア氏、レストランマネージメントのプロであるアディ・カルマヤサ氏の3人が共同オーナーとなっており、地元の農家や漁師と契約して食材を購入することで、地元産業の収入と雇用を支援。そのほか、自宅にも自家菜園を作るほどのこだわりようだ。

また、食材だけにとどまらず、食器やインテリア、家具もすべて地元の職人たちの工芸品を使用してサポート。川の流木や石を使って作られた皿、空き瓶を加工して作ったグラスなどを使い、自然と調和するバリ島らしさを表現している。

同店のメニューは、月替わりのコースメニューのみ。通常メニューとベジタリアンメニューの2つから選べ、それぞれ5品(450,000ルピア=約4,500円)と7品(475,000ルピア=約4,750円)のコースを用意。そして、4種のアミューズと、4種のデザートが無料で提供されることからも、地元食材をゲストに楽しんでもらいたいという気持ちが伝わってくる。注文したコース料理以外に、アミューズやデザートがどんどん来店客のテーブルにサーブされると、そのサプライズに客の表情は笑顔でいっぱいになる。食後には、料理のおいしさに感動した客が拍手することも多いという。

食材から食器、インテリアまで地元産にこだわりながら、高級リゾートらしい優雅さも演出する「ロカヴォレ」。バリ島だけでなく、東南アジア全体のこれからのレストランシーンをリードする存在だ。

地元の食材が持つうま味を堪能できる4種の無料のアミューズ。取材時は地元産の生しいたけのグリル(写真)やホウレンソウの天ぷらなどを提供
奥がオーナーシェフのプラスメイジャー氏、手前がアドリアンシア氏。オープンキッチンのため、客席から調理の様子を見ることができる
SHOP DATA
ロカヴォレ(LOCAVORE)
Jl.Dewi Sita, Ubud 80571
Bali, Indonesia
http://restaurantlocavore.com/

収益で病院を設立し、地元の医療支援を行うレストラン

一方、同じバリ島・ウブドにある「フェア・ワルン・バレ」(Fair Warung Bale)は、レストランの収益で大きな病院を建てようと計画しているレストランだ。きっかけは、2004年にインドネシアで起こったマグニチュード9.1のスマトラ島沖地震にさかのぼる。

地元の漁師から毎朝新鮮なエビを仕入れて作る「キングプラウン・アラ・バレ ベジタブル&ライス」(95,000 ルピア=約950円)。収益は病院事業に使われる

当時、スイスからの医療従事者として働いていたアレクサンダー・ウェットステイン氏は、一番被害が大きく、300万人以上の被災者が出たスマトラ島北端にあるパンダ・アチェを被災支援で訪れていた。そこで、彼は「インドネシアにおける医療の現状や地元の人たちの恵まれない医療環境に衝撃を受けた」と語る。

その後、同氏はバリ島に定住し、ウブドでの病院設立を計画。実現させるための財源確保のほか、情報発信と交流の場として、インドネシア人のパートナーとともに2011年3月に「フェア・ワルン・バレ」と「バリ・サリ財団」をオープンさせる。「ワルン」とは、インドネシア語で「食堂」という意味で、レストランよりもカジュアルに食事が楽しめ、たくさんのゲストが集まって情報交換ができる場にしたいという思いが込められている。

そして現在では、レストランの収益の100%をウブド中心地に開業したクリニックの運営にあてられているほか、今後展開する様々な医療支援事業にも使われている。

「フェア・ワルン・バレ」のメニューはアジア料理と欧州料理のミックスで、どれもボリューム満点。魚介や南国の果物、野菜は地元で獲れたものを使い、毎日地元の市場で買い付けしている。スタッフ全員が地元のバリ人たちで、飲食はまったくの未経験から同店に就職。厨房で腕を振るうシェフも、料理はすべてこのレストランで働いてから学び、上達したという。病院設立という大きなビジョンだけでなく、地域の雇用、地場産業にも広く貢献しているが、店内はアットホームな雰囲気。その温かな空気と料理に魅了されて、ディナータイムになると観光客だけでなく、バリで暮らす外国人たちで、ほぼ満席になる繁盛ぶりだ。

店内の至るところに、病院設立、医療支援の活動に関する資料や写真が掲示されている。重いテーマの掲示物が多いにもかかわらず、来店客にそう感じさせない理由は、南国の「バレ(東屋)」作りのリラックスした雰囲気にもあるようだ。同店で食事をすると、自動的に地域に貢献できる仕組みになっているため、そのミッションを知る人は「同じ食事をするのであれば、役に立てることを」と、足繁く店に通っている。

店内は、南国の東屋作りでとてもカラフル。スタッフがいつも笑顔で迎えてくれる
現在もスイスの医師団と提携し、インドネシアにおける医療革命を起こそうと活動している創始者のウェットステイン氏。同店の「コンセプトは社会貢献レストラン」と語る
SHOP DATA
フェア・ワルン・バレ(Fair Warung Bale)
Jl.Sriwedari 6, Taman kaja,
Ubud, 80571,
Bali, Indonesia
http://www.fairfuturefoundation.org/

取材・文/山田陽子

※通貨レート 1インドネシアルピア=約0.01円

※価格、営業時間は取材時のものです。予告なく変更される場合がありますのでご注意ください。