タイ発 個性派フードコートが人気(後編)

タイ・バンコクでは大型ショッピングモールの建設ラッシュが続き、人々の関心はフードコートに集中。後編では各国料理や本格的な和食、ユニークなメニューやタイ初上陸の店舗を集めるなど、3軒のフードコートを紹介。

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Vol.94

著しい経済成長を見せるタイ・バンコクは、大型ショッピングモールの建設ラッシュが続いている。「モールの顔」であるフードコートに人々の関心は集中。料理やサービスで差別化を行い、より多くの集客につなげようと各モールともに必死に策を講じている。前編ではタイ料理の有名店や老舗店を集めたフードコートを紹介し、味のこだわりや価格など人気の秘密を探った。後編では各国料理でディナーの集客を狙ったフードコート、本格的な和食をそろえたフードコート、そしてユニークなメニューやタイ初上陸の店舗を集めて話題性を高めるフードコートを紹介。今までバンコクにはなかったユニークな試みをリポートする。

バンコクには世界各国から観光客が来るため、フードコートにもイスラム教徒向けのハラール・レストランがあり、海外でも食事が困らないと支持されている
食の多様性に対応するフードコートでは、ベジタリアンメニューも豊富。サラダから中国の菜食料理や、写真のような中東料理などを多彩に取りそろえる
タイ人向けにアレンジされた日本食ではなく、本物の和食を食べたいという層を狙った日系レストランがフードコートにも続々進出し、人気を得ている

アルコールと生バンドでディナーの利用客を獲得

バンコクの商業地区サイアムにある1985年開業 の「MBKセンター」(MBK Center)は、約9万平方メートルの売り場に、衣料、家具、携帯電話など約2,500にも及ぶ店舗が軒を連ねる巨大ショッピングモール。毎日、平均で約10万5,000人が訪れ、その多くは世界各地から来た観光客だ。

アラブ・インド料理店「アリズ・アラビック」の一番人気は、スパイスとヨーグルトでマリネした鶏肉を店内の釜で香ばしく焼き上げた「チキン・マライケバブ・セット」(375バーツ=約1,350円)

彼らの食を支えるのが、5階の「ザ・フィフス・フードアベニュー」(The Fifth Food Avenue)。中国、インド、中東、アメリカ、ギリシャ、インドネシア、日本など14カ国の料理を提供する20店舗をそろえる。「インターナショナル・フードコート」と銘打つだけあり、外国人が利用しやすい工夫がいろいろ。例えば、タイのフードコートは英語メニューがなかったり、口頭で調理法を伝える場合もあるため、外国人はやや使いづらい。しかし、ここでは全メニューの食品サンプルが店頭に置かれ、言葉がわからなくとも指差しで注文ができる。

また、宗教・習慣による食事のルールの違いにも柔軟に対応。4店舗がイスラム教徒向けのハラールフードを扱うハラール認証ロゴを掲げている。アラブ・インド料理店「アリズ・アラビック」(Ali’s Arabic)でマネージャーを務めるレオン氏は「客の半分はイスラム教徒で、ハラールメニューの注文数は1日150食以上。中東のほかにマレーシア、中国、フランスのイスラム教徒の方が多く来店されます」と利用の多さを語る。そのほかにも、ほとんどの店でベジタリアン専用メニューを最低2品は用意しており、「同じ菜食料理でも、いろんなテイストから選択できる」とベジタリアンから好評だ。

通常、フードコートが賑わうのはランチから夕方にかけてだが、ここのピークはディナータイム。アルコールを扱うバーを併設し、週末には地元バンドのライブ演奏で盛り上がる。料理は、体格のよい西洋人も満足できるようにとポーションが大きく、1品200~300バーツ(約720~1,080円)台と価格も高め。しかし、国際都市バンコクといえども世界各国の味が楽しめるフードコートは珍しく、観光客のみならず、各国の料理をエンターテインメントとともに楽しみたいタイの人々で賑わっている。

週末の夕方は地元ミュージシャンによる生演奏が。バーのハッピーアワーを利用して、酒を片手に音楽を楽しむ人の姿もある
バーテンダーが常駐し、カクテルを提供するフードコートは珍しい。シンハービール(左/80バーツ=約290円)と、ドライ・マティーニ(右/130バーツ=約470円)
SHOP DATA
MBKセンター内、ザ・フィフス・フードアベニュー(The Fifth Food Avenue/MBK Center 5F)
444 Phayathai Rd, Pathumwan, Bangkok
http://www.mbk-center.co.th/

日本と同じ味で本物志向のタイ人を魅了

外国人駐在員が多く暮らすバンコクのプロンポン地区にある「エンポリアム」(The Emporium)は、1997年創業の高級デパートで、駐在員やタイ人の富裕層が多く来店。その5階にある「エンポリアム・フードホール」(Emporium Food Hall)は、タイ料理などのブース21軒と日本食専門店4軒が出店しているプレミアム感あふれるフードコートだ。

ホテルのラウンジをイメージさせる高級感あふれるフードコート。オープンキッチンを備えるタイ料理などのブースでは、新鮮な食材を手早く調理するライブ感も売りだ

日本食を扱うフードコートはタイでは一般的だが、その多くがタイ人向けにアレンジされた料理。しかしここでは、とんかつの「新宿さぼてん」、姫路発のお好み焼き「喃風(なんぷう)」など、日本に本店を持つ有名店が軒を連ねる。日本を訪れるタイ人観光客が年々増え続けており、「タイ風にアレンジされた日本食ではなく、日本で味わった本物の和食をタイでも食べたい」という声を反映しているためだ。

このフードコートに店を構える神奈川・藤沢に本店がある「里のうどん」も人気店の1つ。おすすめメニューの「紀州南高梅 梅わかめうどん」は、240バーツ(約860円)。一般的なフードコートの1食分と比べると高めだが、毎日店舗で仕込む手打ち麺を使った本格関西うどんは、“高くてもよいもの”を求める利用者の心をつかむ。日本と変わらない味とサービスを提供することで、本物志向のタイ人の支持を得ている好例だ。

日本とタイ料理を同時に楽しめるのも魅力。写真奥は「里のうどん」の「紀州南高梅 梅わかめうどん」と、左はタイ料理ブースの豚だんご「ルークチン・ムー」(1本/19バーツ=約70円)、右はたこ焼風菓子「カノムクロック」(30バーツ=約110円)
注文を受けてから焼く「喃風」の「お好み焼き(ミックス)」(写真手前/280バーツ=約1,010円)、タイマンゴーともち米のデザート「カオニャオマムアン」(写真奥/120バーツ=約430円)
SHOP DATA
エンポリアム内、エンポリアム・フードホール(Emporium Food Hall/The Emporium 5F)
622 Sukhumvit Soi 24, Khlong Toei Wattana, Bangkok
http://www.emporium.co.th

タイ初上陸の味や目新しさが、若者層を獲得!

そのエンポリアムの新館として、BTSプロンポン駅前に2015年3月27日に オープンした「エムクオーティエ」(EmQuartier)は、3棟のビルで構成されるタイ最大級のメガモール。その中の「クオーティエ・フードホール」(Quartier Food Hall)は、約7,000平方メートルの売り場にレストラン街、テイクアウト専門店、催事場、フードコートが入り、食のトレンドの見本市のようだ。

「クルア・アプソーン」のタイ風定食「カオラートゲーン」はおかずを10品程度から選べ、3種盛りは100タイバーツ(約360円)。大皿に盛られているのは(手前左から時計回りに)夜来香と卵炒め、レッドカレー、豚バラ肉とナスのバジル炒め

フロアには、流行に敏感な若者層を取り込む仕かけがあちこちに見受けられる。店舗ブースは洗練されたデザインで統一し、メニューは電子ディスプレイで表示。タイ屋台料理を中心とした料理にも目新しい要素を盛り込み、人々の関心を高めている。例えば、好みのおかずをご飯に乗せるタイ風定食「カオラートゲーン」は、どこのフードコートにもある定番料理だが、タイ王室の料理番だったシェフが始めた庶民派の人気食堂「クルア・アプソーン」(Krua Apsorn)では、「夜来香(イエライシャン)」という花の炒めものなどを提供。他店にはないユニークな惣菜で集客につなげている。

「クオーティエ・フードホール」の店舗数は18軒と小規模なものの、同じフロアには8軒のテイクアウト専門店や催事場で購入した軽食をフードコートの客席に持ち込めるため、食事の選択肢は広がる。台湾からタイ初出店となる「ホットスター」(豪大大鶏排)は名物の巨大フライドチキン(139バーツ=約500円)を販売するテイクアウト専門店。このフライドチキンを買い求めた人がフェイスブックやInstagramといったSNSに写真をアップ。口コミで情報が拡散され、店は連日長蛇の列だ。話題性のある飲食店の出店を促し、若者を中心とした利用者自らに情報発信してもらうことが、次なる客を呼び込むカギとなっていると言えそうだ。

台湾・台北市内最大のナイトマーケットである士林夜市の人気店「ホットスター」の巨大フライドチキン。右下は、高級中華「シェフマン」(文苑)の名物のクリーム饅頭(各40バーツ=約140円)
店舗のブースはメタリックなデザインで統一。ディスプレイにはメニューの動画が映し出される。同動画は同フードコートのInstagramでも閲覧可能だ
SHOP DATA
エムクオーティエ内、エムクオーティエ・フードホール(EmQuartier Food Hall/The EmQuartier 5F)
689 693 and 695 Sukhumvit Road, Khlong Tan Nuea, Watthana, Bangkok
http://www.emquartier.co.th/

取材・文/さとう葉

※通貨レート 1タイバーツ=約3.6円

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