台湾発 台湾で今「とんかつ」がアツい! 前編

近年、台湾では日本のとんかつ専門店の進出が相次ぎ、どの店も地元の人が行列を作っている。なぜここまでとんかつが人気なのか。前編では台湾に進出したとんかつ屋を取材し、人気の秘密に迫る

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Vol.107

しゃぶしゃぶ、ラーメン、抹茶など数々の日本食がブームを起こしてきた台湾では、今「とんかつ」が大人気。近年日本からとんかつ専門店の台湾進出が相次ぎ、どの店も地元の人が毎日長い行列を作っている。さらに台湾人がオープンした店も数多くあり、今やとんかつは台湾でもっとも愛される日本食になったと言っても過言ではない。

なぜ、これほどまでとんかつが人気なのか。前編では日本から台湾に進出したとんかつ屋を通し、人気の秘密に迫る。

台湾版とんかつとも言える「排骨」(パイグー)をメインのおかずとした「排骨便當」(パイグー弁当)は台湾の弁当の定番。豚肉料理が多い台湾は、もともととんかつに親しみやすい環境があった
味噌汁、ご飯、千切りキャベツや小鉢などと一緒に提供される定食スタイルは満足感がある。さらに、健康ブームにより食事の栄養バランスを気にする台湾人からも好評
とんかつを食べる上で欠かせないソース。甘辛い味付けを好む台湾の食文化に日本風のとんかつソースはよく合っている。これも台湾でとんかつが人気を博する要因の1つと言える

良質な豚肉のおいしさを封じ込めたとんかつ

「和心とんかつ あんず」は福岡、東京、アジアを中心に展開するとんかつ屋。2006年に台湾に進出したものの、契約上の都合などにより一度は撤退。しかし、台湾の消費者からの熱いラブコールを受けて2014年に再度「銀座杏子日式豬排」の名で店舗展開を始めた。2016年1月現在、台湾全土で14ある店舗の多くは人気デパートのなかにあり、ショッピング中の女性やビジネス層の利用が多く、週末はファミリーで賑わう。

毎日数量限定の人気ナンバーワンメニュー「黒豚棒腰内豬排套餐」は、貴重な台湾産黒豚のヒレかつ。やわらかく、黒豚のうまみが存分に味わえる

台湾では信仰上の理由で牛肉を食べない人が老若男女問わず多く、豚肉料理が人気だ。その分、豚肉に対するこだわりが強く、自然と肉質の高いものが好まれる。「衣をつけて揚げることで肉のおいしさを逃さず封じ込めるとんかつは、豚肉好きの台湾人にぴったりの料理なんです」と同店を運営する六角國際事業股份有限公司(「和心とんかつ あんず」を経営するアトム株式会社と業務提携)の副社長・林子恒氏は語る。

人気ナンバーワンメニュー「黒豚棒腰内豬排套餐」(380元=約1,338円) は、貴重な台湾産黒豚のヒレかつ。毎日数量限定で、ランチタイムで完売してしまうほどの人気ぶり。通常の豚肉より肉がつくまでに時間がかかるという希少な黒豚は肉の旨みが強く、やわらかくてジューシーなのが特長だ。さらに、精密な温度管理のもと7日間熟成させてから調理することで、さらに旨みが増し、やわらかくなる。脂分が少ないヒレかつは健康を気にする台湾人にはロースよりも圧倒的に人気。台湾の豚肉は霜降りのつき具合がバランスよく、ヒレ肉にもまんべんなく脂がのってジューシーながらやわらかい。

同じく人気の「里肌豬排鍋膳套餐」(330元=約1,162円)は、ロースかつを卵とともに醤油ベースの出汁で煮込んだいわゆる「かつとじ」。煮込んで出汁の旨みをたっぷりと吸った衣はサクサクとした食感が残っており、噛めば噛むほど肉の旨みが出てくる。この味付けも甘辛いタレが好きな台湾人に好評だ。とろりとした半熟の卵は贅沢に1人前に2個使用。サクサクとしたとんかつにトロトロの卵が絡み食が進む一品だ。

豚肉そのもののうまさを封じ込めるとんかつという調理法。豚肉の食文化が発達し、良質の豚肉が手に入りやすい台湾で、人気なのもうなずける。

「里肌豬排鍋膳套餐」はロースかつとじ。醤油ベースの甘辛い出汁と半熟でとろりとした卵のハーモニーが台湾人にも大人気のメニュー
同店を経営する六角國際事業股份有限公司の副社長・林子恒氏。自らも日本で研修を受けた。日本品質を守るための厳しいチェックも欠かさない
銀座杏子日式豬排 微風信義店(インズォシンツジーシージューパイウェイフォンシンイーティエン)
台北市忠孝東路5段68號4樓
http://www.ikingza.com/index.php

サクサクのとんかつと甘辛いソースのハーモニーが台湾でヒット!

台北の中山地区は、海外有名ブランドの路面店や高級ホテルが建ち並ぶショッピングエリア。ここに名古屋発祥のとんかつレストランチェーン「とんかつ知多家」の中山店がある。まだ「とんかつ」が台湾の人にとって馴染みの薄かった1990年9月に、台湾初の日本のとんかつ専門店としてオープン。現在のとんかつ人気の火付け役とも言われている。

一番人気のメニュー「腰内豬排御膳」。キャベツ、ご飯、味噌汁はおかわり自由。味だけではなくボリュームも重視する台湾人の胃袋をつかんでいる

不動の人気ナンバーワンメニューは「腰内豬排御膳」(ヒレかつ定食 259元=約912円)だ。知多家のとんかつは厳選された台湾屏東産の豚肉を使用している。台湾でとんかつが愛される理由として「排骨(パイグー)」という似た料理の存在が挙げられるが、味付けも非常に似ている。台湾料理には甘辛い味付けの料理が多く、甘み、辛み、酸味がほどよく調和しているこだわりのとんかつソースは台湾人の心を掴んだ。台湾料理にはないパン粉を使ったサクサクの衣とのハーモニーも絶妙。こう考えると「現地に似ている食べものがあること」は食の海外進出における1つのカギと言えるかもしれない。

同じく人気の「里肌豬排咖哩蛋包飯」(289元=約1,017円)は、カツカレーのご飯の部分をオムライスにした一品で、子供からお年寄りまで年齢を問わず注文が入る中山店のオリジナルメニューだ。一見、妙な組み合わせに感じられるかもしれないが、カツとカレーは「カツカレー」として、カツと卵は「カツ丼」のように絶妙なコンビネーションを見せている。それぞれの相性のよさを考えれば、三者を合わせるというのは、極めて自然な発想だ。実際、サクサクのとんかつの食感に、贅沢に卵を3個も使用した半熟でとろけるように柔らかいオムレツ、そこにスパイシーなカレーが合わさり、見事なハーモニーを生み出している。

「知多家」は仕事の合間にボリュームがあるものを食べて活力を得たいと思うビジネスマンやOLに人気が高い。また、週末はファミリーにも利用されている。

「排骨」という似た料理の存在が人気の背景かもしれないが、それに甘んずることなくカツカレーにオムレツを合わせるという新しいことにもチャレンジしている。それが一過性の「ブーム」ではなく、「トレンド」として台湾の老若男女にとんかつ人気を確立させた理由といえそうだ。

「里肌豬排咖哩蛋包飯」は台湾でも人気の日本風カツカレーのごはんをオムライスにした贅沢なメニュー。こちらもボリューム満点の一品
台湾知多家股份有限公司副社長の呂振體氏。「現状に甘んじることなく、多くの世代に親しまれる新しい店づくりやメニューづくりに取り組んでいきたい」と語る
知多家 中山店(チードージャー ジョンシャンティエン)
台北市中山北路2段45巷31號
http://www.chitaka.com.tw/

取材・文/石井三紀子(海外書き人クラブ)
※通貨レート 1ニュー台湾ドル=約3.52円
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