Vol.8
ミラネーゼから絶大な人気の"ピッツァ・アル・トランチョ"とは?
このところ、ファッションの流行発信地や商業都市として知られる、イタリア・ミラノで絶対的な人気を誇るのが、切り売りスタイルのピザ"ピッツァ・アル・トランチョ"(ひと切れのピザの意)だ。手軽に食べられるリーズナブルさが受け、世代を選ばず、最近とくに注目を浴びている。ピザというシンプルな食べ物のクオリティを徹底的に追求した、ミラノ市内の"ピッツァ・アル・トランチョ"の人気店をリポートする。今回は、ミラノ随一の大手チェーン店「スポンティーニ」をご紹介したい。
不況にも強い"ピッツァ・アル・トランチョ"火付け役「スポンティーニ」が躍進中
今、ミラノで人気の切り売りピザ"ピッツァ・アル・トランチョ"は、ナポリのピザとは、生まれも生地の食感も異なり、ふっくらと柔らかい。そもそもピザは、イタリアではきちんとした食事をするほどお腹がすいていない時に食べるもの。切り売りピザは、シチリアのストリートフード"スフィンチョーネ"から生まれた。"スフィンチョーネ"とは、トマト、玉ねぎ、アンチョビ、チーズ、パン粉などがトッピングされたフォカッチャの一種で、硬質小麦粉で作るふっくらしっとりした生地が特徴のピザである。それが中部トスカーナを経て、使う粉が硬質から軟質小麦粉に変わることで、いっそうふんわりした生地になった。上にモッツァレッラチーズが載って、"ピッツァ・アル・ターリオ"と呼ばれ、そして北のミラノに来て、さらに磨きがかかり、よりソフトでふっくらした切り売りピザとなった。
近年、毎年のようにミラノ市内に新店舗をオープンしているのが、創業1953年の「スポンティーニ」である。今、なぜ切り売りピザがウケているのだろうか?
「シンプルで軽くて食べやすく、今の時代にぴったり。子供からお年寄りまで、男女問わず、一緒に楽しめ、しかも安い」とは、3代目オーナーのマッシモ・インノチェンティ氏。また、以前はリーズナブルなため、主に学生や肉体労働者に好まれるものだったが、今は幅広く愛され、不況にも強いと力説する。
しかも驚くべきは、「スポンティーニ」の切り売りピザのラインナップは、マルゲリータのみ。トマトとオレガノとアンチョビ、その一面を覆う真っ白なモッツァレッラチーズで作る主力商品・マルゲリータで一本勝負というわけだ。また、イタリアのピザ屋では、最後にエスプレッソで締めるのが一般的だが、同店では提供していない。専門分野以外のものはあえて排除し、あくまで自店の看板商品にのみこだわることが、スポンティーニの創業当時からの変わらぬ姿勢である。一般的にイタリア人はカフェタイムが長いことから、客席稼働率上、食後のコーヒーはよそのバールでお願いしたいというのが、お店の本音ともいえよう。
「ミラノのように常に新しいものを生み出さなければならない街で、当店は昔からのスタイルを頑に守る。それが特徴となり、むしろ斬新で他店とは違う明確なメッセージとなっています」。
昔からのスタイルとはいえ、主力商品のピザは、どれも時代に添うよう、生地の塩分配合率を微調整するなど、常にブラッシュアップし続けている。また、各素材についても、トマトは中部エミリア地方から酸味の少ないものを仕入れ、モッツァレッラチーズは近郊の農場から毎日フレッシュなものを仕入れるなど、食材調達への努力も惜しみなく続けている。「スポンティーニ」がピザというシンプルなメニューに高いクオリティを追求しながら、安さを維持し続けているのが、人々を引き付ける最大の理由だろう。
2012年にオープンする新店の準備も整い、ミラノ市内にあと2店舗を増やす勢いの「スポンティーニ」。さらに他の街での出店計画も進んでいる。
スポンティーニ通り店/Via Gaspare Spontini,4 20100 Milano
チェニージオ通り店/Via Cenisio,37 20154 Milano
客単価
8~10ユーロ
営業時間
月曜~金曜 11:45~14:30 18:00~23:30
土曜 11:45~14:30 18:00~24:00
日曜 11:45~14:30 18:00~23:00
定休日
なし
www.pizzeriaspontini.it
取材・原稿/須山雄子
写真/仁木岳彦
※通貨レート:
2011年12月26日現在1ユーロ=約101円で計算