Vol.158
日本から世界に羽ばたき、様々な国で親しまれるようになった寿司。日本の伝統を守った本格的なものを提供している店もあるが、それぞれの国の食文化に合わせてアレンジされているものも多い。そうした料理に対して、「そんなものは寿司ではない」と斬り捨てるのは簡単。だが、日本人が気づかなかった“新しいおいしさ”を発見できるかもしれない。
アメリカのシアトルとラスベガスの事例を取り上げた前編に続き、後編ではカナダの「スシ・タコス」「スシ・ピザ」といった創作メニューと、ルーマニアの「スシ・デザート」などを紹介する。
寿司をタコスやピザなどにアレンジ
2000年、カナダのケベック州に1号店をオープンして以来、カナダ国内140カ所以上にフランチャイズ展開する「Sushi Shop(スシ ショップ)」は、「カナダ人が好む寿司」を知るには最適の店といえる。そのなかの一つ、首都オタワ郊外の住宅地のショッピングモール内にあるサウスキーズ店は、2012年にオープン。20~40代を中心に、カップルやファミリーなどを集客している。
メニューには王道の握り寿司もあるが、売りはなんと言っても創作寿司。ヘルシーなイメージの強い寿司を、味にバリエーションをつけつつより見た目でも楽しんでもらいたいと開発した。その一つが輪切りにした直径3~4cmの巻き寿司の上に様々な具材をのせた「ブロッサム」だ。バリエーションは全部で10種類。特に人気の高い「フレーム」(5個7.95ドル=約704円)は、その名のとおり「炎」をイメージさせるビジュアル。ロブスターとカニ、マンゴー、アボカド、レタスを、チリパウダー入りのマヨネーズで和え、海苔ではなくライスペーパーで巻く。その上に千切りにしてカリッと揚げたサツマイモをのせ、仕上げにとびこをトッピング。甲殻類やとびこの魚介系の風味と、マンゴーやサツマイモの甘み、さらにピリ辛マヨネーズの刺激が絶妙に絡み合う。ほかにも、「よりヘルシーなメニューを」という狙いから、ご飯を使用せずにカニやアボカドなどをライスペーパーで巻いた「カリプソ」(5個、13.95ドル=約1,236円)も高い人気を誇っている。
同じく、高い人気を誇るのが「スシ・タコス」。トルティーヤの代わりにカリッと揚げたワンタンの皮を用いて、刺身などをはさんだメニュー。種類は3つで、なかでも「サーモン・タコス」(2個6.95ドル=約616円、3個8.95ドル=約793円)が一番人気。アボカドやレタス、コリアンダー、ネギなどの上に、さいの目切りにした生サーモンをトッピング。揚げワンタンと野菜、サーモンという異なる食感のハーモニーが楽しめる。ポン酢、ローストガーリック、ピリ辛マヨネーズ、ハラペーニョなどの調味料で味付けしてあり、しょうゆをつけずに食べる。
さらに斬新なメニューが「スシ・ピザ」だ。ピザ生地の代わりに、チーズを混ぜたご飯を直径12cmくらいに広げて揚げたものを使っている。全4種類のうちの一つ「ロブスターと仲間たち」(10.95ドル=約970円)は、ロブスター、エビ、カニを贅沢に乗せてマンゴーをトッピング。ピリ辛マヨネーズとチーズの風味がまろやかで、こちらもしょうゆをつけないのがスタンダードだ。
そのほかにも、砂糖などで甘く炊いた白米と新鮮なフルーツをライスペーパーでくるんだ「スシ・デザート」(2個、3.5ドル=約310円~)や、海苔の代わりに湯葉を使った「湯葉巻き」(4個、4.95ドル=約439円~)など、ユニークなメニューが多数。来店客には若い人たちが多く、味が濃いものを好み、新しいもの好きな傾向があるため、彼らのニーズに合わせて次々と寿司のニュースタイルが誕生しているのかもしれない。
2210 Bank Street, Local #120、Ottawa, Ontario, CANADA
http://www.sushishop.com/en
バナナとチョコレートで作るルーマニアの「デザート寿司」
ルーマニアの首都ブカレスト北部の高級住宅街を走るパリス通り。各国の大使館も多いこの通り沿いに店を構えるのが、2016年2月にルーマニア人オーナーが開いた「寿司 愛(SUSHI AI)」だ。
メニューのなかでひと際目を引くのが、巻き寿司をアレンジしたデザート寿司「チョコバナナロール」(4個12レイ=約360円)だ。海苔は使わず、酢飯の上にバナナとチョコレートスプレッドをのせて巻き、一口大にカット。上から細かく砕いたピーナッツとさいの目切りにしたオレンジをトッピングし、見た目に華やかさを加えている。バナナとチョコレートの甘みのなかで、酢飯とオレンジの酸味がアクセントとなり、ピーナッツの香ばしさと塩気もしっかりと効いている。
ルーマニア人は、食後にデザートを食べるケースが多いが、一般的にレストランで提供されるデザートはでき合いのケーキなどがほとんど。そんななかで、「この店でしか食べられないデザートを提供したい」と考えて「チョコバナナロール」を開発した。昔からルーマニアでは、米を牛乳と砂糖で煮込んだ後、冷蔵庫で冷やしてシナモンパウダーを振りかける「オレズ・ク・ラプテ」というデザートが食べられていた。ルーマニア人が、食の嗜好として「甘いご飯」に抵抗を持っていなかったことも、「チョコバナナロール」が受け入れられた理由かもしれない。
また、デザートではない巻き寿司も人気が高い。例えばクリームチーズとサーモン、キュウリを酢飯で巻き、仕上げに刻み青ネギをまぶした「大阪巻き」(4個26レイ=約780円)。サーモンと香りの強い青ネギ、濃厚なクリームチーズがよく合う一品だ。
ほか、特徴的な名前が目を引く「相撲サーモン神風巻き」(4個29レイ=約870円)も人気のメニュー。海外の創作寿司の定番具材である「サーモン&カニカマ&アボカド」を使い、さらにそこに一味唐辛子とマンゴーも加えて巻いており、一味のピリッとした刺激とマンゴーの甘さが癖になる。
主な客層は、周辺の高級住宅街に住む人たちや、大使館関係者などが中心だが、気軽に入れるおしゃれなカフェのような雰囲気のため、最近は若い人の利用も増えている。
具材やタレなど、様々な要素を重ねてハーモニーを楽しむ各国の創作メニュー。新たな「Sushi」のスタイルとして今後も広がりを見せていきそうだ。
Strada Paris 71, Bucharest, ROMANIA
http://aimenu.ro
カナダ 取材・文/バレンタ愛(海外書き人クラブ)
ルーマニア 取材・文/石川寛久(海外書き人クラブ)
※通貨レート 1カナダドル=約88.6円、1レイ=約30円
※価格、営業時間は取材時のものです。予告なく変更される場合がありますのでご注意ください。