アメリカ・ニューヨーク発 屋上農園とレストラン

ニューヨークでは地産地消をし環境負荷の低い生活をする“サスティナブル(持続可能であるさま)であること”がライフスタイルの一部となりつつある。それは飲食店も同じでサスティナブルな店が続々と生まれている。

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Vol.15

日本でも、最近よく使われるようになった“サスティナブル”という言葉。「持続可能であるさま」を表すこの言葉は特に、環境に多大な負荷を与えずに持続が可能な産業や開発のことを指して用いられる。

完璧にコンピュータで管理された植物工場が革命を起こす?!

そしてアメリカ・ニューヨークでは、食品はできるだけ地産地消し、環境負荷の低い生活をすることに人々の関心が集まっており、“サスティナブルであること”がライフスタイルの一部となりつつある。それはレストランも同じで、サスティナブルな人気店が続々と生まれている。

そんな状況下で登場したのが屋上農園だ。都市の中で手つかずのままになっていた屋上は、日照が確保でき、家賃も安い。ごく至近のそんな農園から採れたて野菜がタイムリーに届き、地産地消が実現できるとあって、トレンドに敏感なニューヨークのレストランでは、屋上農園の野菜を使う店が増えている。大都市の中に生まれた農園と、その野菜を使うレストランの広がりをリポートする。

水耕栽培農園は葉野菜系の生産に強いPhoto by Healther Brandon
農園からレストランのテーブルに届くのにわずか数時間というのが魅力Photo by Healther Brandon

ボーリング場の屋上が農園に生まれ変わった!

ニューヨーク・ブルックリンの巨大な倉庫のような2階建てビル。かつてボーリング場があり、打ち捨てられた状態になっていた建物の屋上が、今やコンピュータで完璧に制御された都市型農園として生まれ変わった。ここ「ゴッサム・グリーンズ」(Gotham Greens)は水耕栽培の植物工場だ。

屋上に設置された温室では、様々な葉野菜が一面に育てられている

約1,400平米のスペースはビニールで覆われた巨大な温室となり、レタスやバジルなどの葉野菜が整然と並ぶ様は見る者を圧倒する。水耕栽培の植物工場自体は珍しくないが、屋上にここまで広大な温室を備えたものは他に例がないのではないだろうか。これなら日照も確保できるし、タイムリーに収穫・流通でき、都会ならではの水耕栽培のメリットを十分生かせる。

ゴッサム・グリーンズでは、何よりも作物の品質を大切にしている。そのため、コンピュータ制御を極力進め、サスティナブル(持続可能)であろうとする。例えば水は再循環しながら使用し、害虫駆除ではアブラムシにはテントウムシという具合に農薬ではなく自然の“天敵”を使う。またハウスの外にはソーラーパネルがびっしり敷き詰められ、太陽光発電を行なっている。

設備には相当なコストがかかっているが、流通経費がない分、価格を抑えることができる。今ではニューヨーク市内の高級レストランや食料品店からの注文に生産が追いつかないほどの勢いだという。

日本でも、屋上菜園の動きが見られるが、まだ実験的なものが多い。しかし、今後、複数のレストランが共同出資で、遊休化した工場や倉庫の屋上にこのような都市農園を作るなど、飲食業界の新しいビジネスの形が生まれてくるかもしれない。

電力は太陽光発電を使用。温室の外側にはパネルがびっしり並ぶ
ゴッサム・グリーンズはニューヨーク出身の3人の起業家がつくった革新的企業
ゴッサム・グリーンズ
(Gotham Greens)
810 Humboldt Street Brooklyn, NY
http://gothamgreens.com/

一流シェフも愛する“ニューヨーク産”野菜のチカラ

アメリカのレストランガイド「ザガット・サーベイ」などでも人気を博し、ニューヨーク随一のレストランである「グラマシー・タバーン」(Gramercy Tavern)。そのシェフであるマイケル・アンソニー氏は、ゴッサム・グリーンズの野菜を積極的に使っているという。

屋上農園の新鮮な野菜を使ったサラダ

「地元ニューヨークの屋上農園で採れた野菜が使えるのは本当にありがたいこと。輸送にかかる自然負荷を減らせ、自然資源の維持にもなるから“サスティナブル”ですし、品質も申し分ありません。また安全面でも、害虫管理が徹底されているため、1年中安心して使えます」とアンソニー氏は言う。

現在、同店で使っているゴッサム・グリーンズの野菜は、バターレタス、バジル、水菜、チンゲンサイ、タンポポの葉、トスカナケール(ブラックキャベツ)など、新鮮な生の状態で使うものがほとんどだ。それを活かしたメニューの中で特におすすめなのが、“採れたてバターレタスとリンゴ・洋ナシ・くるみのサラダ ブルーチーズのドレッシング”。収穫して数時間しか経っていないバターレタスの甘みとブルーチーズのハーモニーが絶妙で、人気メニューになっている。

都市の屋上農園は、ハイレベルなシェフたちの要望に応えることで進化し、今後はさらに大きなビジネスになると思われる。日本でも食品の安全がより問われるようになった今、都市のひとつのビジネスとして屋上農園が発展し、そこで作られた野菜たちが注目されるようになるのかもしれない。
次回は、自店の屋上農園で野菜を作るレストランの事例を紹介したい。

アンソニー氏は屋上農園の野菜を絶賛。とりわけ寒い季節には重宝するという
グラマシー・タバーンは2階から成り、1階はややカジュアルな雰囲気

SHOP DATA

グラマシー・タバーン
(Gramercy Tavern)42 East.20th St. NY

営業時間

http://www.gramercytavern.com/

取材・文/栗原伸介
写真/ゴッサム・グリーンズの写真:Ari Burling/Gotham Greens
グラマシー・タバーンの写真:Ellen Silverman

※価格・営業時間は取材時のものです。予告無く変更される場合がありますので、ご注意ください。