英国発 ミートフリーマンデーで飲食店はどう変わる 前編

1週間に1日は地球環境への負荷の高い畜肉を食べない日を作ろうという「ミート・フリー・マンデー」。今イギリスでは、ベジタリアン・レストランやベジタリアン料理がトレンドになっている。

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Vol.39

1週間に1日は、地球環境への負荷の高い畜肉(牛肉や豚肉)を食べない日を作ろうという運動「ミート・フリー・マンデー」。家族全員がベジタリアンであるミュージシャンのポール・マッカートニーが2009年に提唱し、芸術家のオノ・ヨーコ、イギリスの実業家リチャード・ブランソンなど多くの著名人の賛同を得て、イギリスではベジタリアン・レストランで外食をしたり、ベジタリアン料理のレシピを学んだりする人が増えている。ミート・フリー・マンデーによって注目を集めるベジタリアン・レストラン、ベジタリアン料理を2回にわたってリポートする。

ミート・フリー・マンデーの運動は、ポール・マッカートニーとその家族やオノ・ヨーコが中心になり、多くのセレブリティを巻き込んだ
ジュースも搾りたてが飲めるベジタリアン・メニューのビュッフェが大人気
最先端の技術を使ったベジタリアン料理も登場。今までにはない目にも鮮やかなベジタリアン料理が話題となっている

セレブにならって週1日は気軽にベジタリアン

欧米ではベジタリアンであることがセレブの証しとなっている節がある。アメリカ元大統領のビル・クリントン、俳優のブラッド・ピット、ミュージシャンのマドンナなど世界的に影響力をもつセレブリティがベジタリアン、あるいは肉だけでなく卵や乳製品、蜂蜜も食べないビーガン(Vegan)として知られる。

色とりどりの野菜が並ぶ「ティビッツ」のビュッフェ。様々な料理が選べるため、「週に1日のミート・フリー」を気軽に実現するのにぴったり

ポール・マッカートニーが2009年に、「ミート・フリー・マンデー」のメッセージを発表したときも、多くのセレブリティが支持を表明した。その流れが一般消費者にも波及し、イギリスではベジタリアン料理を出す、ベジタリアン・レストランの人気が高まっている。

なかでも「ティビッツ」は、ロンドンの中心地であるピカデリーサーカスの近くにある人気のベジタリアン・レストランだ。カウンターには40種類近くのサラダ、野菜などを使った12種類の温かい料理、5種類のスープが並び、ビーガン向けの料理には「V」のマークがつく。これらの料理をビュッフェ形式で客が皿に入れ、量り売りで提供。朝食、ランチ、ディナーいずれの時間も賑わい、テイクアウトも人気だ。

「ティビッツ」の売りは何と言っても豊富なラインナップのサラダ。ドライビーンズのサラダ、リンゴと豆腐のサラダなど、趣向を凝らしたサラダがそろう。また、搾りたての野菜やフルーツのジュースも販売。「グリーンパワー」「フィットネス」などテーマがラベルに書かれており、そのときの気分や用途に合わせて選べると好評だ。また、同店がモットーとする“高級レストランの雰囲気でファストフードの早さ”も、忙しいロンドンの人たちが週に1日ベジタリアンとして過ごすにはぴったりのようだ。

「ミート・フリー・マンデー」は、ベジタリアンでない人たちも週に1日くらいはベジタリアンとして過ごし、環境に目を向けようというメッセージ。このレストランを訪れる客も、実はほとんどがベジタリアンではない。イギリス全体のミート・フリー商品の売上は、2007年から2012年の5年間で20%伸びており、その広がりが表れている。

おいしく、質の高いベジタリアン料理が好評。「ミート・フリー・マンデー」が拡大しているのも、料理の質の高さがひとつの要因といえる
「ティビッツ」のビュッフェで人気のメニュー、米と野菜だけで作った「ベジタブル・ジャンバラヤ」
ティビッツ(Tibits)
http://www.tibits.co.uk/e/
ビュッフェスタイルでビーガン、ベジタリアンに対応。
ランチ 1.95ポンド(約280円)/100g、ディナー 2.15ポンド(約308円)/100g

ミート・フリー・マンデーの広がりでベジタリアン料理が進化

ミート・フリー・マンデーの運動をきっかけに注目されるようになったベジタリアン料理。今までベジタリアン料理と言えば、素材そのものを重視し、あまり手を加えずに食す料理が主流で、禁欲的なイメージもあったが、注目が高まるにつれ、その料理はより先進的でファッショナブルなものへと進化している。

「ビストロ1847」の人気料理、ビアバターのハルミチーズ、ポテトとエンドウ豆添え 11ポンド(約1,577円)

例えば、ロンドンに2009年にオープンし、斬新な料理で人気を集めるベジタリアン・レストラン「ビストロ1847」。ここで提供されている白身魚に見立てたハルミチーズ(羊乳から作られたチーズ)をビアバター(ビールを混ぜたフリットの衣)で揚げた料理は、フィッシュ・アンド・チップスへのオマージュのようだ。こういったウイットに富み、完成度も高いメニューがベジタリアンだけでなく、グルメな客たちをもうならせている。

「ビストロ1847」のメニューは、先鋭的な料理で「世界のベストレストラン50」で2010年から3年連続1位を守り続けるデンマーク・コペンハーゲンの「ノーマ」で働いた経験を持つシェフ、ウェンディ・スウェットナム氏が開発に関わった(ノーマについては、「北欧料理の新潮流ニューノルディック・キュイジーヌ 前編」を参照)。8歳からベジタリアンだったいう彼女は、2012年に「ビストロ1847」を退き、自らのベジタリアン・サパークラブ(自宅などで開催する会員制夕食クラブ)「ウェンディーズハウス・サパークラブ」をオープン。こちらも人気となっている。

「ウェンディーズハウス・サパークラブ」は、コース料理が30ポンド(約4,300円)。例えば、ある日のメイン料理はセロリアック(せり科の根菜)のロトロ(巻物)。オーブンで焼いたセロリアックの生地に、へーゼルナッツとセージで作った詰め物を入れ、肉などを使わずにコクを加えている。「ノーマ」で学んだ洗練された調理技術と野菜に対する深い知識で、グルメな“週1回のベジタリアン”たちの心をがっちりとつかんでいる。また、同店では、フェイスブックなどのソーシャルメディアで情報を発信し、それを通じて流行に敏感で、ミートフリーに対して似た価値観を持つ客たちが集まっている。ひとつのテーブルを囲んで会話しながら、食事をする交流の場としても人気のようだ。

また、最先端の分子料理(素材を分子単位まで、物理的・化学的に解析し、結合させる料理)の技術を使ったベジタリアン料理も生まれている。現在フリーランスで、書籍の出版やTV出演などでも活躍する弱冠28歳のシェフ、エディ・シェパード氏は、「アンチグリル」という、素材を瞬間凍結させる器具や液体窒素などを自在に使い、アートのように美しいベジタリアン料理を作り、そのレシピと写真を自身のHPやブログで公開している。その美しいとも言えるメニューの数々は、ベジタリアン料理のイメージを大きく変え、イギリス中に新しい可能性を示している。

これら若手シェフたちのイノベーションによって、ベジタリアン料理はファッショナブルなものとなり、ミート・フリー・マンデーのムーブメントの裾野はさらに広がっている。
次回はイギリスを離れ、アメリカ、そして世界へ広がりつつあるこのムーブメントをお伝えする。

分子料理の技術を使いベジタリアン料理のイメージを革新するエディ・シェパード氏
ベジタリアン料理でも様々な表現ができることを示す、シェパード氏のブドウを使ったアミューズ。分子料理の技術でブドウ果汁をガラスのように細工する
ビストロ1847(Bisro 1847)
http://bistro1847.com/
スターター5ポンド(約717円)、メイン11ポンド(約1,577円)、デザート5ポンド(約717円)
ランチはメインをひとつ選び、グランワイン付きで10ポンド(約1,434円)
ウェンディーズハウス・サパークラブ(Wendy's House Supper Club)
http://wendyshousesupperclub.co.uk
ディナーのみの営業でビーガン料理を提供。ホームページで予約してチケットを購入する
エディ・シェパード氏のホームページ
http://www.veggiechef.co.uk/

取材・文/栗原伸介

※通貨レート 1ポンド=143.4円

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