Vol.38
客数減のときに“引き算”をしたら、さらに客数減に拍車がかかる
店の売上が落ちてきたとき、その対策として打つ手は、そのほとんどが悪手(あくしゅ。悪い手)です。たいてい、店主は次のような手を打ちます。
- 原価率を削る(値上げをする。量を減らす)。
- 人を減らす。
- 給料を減らす。
- 消耗品・備品をカットする。
- 追加投資を止める。
これらは、すべて店の“死期”を早めるだけなのですが、目先の出費を減らすために、この方法をとってしまうのです。客数が落ち、売上が下がっているというのは、店の人気が下落しているということですから、本当ならば「価値の引き上げ」をして、人気を取り戻さなければならないはずですが、「貧すれば鈍す」で、コストカットに向かってしまいます。
「価値の引き上げ」とは、食材の質を上げて看板メニューをよりおいしくすること、量目を増やすこと、価格を下げること、調理人の技術レベルを上げること、サービス要員を増やしてサービスの質を高めること、などが考えられます。しかし、これは全部コストプッシュにつながることばかりです。ただ、無い袖は振れませんから、今回はやれることに絞って話をしたいと思います。
まず確認しておきます。価格を下げて客数を増やそうと考える経営者がいますが、これは悪手です。人気が下がっているときに価格を下げても、客数は上がらず、客単価を下げるだけで、ジリ貧に拍車がかかるだけです。では値上げをする?これもいけません。単純な値上げはさらに客離れを促進させます。
ボリュームアップして価格は据え置き、これはアリです。ガルニ(付け合わせ)を良質なものに変えるという方法もあります。立て直しの王道は「素材の質アップ+技術力アップ」ですが、コストがかかるのでなかなか踏み込めません。単純なボリュームアップでもコストプッシュの要因になりますが、きわめてわかりやすい「価値の引き上げ」としてアピールすることができます。
客単価は上げ、原価は下げる
結論から言いますと、メニューを絞り込み、看板商品を磨き込む。これが最高のジリ貧脱出策です。しかし、言うは易しでこれは至難の業です。
「切り捨てるメニュー」の対象は、
- 売れていない。
- 手間がかかる(かかり過ぎる)。
仮に、1日5つ売れているメニューだとすると、なかなか切れないものです。しかし、そのメニューをカットすることで、主力メニューにエネルギーが集中し、きちっとした調理がなされることで、素材を変えなくても主力メニューのレベルは上がります。そして提供時間は早くなります。絞り込みのメリットは、売れ筋が限定されることで、看板商品にますます磨きがかかり、さらに売れ筋の集中化が進むことです。この連載で何度も言ってきましたが、メニューの数と客数とは関係はありません。強い看板メニューがあれば、メニューを減らした方が客数は増えます。
これまで言ってきたことと矛盾するようですが、客単価は上げなければなりません。最良の手を打っても、客数はすぐには上がりません。しかし、客単価は単純な値上げをしなくても、すぐに上がります。その方法は2つです。ひとつは、看板商品群の中に、上位価格品目を投入するのです。カレーにしろ、ラーメンにしろ、パンケーキにしろ、トッピングを変えることで高額商品が作れます。スペシャルメニューや季節限定メニューとして、いろいろなメニューを考えられます。これらのメニューは、看板メニューよりも「ちょっと上」の価格に設定することがポイントです。
もうひとつは、看板メニューに連動するサイドメニューの強化です。「これは必ず注文するよな」という強力なサイドメニューをどれだけ持っているかが、店の強さを表す指標になります。このときに大事なことは、原価率を降下させるメニュー開発をすることです。
看板ジャンルの上位価格メニューの投入、そして強いサイドメニューを持つ。この2つの方針を貫くことで、客単価は確実に上がります。しかしこれも、看板メニューの質のアップとセットになっていなければなりません。
整理してみましょう。
- 看板商品の価格引き下げはやってはいけない。
- メニューを絞り込む。
- 新商品とサイドメニューの開発で、客単価は上がる。
- 原価率は下げる。
以上です。
価値を引き上げなければ、お客さまは戻ってきません。当たり前のことですね。