2017/03/31 繁盛の黄金律

メニューの絞り込みをしなければ、「時短」時代は生き残れない

メニューの絞り込みをしなければ、「時短」時代は生き残れない -チェーングループによる、営業時間短縮の発表が相次いでます。そのほとんどが深夜営業のカットです。居酒屋でもその動きは顕著です。

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Vol.67

「売れる時間にメチャクチャ売れる」店を目指す

チェーングループによる、営業時間短縮の発表が相次いでます。そのほとんどが、深夜営業のカットです。居酒屋でも、22時過ぎのお客が極度に減って、十分な売上を確保できず、利益が出ない時間帯になってしまいました。深夜はスタッフの時給が跳ね上がりますし、やればやるほど赤字が膨らむことになります。居酒屋チェーンも、「時短」に向かっています。かくして、チェーングループにとっては、「時短」は切迫した課題になってしまったわけです。

高齢化社会というのは、人口に占める老人の比率が高まることですから、深夜どころか、夜の時間の集客力が弱くなるのは当然のことです。そのかわり、朝は集客力が高まっています。高齢者は早起きですからね。朝のファミリーレストランや郊外型喫茶店(コメダ珈琲店や星乃珈琲店など)に行ってみてください。高齢者ばかりです(私もその1人ですが)。おひとり様、夫婦はもちろん、孫連れのお客もいます。この老人たちも、30年前までは、デニーズやジョナサンなどの夜の常連客だったのです。隔世の感があります。

外食業にとって、「時短」は悪いことではありません。なぜならば、短くなった営業時間で、これまでと同じように売上を上げなければならなくなってきたからです。商売にひとつの制約が課せられたわけです。短時間にメチャクチャお客をさばき、所定の売上を上げるためには、次の3つの条件を満たす必要があります。

  1. メニューが絞り込まれている。
  2. 「うちの看板はコレだ」という、コア(核)商品がある。
  3. 短時間で多くのお客をさばく、調理オペレーションとサービスの仕組みができている。

まずは、売りとなる商品がはっきりしていることです。看板メニューが明快だということですね。そして、そのメニューに注文が集中しているということです。昔の吉野家がまさにそうでした。メニューは、基本的に朝定食と牛丼の2つだけ。提供は早く、客席回転率が上がり、おまけにメニューの質も上がるのです。よく売れると、品質のバラつきがなくなります。いいことずくめなのです。

しかし、チェーングループの多くは営業時間を延ばしてダラダラとお客を呼び込み、また、メニューの拡大をし続けていったのです。これでもそこそこの利益が出ていたからよかったのですが、それがいよいよ立ち行かなくなってきました。

チェーングループが去った後は、チャンスがいっぱい

商売というものは、制約と競争によって強くなるものです。スペースが狭い、価格の上限が決まっている、営業時間が短い。さらに、ライバルがご近所にたくさんいる。こんな条件下であったなら、何か一品を磨き上げて強い商品を仕立てあげるよりほかに、生きる道はなくなります。そして、限定された時間内に、いかに効率的に売るか。そのために頭をしぼります。「時短」時代の到来は外食業において、それぞれの店が“強い店”になっていくための契機になると、私は考えています。

もうひとつ、多くのチェーングループが深夜営業から撤退していったら、その後はどうなるでしょうか。夜や、深夜の外食市場は確かに縮小していますが、それでも消えたわけではなく、厳然として存在しています。その市場がガラ空きになっていくということですから、チャンスではありませんか。

こういうときに、今まで存在していなかったような新しい商売が生まれるのです。それは、クイックサービスのレストランかもしれませんし、新しい形のアルコール主体の店かもしれません。あるいは、テイクアウト主体の店かもしれません。なにしろ、チェーングループという最大勢力の多くが立ち去った市場なのですから、ここでまったく新しい、おもしろい商売を考えることができます。しかしこの場合でも、売りとなる商品が明快であること、メニューが限定されていること、高回転率が期待できること、この3条件がそろっていなければなりません。つまり「何屋」かを明確にしなければなりません。

また、これまでチェーングループがやっていたことを繰り返しても意味がありません。今をときめく「鳥貴族」や「串カツ田中」にしても、はじめは小型のニッチ(隙間)商売から地を固めて、そのフォーマットを守り、鍛えながら、メジャーなチェーンになっていったのです。

彼らの爆発的成長から学ぶことは、

  1. 看板商品を持ち、それの価値を高めていく。
  2. 開発した1つの商売スタイル(業態)に絞り込み、それを鍛え続ける。
  3. 郊外の駅前で(も)できる商売にこだわる。開発した1つの商売スタイル(業態)に絞り込み、それを鍛え続ける。
  4. 目標を明確にして、ブレない。その不動心。

この4つです。

いったん「これ」と決めたら、テコでも動かない強い意志が、新たな“真空市場”の採掘者となるのです。その市場が今、再び広がりはじめています。チャンス到来です。

株式会社エフビー 代表取締役 神山 泉 氏
早稲田大学卒業後、株式会社 柴田書店に入社。「月刊食堂」編集長、同社取締役編集部長を経て、2002年に株式会社エフビーを発足。翌年、食のオピニオン誌「フードビズ」を発刊。35年以上もの間、飲食業界を見続けてきた、業界ウオッチャーの第一人者として知られる。