時代に応じて目まぐるしく変化する飲食業界。経済やマーケットの状況によって、求められるセオリーも変わってくる。当たり前だと思っていたことが、いつの間にか古くなっているケースも多々あるだろう。店作りの基本からトレンド分析まで、よく耳にする20の「常識」にまつわる疑問を、あらためて飲食店経営のプロに聞いた。
飲食店経営20の疑問 01~04
01 メニュー価格は原価から算出する?
原価率至上主義ではなく、お客様の視点に立った需要ベースの価格決定を
材料費などの原価をしっかり把握し、そこに利益を乗せて価格を決定する──。お店全体を見れば、原価率の高いものも低いものもありますが、メニューの値付けは、通常このようにコストベースで行なわれます。ただし、教科書通りの価格決定法にとらわれすぎると、お店自体の魅力が失われるケースも多いので注意が必要です。これからの経営に求められるのは、マーケットの需要ベースで価格を変えていく発想。「原価○円だから価格は…」と一律に算出するのではなく、「自分が客なら、この商品にいくら出すか」という視点です。ここ数年、外食産業は新たな段階を迎えています。とにかく安ければいいという考え方は限界に達し、お客様がTPO(時と場所と場合)に応じて賢くお店を選ぶようになりつつある。そこで重要なのは、原価率というお店側の論理ではなく、お客様が感じるバリュー感だということを忘れてはいけません。
02 FLコストの目安は常に約60%?
FLコストを意識することは重要。ただし数値の一人歩きには要注意
FLコストとは食材費+人件費のこと。飲食店経営において最重要な指標の1つであり、一般的には60%前後が目安とされています。食材費と労働コストを一体的に捉え、日々意識しておくことは大切ですが、60%という数値がいつも正しいとは限りません。質問1のメニュー価格を決めるときと同様、お客様の感じる価値はコストとは無関係。特に経営を軌道に乗せるまでは、FL60%にこだわって魅力のない店作りに陥らないよう、まずはお店の新しい価値を創ることに集中して、店舗全体として最終的に帳尻を合わせるぐらいの計数管理の意識も必要です。
03 人件費は固定費と考える?
お店が利益を生み出すまでは固定費。売上がしっかり出た段階で変動費に
経営のコストは、状況に関わらずかかる固定費(家賃・光熱費など)と、売上高に応じて増減する変動費の2つに分けられます。では、人件費はどう考えるのがベストなのか? 最近は過当競争の中で、景況に応じて労働力もフレキシブルに運用する「人件費の変動費化」という考え方もよく耳にします。店舗がしっかり利益を上げている場合は、従業員の総労働時間やシフトをまめに調整し、少しでも利益を大きくすることに意味があります。一方で、そもそも損益分岐点を割り込んでいる場合は、ただでさえ少ない売上に応じて人件費を変動させると、少ない人員で店を運営することになり、結果サービスが低下し、さらに客離れを招くリスクがあります。ここで重要なのは、経営状態によって2つの発想をうまく使い分けることです。
04 棚卸しは毎月やるべき?
通常は月1ペースが一般的だができれば毎週、毎日でも行なうべき
在庫の数を把握する棚卸しは、経理的に欠かせないだけでなく、それ以外でも様々な面でお店のクオリティアップに繋がります。通常は月1回程度のペースが一般的ですが、少なくとも毎週、可能であれば毎日でも行なう方がよいでしょう。第一のメリットは、日々在庫をカウントすることで、自然とお店の整理整頓がなされること。掃除と同じで、毎日こまめにやれば意外と手間もかかりません。またストックをきちんと把握しておけば、過剰な発注も抑えられます。飲食業の基本は、新鮮な食材を常に売り切ること。在庫回転率をチェックすれば何が出ていないかも一目瞭然ですし、それは不人気メニューの改善にも繋がります。私自身、お店の立て直しを依頼された際は、まず棚卸しを毎日行なって、原価率を安定させることから始めてもらうケースが多々あります。