本格料理×カジュアルな接客。タイ料理と文化を世界へ発信
タイ人の料理人による本格料理とカジュアルな接客。アットホームな雰囲気のタイ料理店を都内に7店舗出店している株式会社SUU・SUU・ CHAIYOO。代表取締役の川口 洋氏は、34歳まで外務省勤務という飲食業では異色の経歴の持ち主だ。起業までの道のり、そしてタイ料理にかける思いについて伺った。
――国際交流、そしてタイ料理に興味を持たれた経緯を教えてください。
大学時代、人生初の海外旅行でニュージーランドを訪れました。飛行機やヒッチハイクした車の中で現地の人たちとコミュニケーションを取るのが本当に楽しくて、そのときのわくわく感をもう一度味わうために、その後もヨーロッパや中東、アフリカなどを旅しました。特に人々がエネルギッシュな中東はとても印象深く、「卒業後はここで働いてみたい」と思いましたね。就職先として外務省を選択したのも、海外勤務をしたかったからです。入省1年後にはその希望が叶い、シリアに3年、オマーンに3年赴任しました。
タイに関心を持ち始めたのは、オマーンの日本大使館に勤務していた頃です。大使館では現地の方々を招いてパーティを開催する機会があるのですが、中東では日本食の食材がそろわないため、日本の百貨店などが出店している国へ買い出しに行きます。あるとき、買い出しを任された僕が向かった先が、タイのバンコクでした。
タイを訪れてまず感じたのが、おだやかで優しい人が非常に多いなぁということでした。現地で食べたタイ料理も味にメリハリがあり、とてもおいしく感じたことを覚えています。しかし、当時はまだ日本でタイ料理店を出店しようとは、まったく考えていませんでした。
――起業を決意して外務省を退職されたのが34歳。不安はなかったのでしょうか?
不安がゼロだったとは言えませんが、昔から自分の責任で判断して行動する方が性に合っていました。事業にタイ料理店の経営を選んだのは、海外に滞在していた頃に感じたタイに対する良い印象が、ふっと頭をよぎったからだと思います。
ただ、それまで飲食店で働いた経験がなかったので、株式会社スパイスロードが運営するタイ料理店「ティーヌン」で修業をさせていただきました。最初はあまりの忙しさに、「大変な世界に飛び込んでしまった」と思ったものです。その後、新橋店で店長をやらせてもらったのですが、オペレーションがまったくうまくいかず、お客様に叱られ、自分の不甲斐なさに、店の近くの公園で人目もはばからず悔し泣きしました。仕事で泣いたのは、外務省時代も含めてこのときが初めてです。
それでも試行錯誤して、自分なりのやり方で頑張っていると、スタッフのチームワークも良くなり、売上もぐんぐん上がっていきました。お店が良い雰囲気で切り盛りされているのを見ていると、飲食業の楽しさを実感できました。
――修業を終えて出店した「クルン・サイアム 自由が丘店」のコンセプトを教えてください。
「旅行に行ったような異国情緒を感じられながらも、アットホームな空間」ですね。タイ人のシェフによる本格的なタイ料理を提供しつつ、肩肘張らないカジュアルな接客サービスをすること。これは現在でも変わっていません。
また、店作りにおいて特に意識しているのは、スタッフ間のチームワークです。繁盛しているお店には独特なオーラが存在します。オーラを作っているのは、モノとヒト。モノは、店舗の店構え、内装、調度品、もちろん料理。ヒトは、お客様、そして、何と言ってもそこで働くスタッフです。スタッフがあうんの呼吸で動き、そこにいらっしゃるお客様も含め、店全体が一体化したように動いている瞬間は、ゾクゾクするような快感です。
そのような一体感が生まれるためには、なによりもまず、お店側の体制が整っていないといけません。体制が整っていない状態でお客様をお迎えすることには、ある種、嫌悪感を覚えます。理想と現実は違いますが、常に現状に満足せず、少しずつでもレベルアップしていきたいと思います。
また、タイ料理の場合、新店舗の立ち上がりから売上が一定の水準に達するまで、ある程度の時間がかかります。売上が低い時も常に繁盛店をイメージして、先手先手の体制作りに努めています。
当社は現在、7店舗を運営していますが、出店の立地条件でもっとも重視しているのは、腰を据えてじっくりと経営できる場所かどうかということ。常連のお客様を増やすには、時間が必要です。そのために賃料などは無理のない範囲に収め、少しずつ街に根づいていく店を作りたいと思っています。従業員もお客様も、誰もが愛着を持てるお店を作るということが当社の信念です。
――タイ人の従業員が多いそうですが、一緒に働くうえで意識されていることは何ですか?
タイ人は明るくて真面目なので、一緒に働きやすい人が多いと思います。ただ、タイでは料理人のステータスが高く、職人気質の人が多いことが特徴です。給与の多寡ではなく、仕事に納得できなければ辞めてしまうこともあるくらいですので、やはり信頼関係が大切です。最近はスタッフの兄弟や親戚、また知人を通じてタイで働いている料理人を紹介される機会が増えています。実際に現地へ行って、試食や面接を行なって採用を決めるのですが、外国である日本に来てもらうわけですから、住居など様々な手配も必要になります。僕はスタッフが何かで困っていたら、文句を言いつつも、ついお節介を焼きたくなります。「家電が動かない」と言われて、駆けつけてみたらコンセントが入っていなかったということもありましたが、信頼関係がなければ何も始まりません。
それから当社では年に2回ほど、全店を休みにしてスタッフの親睦イベントを実施しています。いつも本当に頑張って働いてもらっているので、感謝の気持ちを表したいし、一堂に集まることでチームワークも高まります。これからもこういった取り組みは続けていきたいですね。
――現在、御社が力を入れていることや、今後の目標についてお聞かせください。
実はタイのバンコクに出店したいと考えており、すでに物件の下見も行なっているところです。タイ料理の本場に店を構えれば日本にも良いフィードバックがあると思います。お客様の好奇心もくすぐれるでしょうし、スタッフもタイに店舗があれば、きっと誇らしい気持ちになれるでしょう。私自身、海外で働くのが大好きなので、ほかの国にも進出したいですね。
現在は、店舗数の増加に合わせて本部体制の構築も進めているところです。すべてをマニュアル化するわけではありませんが、統括店長や料理人のリーダーを決めて、各店舗で提供する料理やサービスの安定化を図っています。まだまだ道半ばですが、少しずつ体制を整えていくつもりです。
自分で飲食店を始めてから、タイ料理に対する思いはますます強くなっています。タイ料理は食材が豊富で、いろいろな国の味を柔軟に取り入れて進化し続けているので、毎日食べていても飽きません。だから私は、事業の拡大を通じてタイ料理の魅力をもっと多くの方々に届けていきたいと考えています。それが雇用を生み出すことにもつながり、タイ文化を世界に発信することにもなる。そんな思いで日々活動しています。
Profile
かわぐち よう
1969年
兵庫県宝塚生まれ
1988年
大学在学中にニュージーランドを旅行し、異文化交流の楽しさに目覚める
1992年
神戸大学卒業後は海外勤務を希望して、外務省に入省。6年間の中東赴任を経験
2003年
外務省を退職。海外勤務を通じて魅力を感じていたタイ料理の店を開くため、飲食店で修行を始める
2004年
独立し、東京・自由が丘にタイ料理店「クルン・サイアム」を出店
Company Data
会 社 名
株式会社SUU・SUU・CHAIYOO
所 在 地
東京都目黒区緑が丘2-17-21
シャンブール自由が丘203
店 舗 名
「タイの食卓 クルン・サイアム 自由が丘店」「タイの食卓 クルン・サイアム 吉祥寺店」「タイの食卓 クルン・サイアム 六本木店」「タイの食卓 クルン・サイアム 中目黒店」「タイの食卓クルン・サイアム×アティック×」「タイの食卓 オールド タイランド 飯田橋店」「タイの食卓 オールド タイランド 新橋店」