笑い声があふれる店を作り続け、地域の活性化に貢献したい
「オベーション」は、「熱烈な歓迎」や「拍手喝采」を意味する。その名の通り、様々な人の笑い声があふれる店を作ることが、株式会社オベーションプラス代表取締役、梅村雄士氏の変わらぬ願いだ。2005年に独立後、この業界の楽しさも厳しさも味わい、そして、現在は10店舗を経営。今年すでに2店舗をオープンさせた。成長の理由とその根底にある想いを梅村氏に伺った。
――大学を卒業後、学生時代を過ごした神戸の飲食店で働き始めたそうですね。
大学を卒業した2001年が就職難だったということもありますが、それ以上に、自分が会社勤めをする姿が想像できなかった、というのが本音です。熊本の実家が旅館を営んでいたこと、親戚にも自営業が多かったことなど、小さい頃から商売が身近にあったことが関係しているのでしょう。自分もいつかは起業したいという気持ちがありました。でも、今の自分に何ができるわけでもない。だったらまずは経験を積もうと、当時神戸で流行っていた創作居酒屋で、2年半ほど働きました。その後、学生時代にアルバイトをしていた飲食店の方から「独立するから来ないか」と声をかけられ、その方の飲食店で正社員となり、店長を務めました。
大きな転機は、2005年です。店長として順調に売上を伸ばしていた頃、ある知人が地下1階と地下2階の物件を借りることになり、「地下1階を使って店をやってみないか」と言われたのです。当時は、日々の生活がやっとという状態でしたが、「やってみたい」という気持ちを抑えることができず、独立に踏み切りました。
――大きな決断ですよね。リスクもある中で、何がご自分の背中を押したのですか?
独立への想いももちろんですが、大学時代の友人たちが就職し、順調にステップアップしていくなかで、「このままだと同じ目線で話せなくなる」という焦りに近い気持ちもありました。そして何より一番大きかったのは、飲食店という商売が根本的に好きだったということ。だから、独立を決意してからは、内装は自らペンキを塗ったり、陶芸家である友人宅から安く皿を譲ってもらったり、さらに家業の旅館の屋号をとって「だいにんぐ松の家」という名をつけたりと、まさに当時の私自身のやりたいことを詰め込んだ店になりました。
しかし、それで順風満帆にいったかというと、そんなことはありません。むしろ、そこから様々な苦労がありました。
その後、知人とともに共同経営で「BeardLabo.」という会社を設立するも、思うような成果を上げられず、責任を取って辞任。未熟さを痛感しました。その後、人材派遣会社に勤めて労務を学びながら資金を貯め、2009年に前の会社の債務を引き取るかたちであらためて独立。こうして現在のオベーションプラスが生まれたのです。
――再起を果たしたわけですね。その後、すぐに「Bar Salu」をオープンしました。
会社勤めをしていたときから、どうしてもやりたい業態がありました。バール業態です。店とお客様の距離が近く、いつも人で賑わい、まるでひとつのコミュニティとなっているような店。まさに、社名である「オベーション」のイメージです。その発想から、「Bar」とイタリア語で乾杯を意味する「salute(サルーテ)」を合わせて、「Bar Salu(バルザル)」が生まれたのです。
とはいえ、当時はまだ今ほどバール業態が認知されていたわけではありません。そこでまずは、地代のそれほど高くない神戸の六甲道に、13坪34席というスペースでテスト的に出店しました。
このとき、私が一番大切にしたことは「バランス」です。おしゃれな店に行きたければカフェがあるし、完璧に行き届いた接客を受けたければホテルの高級レストランに行けばいい。では、バールでしかできないことは何か?そのときに浮かんだのが、“週に2度も3度も通える店”ということでした。ならば私たちが目指すべきは、いつ来ても楽しく過ごせる店。価格、店の雰囲気、人と店との距離感、すべてのバランスを考えながら、たまに100点を取る店よりも常に70~80点が取れる店を目指す。この発想から、店内にミラーボールを付けたり、壁にワインラベルを貼ったりといった、いい意味での遊び心ある店が生まれました。リーズナブルな価格帯の料理やドリンクなども、気軽さとバランスを追求して生まれたものです。
ただ、店舗展開をしていくうえで、同じ店ではいつかは飽きられてしまいます。どのお店に行ってもお客様に、「この街に今までなかった!」と新鮮な気持ちを感じていただけるよう、各店舗で個性を出したいと思いました。そこでどの店にも共通するグランドメニューに加え、六甲道店では「鉄板焼」、2店舗目の三宮店では「串揚げ」、ほかにも「牛串」「炉端」「囲炉裏(いろり)焼」というように、各店舗独自のメニューを用意しています。
――経営が軌道に乗っている現在、御社が一番注力していることは何ですか?
2つあります。1つは「仕入れの一括化」。もう1つが、「社内環境の向上」です。前者については、原材料コストの削減と品質の安定化が目的です。特に“気軽さ”を売りにするバル業態において、コストパフォーマンスは非常に重要な要素。すでに毎日使うトマトソースなどについては、取り組みをスタートしていますが、今後は調味料メーカーとも相談し、調味料やスープなどのプライベートブランド化を進めていきます。
そして、「社内環境の向上」については、これまでなかなか手をつけられなかった部分です。具体的な施策としては、スタッフの評価基準を統一し、長期のキャリアプランを描けるようにしたいと考えています。また、社員旅行などレクリエーションの要素もモチベーションアップには重要です。その第一段階として、当社の期初である6月、従業員への慰労も兼ねて社内キックオフイベントを初開催しました。全店舗を休日にしたのも、会社が始まって以来初めてでしたが、社員やアルバイトの表彰を通じて、彼らの頑張りを労うこともできましたし、個人的にも独立してから走り続けてきた自分に、一つの区切りをつけることができ、非常に良いイベントになったと感じています。
――確実に組織基盤を整えつつあります。今後の展望はどのようにお考えですか?
今期の目標は「Bar Salu」を含み直営4店舗、FC1店舗の出店のほか、大箱業態としてワイン酒場「ピグボッテ」もさらに磨きをかけていきたいと考えています。そのために大切なのは、やはりQSC(クオリティー・サービス・クレンリネス)を磨くこと。遊び心も大切ですが、一方で店舗展開をしながら安定経営を行なうために、当たり前のことを当たり前にできる組織にしたいと思っています。特にバール業態は今のブームが去った後も、しっかり勝てる状態にしておきたい。
この業界は、すぐにお客様の反応が得られます。おいしい、楽しい、という反応も、その逆の反応もすぐに届く。だから、今の私がもし若い頃の自分と同じような境遇の方に何かを伝えるとしたら、「この仕事は厳しいぞ」と言います。ただ、厳しさの反面、喜びもたくさんある。お客様に感謝されて、私は人として成長できた。これからも、気軽に通える楽しい店を作り続け、お客様や地域の活性化に貢献していきたい。従業員一丸となって、この目標に向かって進んでいきます。
Profile
うめむら ゆうじ
1978年
熊本県水俣市生まれ
2001年
大学を卒業後、神戸の創作居酒屋で2年半働く。その後、知人の経営する創作居酒屋で店長を務める
2005年
有限会社 Beard Labo.を設立。神戸・三宮で創作居酒屋をオープン。しかしその後共同経営に失敗し、一度人材派遣会社で労務を学んだ後、再び独立して、BeardLabo.の債務を引き取る
2009年
社名を「オベーション プラス」に変更
Company Data
会 社 名
株式会社オベーション プラス
所 在 地
兵庫県神戸市中央区北長狭2-6-6
ヤナセビル302
店 舗 名
「LIBERaL oriente」
「RISERVA」
「ピグボッテ梅田店」「ピグボッテ北浜店」
「Bar Salu 六甲道店」「Bar Salu 三宮店」
「Bar Salu 天満店」「Bar Salu 東加古川店」
「Bar Salu OS店」「Bar Salu 福島店」