映画『MR.LONG/ミスター・ロン』 - エンタメレストラン -

2017/12/01

エンタメレストラン

Vol.150
MR.LONG/ミスター・ロン
2017年12月16日 新宿武蔵野館ほか全国順次公開
http://mr-long.jp/
© 2017 LiVEMAX FILM/HIGH BLOW CINEMA
【イントロ&ストーリー】
第67回ベルリン国際映画祭コンペティション部門に出品され、スタンディングオベーションで迎えられたSABU監督の最新作。台湾から日本にやってきた凄腕の殺し屋“ロン”は任務に失敗。逃亡先の村人たちとの触れ合いを通じて、少しずつ人間らしさを取り戻していくハートウォーミング・バイオレンス・ストーリー。エドワード・ヤン監督『牯嶺街少年殺人事件』(1991年)で人気を博し、『グリーン・デスティニー』(2000年)や『レッド・クリフ』(2008年)などに出演したアジア圏の大スター、チャン・チェンが主人公を演じる。
★凄腕のナイフ使いのロン(チャン・チェン)は、東京・六本木にいる台湾マフィアの殺害を依頼されて来日したが失敗。逃げ込んだ北関東の田舎町で、少年ジュン(バイ・ルンイン)やその母で台湾人のリリー(イレブン・ヤオ)と出会う。言葉が通じないなか、世話好きの住民の人情に触れるうち、牛肉麺の屋台で腕を振るうことになる。ナイフを包丁に持ち替えたロンの屋台は大繁盛するが、やがてそこにヤクザの手が迫って…。
【キャスト&スタッフ】
出演:チャン・チェン(張震)、青柳翔、イレブン・ヤオ(姚以緹)、バイ・ルンイン(白潤音)ほか
監督・脚本:SABU
音楽:松本淳一

日本人監督と台湾のスターがフレッシュな“殺し屋像”を造形
凄腕のナイフ使いが屋台を開業する、一風変わったハードボイルド

 人は見かけによらぬもの。外見からは想像もつかない趣味や特技を持った人物は、映画の世界でもたくさん描かれてきた。そして主人公の持つ「意外な一面」は、ときに物語を予想外の方向へ展開させる原動力にもなる。SABU監督の最新作『MR.LONG/ミスター・ロン』も、そんな系譜に連なる1本。凄腕のナイフ使いとして恐れられる殺し屋が、実は台湾料理の名手で、その腕前が彼を思わぬ場所へと導いていくという、一風変わったお話だ。

 主演はエドワード・ヤン監督の『牯嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件』(1991年)で鮮烈なデビューを飾り、『グリーン・デスティニー』(2000年)や『レッドクリフ』(2008~2009年)、『グランド・マスター』(2013年)などにも出演した中華圏のスター、チャン・チェン(張震)。ネオンが煌めく台湾・高雄の暗黒街で、黒衣に身を包んだ主人公が噂話に興じていたチンピラ6人を瞬時に始末するところから、ストーリーは始まる。

 眉毛ひとつ動かさず相手の喉を掻き切るクールさと、流れるような身のこなしは、まさにプロ中のプロといった雰囲気。ところがロンと呼ばれるこの殺し屋、仕事を終えると依頼主のいるレストランに戻って、店の奥に置かれた円卓で黙々と包子(パオズ)を作りだすところがおもしろい。そこには動揺も高揚も一切なし。「ほんの少し外出してきただけ…」と言わんばかりの自然さが、逆に殺し屋としての凄みを感じさせる。ボウルに入った水が、指先に残ったチンピラの血でゆっくりと染まっていく描写も印象的だ。冒頭で、観客に主人公の意外な側面をさりげなく提示する、SABU監督の演出が際立つシーンだろう(今回は脚本も兼任)。

 さて、舞台は変わって東京・六本木。ロンは、売り出し中の台湾マフィアの暗殺を依頼されるが、思わぬハプニングで失敗。彼と組んでいる日本のヤクザに捕らえられてしまう。さんざん痛めつけられるものの、とどめを刺される寸前に隙を突いて逃亡。たまたま見つけたトラックの荷台に飛び乗り、北関東の田舎町へ辿り着く。本作『MR.LONG/ミスター・ロン』がユニークなのはここからで、なんとか廃屋に潜り込んだ殺し屋がボロボロの鍋とお玉を発見し、廃材で火をおこして料理を始めてしまうのだ。刺された腹をさすりつつ、鋭い目付きのまま、ありあわせの野菜でスープを作る。その対比がいかにもおかしく、ハードボイルドタッチだった画面に、次第にユーモアの香りが立ちこめてくる。

 やがておいしそうな匂いに惹かれ、近隣住民がロンに興味を抱き始める。そこからストーリーはあらぬ方向へと走り始め、殺し屋という本職を知らない善良な人々は彼を強引に家に招き入れ、「ホームパーティのために料理を作ってほしい」と頼み込むのだ。戸惑いながらも腕前を披露すると、感激した住民たちは「屋台を出した方がいい」と勝手に盛り上がり、すべてのお膳立てをしてくれる。その田舎町には、ワケありの美しい台湾人女性と小さな息子が住んでいて、ナイフを包丁に持ち替えたロンは一緒に、牛肉麺(ニュウロウミェン)の屋台を始めることになる。これほど荒唐無稽な展開はない。

 でも、人々とのふれあいを通じて、ポーカーフェイスだったロンに少しずつ表情が宿っていくプロセスには、独特のチャーミングさと味わいがある。劇中、麺棒で生地を伸ばし、細打ちにしていくチャン・チェンの手際もなかなかのもの。あまりに強引な展開に思わずツッコミたくなる瞬間もあるものの、日本と台湾のこのコンビ、ラストに用意されたカタルシスも含めて、観客の記憶に残るフレッシュな殺し屋像を造形したと言えそうだ。

Text by 大谷隆之(ライター)
「キネマ旬報」「ナタリー」「ミュージック・マガジン」「東京人」などで音楽、映画について幅広く執筆。編集を担当した『伝説の映画美術監督たち×種田陽平』がスペースシャワーブックスより発売中。
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