コースのメイン料理を飾ったり、アラカルトの看板料理であったり、見た目のインパクトやそのボリュームで、今も昔も主役を張るのが「肉料理」。近年、業態や業種の細分化が進むにつれて、「肉」の提供スタイルも多様に進化。2店舗の素材や組み合わせ、調理法のこだわりなどを通して、「人気の肉料理」の秘密を探った。
客の9割が注文する圧倒的支持率! テイクアウトもファンを拡大
【福岡・西鉄福岡】ぢどり屋 大橋店
鮮度にこだわった仕入れ。素材のよさでシンプルに勝負
最寄駅から近く、バス通りに面した好立地にある鶏料理専門店「ぢどり屋大橋店」。居酒屋風の外観と仕切りのないアットホームな雰囲気が幅広い層に愛され、地元住民を中心に賑わっている。客の9割が注文するという「ももの炭火焼」と「特製ひなどりの唐揚げ」は、オープン以来の人気メニュー。なかには週1回食べに来る常連もいる。
料理を作るのは大将の森 優太氏。カウンターの向こうで、網から数十センチの炎をあげながら焼く「ももの炭火焼」は、焼き加減が一番のポイント。「鶏肉を網に叩くようにして、脂を炭に落としながら焼くんです。肉が黒くなっているのは炭の香りが移っている証拠。肉の鮮度がいいのでレアで提供していますが、焼き加減はお客様の好みにも応じます」と森氏。鶏肉は、信頼をおく福岡の業者から朝引きのもも肉を中心に仕入れている。「仕入れ先は鮮度を考えて福岡に限定しています。もも肉を中心にしているのは脂身も多く、鶏本来のおいしさがよく伝わるからです。味の良し悪しは脂で決まります」(森氏)。素材がいいのでメニューは焼く、揚げるなどのシンプルなものが多くを占める。また、日替わりや季節料理を置かず、オープン時からほぼ同じメニューで営業しているところにも、味への確かな自信がのぞく。
低温で中までじっくり火を通す「特製ひなどりの唐揚げ」は、鶏の半身をそのまま揚げ、手羽、むね、ももの異なる部位を一度に味わう趣向だ。約500グラムもある肉は、客の前でハサミを入れる。料理の説明をしながら切り分けることで、提供時には客とコミュニケーションを図るのが狙いだ。何気ない会話から生まれる客との交流が、実はリピーター獲得につながっているという。
「ももの炭火焼」と「特製ひなどりの唐揚げ」が、根強い人気を誇る理由はほかにもある。どちらもテイクアウトでも販売し、ほぼ毎日注文が入るのだ。その数は月平均50件を超え、お土産でもらって味を知り、ファンになる人を増やしている。クリスマスになると注文はさらに膨れ上がり、イブの日はこの店の鶏料理を持ち帰るという流れが、常連客の間で定着しつつある。
ファンをつかむ看板メニューはもちろんだが、グループ客への対応にはサイドメニューの充実も欠かせない。その役目を担う料理のひとつが、従業員のまかない飯人気ナンバーワンの「親子丼」だ。特別な調理法を取り入れている訳ではないが、地鶏の旨みを吸った玉子は、記憶に残るおいしさとして好評。食べたことがある人が、初来店の連れに勧める〝客が客を呼ぶ〟サイドメニューになっている。ほかにも、ステーキ風に焼き上げた肉にオリジナルのジャポネソースをかける「トリテキ」や、一日5食程度しか出さないレバーステーキ「レバテキ」もある。いずれも新鮮な鶏肉だからこそ生まれたメニュー。妥協のない素材へのこだわりと、定番とオリジナル性の融合が、集客に結び付いてる。