2024/04/26 繁盛の黄金律

外食業界も価格変動の時代に入っている

飛行機やホテルで行われている、繁忙期と閑散期で価格を変える戦略を「ダイナミックプライシング」といいます。この変動価格の導入が今、外食業界にも迫られていますが、外食業界とダイナミックプライシングは相性がよくないようです。では、時代の変化に合わせてどのように対応したらいいのかをひもといていきます。

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Vol.152

航空業界と宿泊業界で一気に浸透

ダイナミックプライシング、最近よく目にする言葉です。需要と供給の状況に応じて価格を変動させる戦略のことを指します。飛行機やホテルの価格は、繁忙期と閑散期でコロコロ変わります。飛行機などは、倍以上の価格差があったりします。あれがダイナミックプライシングです。

これが今、外食業界にもじわりじわりと浸透し始めているのです。航空業界や宿泊業界では、1980年代からダイナミックプライシングが採用されて、今やビッグデータやAIをフル稼働させて、「稼げる時には目一杯稼ぐ」仕組みを構築しています。

最近ですと、エンターテインメントやスポーツ観戦のチケット販売に盛んに取り入れられています。これで一つの公演や試合の売上を最大化することができるようになりました。外食業界でも浸透しはじめた、と言いましたが、実は外食業界とダイナミックプライシングは、相性がよくありません。

航空、宿泊、エンタメ、スポーツで共通していることは、供給が一定していることです。需要が増えても供給を増やすことができません。たとえば、200人乗りの飛行機に400人のお客様が殺到しても、1便に倍のお客様を乗せることはできません。

それから限界費用が一定していることに注目しなければなりません。限界費用とは、飛行機の例でいえば1人の乗客を目的地に運ぶのも200人の乗客を運ぶのも費用は同じ、ということです。ホテルでも全室フル稼働でも、たった1人のお客様しかいない場合でも、かかる費用は同じです(少しは違いますが)。

それから、参入障壁が高いという共通点があります。お客様が急増したからといって、飛行機やホテルを慌てて作るという訳にはいきません。こういう(つまり、供給と限界費用が一定、参入障壁が高い)業界は、ダイナミックプライシングとの相性が良いのです。ですからどんどんダイナミックプライシングを導入しています。

もう一つ、予約が前提である、という点も見逃してはいけません。繁忙期にはお客様が納得して、通常より高い代金を払ってくれているのです。

外食の周辺業界は、価格変動型になっている

外食業界はどうかというと、だいぶ様子が違ってきます。元々、供給過剰な業界です。競争相手も多い。ですからダイナミックプライシングを安易に導入したら、途端に別の外食にお客様を持っていかれてしまいます。また、参入障壁が低いですから、低価格を打ち出した新しい店(ライバル)が出やすいのです。

でも一番の問題は、限界費用が一定ではない、ということです。1人のお客様と100人のお客様とでは、食材費も人件費もガラリと変わります。つまり、ダイナミックプライシングを受け入れにくい業界なのです。

しかし、居酒屋のハッピーアワーとか、深夜料金なども一種のダイナミックプライシングですね。また、マクドナルドは立地別に価格を変えています。一物一価ではなくなってきています。ファミリーレストランのガストも、立地別に3つの価格パターンを打ち出しています。「家賃と人件費の高いところでは、相応の代金をいただきます」ということです。

外食業界に隣接する業界では、既にダイナミックプライシングを積極的に導入しています。一つは、スポットワーカーの派遣会社です。

タイミーやシェアフルなどがその代表的な会社ですが、働き方の”小間切れ化”現象が急速に進む中、登録者数は年々伸び続けています。当然、人手不足エリアの繁忙期の時給は、跳ね上がります。深夜は働き手が少ないですから、ここも高い時給が支払われます。もうダイナミックプライシングに突入ですね。

もう一つは、宅配業です。曜日、時間、天気などの違いによって、参加者(デリバリーマン)の数は激しく変動します。雨の日などは、注文は激増するのに運んでくれる人が少ないのですから、そのスポットには高給を出さなければ、人が集まりません。

かくして変動価格を導入しないことには、商売そのものが成り立たなくなります。今の日本の外食業界は、隣接業界からダイナミックプライシングへの移行を迫られている状況だ、と言っていいでしょう。

でも、先に述べた”相性の悪さ”は依然として残ります。需要が増えてもそれに合わせて供給も増えてしまうこと。また、需要が増えると限界費用もそれに連ねて増えてしまうこと。一部の高級店、有名店を除いて、お客様は事前予約をして来店してくれるわけではないこと。これがなじまない理由です。

しかし、外食業界もいつまでもなじまない、などと言ってはいられません。近い将来は、外食業界もダイナミックプライシングを戦略として選ばないわけにはいかなくなってくるでしょう。

アメリカの某大手ハンバーガーチェーンでは、AIを活用してデジタルメニューボードのメニュー価格が刻々と変動する形を準備しています。また、天候、気温、周辺エリアの催事の有無、人流変化という変数をシステムに入れて、メニュー構成そのものも変わるメニューボードを作ろうとしています。

これはブランド力のある大手チェーンであるからできることですが、時代の流れはダイナミックプライシングに移行していることは、しっかり直視しておかなければなりません。今まさに、一物一価という商売の原則が崩れつつあるのです。

お客様も、繁忙期の飛行機やホテルの料金が高くなることは「まぁ、当然だわな」と受け入れています。同じチェーンであっても家賃が高い店では、価格が高いのも「仕方がない」と納得してくれています。変動価格を受け入れる素地が、既に消費者の間で出来上がっています。

この時代の変化に合わせて、自店ではどのような変動価格が許されるかを、しっかり見極めて、少しずつ慎重にダイナミックプライシングを導入することが必要になってきました。

しかし、繰り返しますが、外食業界は本来相性が悪いのだということは、肝に銘じておかなければなりません。

株式会社エフビー 代表取締役 神山 泉 氏
早稲田大学卒業後、株式会社 柴田書店に入社。「月刊食堂」編集長、同社取締役編集部長を経て、2002年に株式会社エフビーを発足。翌年、食のオピニオン誌「フードビズ」を発刊。35年以上もの間、飲食業界を見続けてきた、業界ウオッチャーの第一人者として知られる。

■飲食店経営の明日をリードするオピニオン誌「Food Biz」

「Food Biz」の特徴
鍛えられた十分な取材力、現場を見抜く観察力、網羅的な情報力、変化を先取りする予見力、この4つの強みを生かして、外食業に起こっている変化の本質を摘出し、その未来を明確に指し示す“主張のある専門誌”です。表層的なトレンドではなく、外食業に起こっていることの本質を知りたい人にこそ購読をおすすめします。読みたい人に直接お届け!(書店では販売しておりません)

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