会席料理に鳥取産ジビエを使用。試行錯誤を重ね、店の名物に
梅乃井(鳥取・鳥取市)
地元・鳥取の食材にこだわった「郷恩料理」で、県外からも集客
JR鳥取駅から徒歩12分、駅前から伸びる智頭街道の商店街にある「梅乃井」。京都のウナギ料理の老舗「梅の井」からのれん分けする形で1946年に創業し、ウナギ料理の名店として、日常使いからハレの日など祝いの席まで幅広いシーンで地元客に親しまれてきた。2018年からは現店主の宮﨑博士氏が三代目として店を引き継ぎ、ウナギ料理とともに、地元の食材にこだわった会席「郷恩料理」を新たに看板に。県外からの来店も年々増加し、現在では東京、大阪などから「郷恩料理」を目的に訪れる客が約半数を占めている。
郷恩料理の一品として提供して好評なのが、鳥取産のシカやイノシシを使った料理だ。シカ肉は若桜町にある処理施設「わかさ29工房」、イノシシ肉は「わかさ29工房」と、倉吉市にあるイノシシ専門の精肉店「日本猪牧場」から仕入れている。「処理施設での解体・処理のスピードがとても速く、いつ仕入れてもまったく臭みがないため安心して使うことができます」と宮﨑氏は話す。部位は、シカ肉はロースや内・外モモ、モモの間にあるシンタマなど、イノシシ肉はロースやバラが中心だが、ほかにもシカのスネやネックなども含め、さまざまな部位を仕入れて使用している。
肉質が繊細なシカ肉は、炭の遠火で火入れし、やわらかく
シカ肉のロースは、一般的に牛赤身肉と同じような調理が勧められるというが、「シカは牛よりも筋繊維が繊細で肉質がきめ細かく、より上品な香りと味わいがある」と宮﨑氏。一方で、火の入れ方に注意しなければすぐに固くなってしまうとも。そこで炭火を使い、火力の弱い遠火で、20~35分ほど時間をかけてじっくり焼くことで、しっとりとやわらかに仕上げている。
また、肉の下処理の際に取り除いた筋などは、煮込んでだしを取るなど上手く活用。カタなどやや肉質の硬い部位は、細かくミンチにした後、やわらかいバラ肉でくるんで焼くことも。「カタなどは肉質が硬めですが、肉の味は濃い部位。シカのうま味を感じていただきやすいと思います。やわらかい部位と組み合わせることで食感のアクセントにもなるので、使い方次第でとてもよい食材になります」と宮﨑氏は話す。
「郷恩料理」は11,000円と7,700円の2つのコースがあり、それぞれ8~9品で構成されている。11,000円のコースは肉料理2品のうち1品がジビエ料理、7,700円のコースは肉料理1品で和牛や地鶏、またはジビエ料理となる。使用する部位や調理法は来店客の年齢や選んだドリンクなどで宮﨑氏が判断し、それぞれに合ったジビエ料理を提供している。「初めのころは『ジビエか和牛なら和牛を選ぶ』というお客様が多かったのですが、今ではジビエのおいしさが浸透し、ジビエを選ばれる方がほとんどです」と宮﨑氏。臭みが全くなく、牛・豚・鶏とは違った味わいが楽しめると好評で、「ワインに合うから」と選ぶ人も多い。
調理法を研究し、鳥取産ジビエの普及に取り組む
宮﨑氏は、2017年より料理研究会「惣和会」を立ち上げ、周辺地域の料理人や生産者とともに地元・鳥取の食材の調理法について研究を重ねている。また店休日などに産地を訪ね、生産者のこだわりを深く学ぶ取り組みも行っている。「確固たる信念で作られた食材だからこそ、責任を持ってそれに見合った料理を作り、お客様においしいと感じてもらいたい」と語る宮﨑氏。ジビエを含めた鳥取の食材の魅力を広めるために、今後も研究を続けていく考えだ。
鳥取県鳥取市元魚町1-215