Vol.151
東南アジアにありながら、隣国タイの影に隠れて日本人にはなじみが薄いラオス。しかし実は、首都ビエンチャンの一人当たりのGDPはタイのそれに肉薄するなど、目覚しい経済発展を遂げており、人口構成も若い年齢層が多い発展途上国特有のものであることから、さらなる経済成長が期待されている。また、タイでブームになったものが、少し遅れてラオスでも流行する傾向にあり、ビジネスをするうえでトレンドを予測しやすいのも特徴だ。こうした背景のなか、ラオスでは近年、日本料理店の出店が相次いでいる。
前編では、若い層を取り込む工夫をすることで人気を呼んでいる日本料理店を紹介する。
若者を取り込むために、コストパフォーマンスを意識
ラオスの首都ビエンチャンの中心地であるチャンタブリー地区は、タイとの国境であるメコン川に沿っておしゃれなレストランやカフェなどが建ち並ぶ繁華街。ここに2005年6月オープンした「大阪ハックチャオ」は、お好み焼きやラーメンなど日本の庶民的な料理をリーズナブルに提供する和食店だ。
最大の魅力はコストパフォーマンスの高さ。経済成長に伴い物価が急上昇しているラオスでは、一般的な飲食店の客単価が一食4万~5万キープ(=約540~670円)。一方、同店で提供している定食などの平均価格は5万キープ(=約670円)と平均的だが、料理のポーションが比較的小さいラオスの飲食店に比べてボリューム満点。現地の言葉が堪能なオーナーの池田雄介氏が自ら朝市に出かけて、価格交渉をしながら食材を安く調達するほか、ラオス人の夫人と3人の子どもも店の手伝いをするなど家族経営で人件費を削減。また、ビエンチャン市内では手に入らなかったラーメンの麵、納豆、餃子の皮などを自家製。日本からの仕入れを極力減らして食材費を抑え、コストパフォーマンスの高さにつなげている。
大阪出身の池田氏のおすすめメニューは、店名にもなっている「大阪」の代表的な粉もの「ハックチャオ特製お好み焼き」(3万3000キープ=約450円)。具材はシンプルに豚肉、エビ、キャベツ、卵。生地にはラオス産の山芋を入れて、ふわっとした仕上がりに。ステーキ用の鉄板の上で焼き上がったアツアツのお好み焼きと、その上で踊るかつおぶしに「こんな料理、見たことがない!」と若者たちも夢中になっている。
また、麺類で一番人気なのは「冷やし中華」(4万2000キープ=約570円)。モチモチの太麺の上に、一晩中煮た特製チャーシュー、千切りしたキュウリ、茹でたアスパラガス、くし形切りにしたトマトをトッピング。これらにゴマと酢が効いたタレをかける。味わいがギュッと凝縮したチャーシューと、シャキシャキの野菜。モチモチの太麺と、さわやかな風味のタレ。様々な個性が見事にからみ合っている。常夏のラオスには、冷たい麺料理が珍しいことから幅広い層から好評を得ている。
一部の富裕層向けに、日本直送の高級食材を提供する日本料理店もあるなか、「若い人たちにも日本食を味わってほしい」と工夫を凝らして値段を抑えた結果、「流行の日本食を思いっきり食べられる」と食欲旺盛な若者がこぞって押し寄せる人気店に。「日本食=高級」というイメージを覆して、地元に根づいている。
Ban Mixay Chanthably District,Vientiane
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生魚が苦手なラオス人向けに刺身メニューを開発
前半で紹介した「大阪ハックチャオ」のあるチャンタブリー地区は、若者が集まる繁華街でバーや飲食店も多い。なかでも、評判を呼んでいるのが2013年11月にオープンした「居酒屋・大(DAI)」だ。内陸国のラオスでは、多様な魚が生息するメコン川で獲れた川魚が古くから食されてきたが、同店は現地であまりなじみのなかった海鮮食材を売りにしている。
例えば「焙りしめ鯖」(6万キープ=約800円)は、皮はカリッと香ばしく、身はよく火が通っていて、わさび醤油によく合う一品。ラオス人は肉も魚も、しっかり火を通さないと食べない人がほとんど。ステーキもウェルダンが圧倒的に人気だ。そのため、「焙り」とうたっていても、日本人から見ると「焼き過ぎでは?」と感じられるくらい火を通している。
そんなラオス人のなかにも、「せっかく日本料理の店に来たのだから刺身を食べてみたい」と考える人も少なくない。そこで開発したのが「サーモンサラダ」(4万5000キープ=約600円)。千切りキャベツとニンジン、キュウリ、レタス、プチトマトといった野菜の上にサーモンの刺身をトッピング。わさびやゴマ油を利かせた特製ドレッシングをかけることで、生臭さは気にならない。さっぱりした味付けがサーモンの脂と絶妙にマッチしている。
また、サーモンやマグロといった魚介をネギなどの薬味と一緒に醤油やみりんに漬けた「魚介の漬け」(3万4000キープ=約450円)も、刺身に興味を持つ人にすすめている。しょうゆと薬味で魚臭さが消え、かつ魚の旨味を充分に堪能できると好評だ。
ラオスは東南アジアでは珍しく若い女性の飲酒にも寛容的で、酒を提供する飲食店でも日本と同様、「女性をつかめば男性もついてくる」という。そこで毎週水曜日を「レディース・デイ」として、女性にはビールやサワーを一杯無料で提供している。さらに、テーブルに専用プレートを運び、来店客が自分たちで調理を体験できる「たこ焼き」(10個、3万キープ=約400円)も人気。こうした、酒の席を盛り上げるメニューづくりも功を奏して、休前日は開店と同時に、20~30代を中心に満席となっている。
世界各地で日本食が人気と言われているが、ラオスのように「生魚はちょっと…」という国もまだまだある。「どうしたら現地の人が受け入れられるか」を考えてメニューを開発することが、成功への近道なのかもしれない。
086/01 unit 20 Haiysok Village,Chanthabouly,Vientiane
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取材・文/梅本昌男(海外書き人クラブ)
※通貨レート 1キープ=約0.0134円
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