2017/05/16 特集

「現場」を見ることが繁盛への直観を養う! 繁盛店視察 虎の巻(4ページ目)

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Interview “身になる視察”の秘訣を探る

20年前、広島・尾道で起業した(有)いっとくの山根浩揮氏。手探りしながら1つひとつ店を増やし、居酒屋からバルやカフェまで、様々な業態で街を活性化してきた山根氏に、視察から学んだこと、身になる視察のあり方を聞いた。

有限会社いっとく 代表取締役 山根 浩揮氏
1974年広島県尾道市生まれ。辻調理師専門学校を卒業後、母親が経営する和食店に就職。その後、古着の販売業を始める。1997年、飲食1号店「遊食楽酒 いっとく」をオープン。2001年には古着屋を閉店し、飲食業に専念。翌年、有限会社いっとくとして法人化。2012年、4代目となる居酒屋甲子園理事長に就任。2015年、一般社団法人IZAKAYA NIPPON 理事長就任。

視察を通した人とのつながりからも、新しい発想や価値感が生まれます他店の情報が何もない時代。1日8~10軒回ったことも

飲食店への視察は、様々な機会をとらえて全国の店に行っています。若い頃と比べると、数は減りましたし、選ぶ店も変化してきましたが、飲食業を生業とする人間にとって、視察が仕事の一部だという位置付けに変わりはありません。

特に経営者は、10年先を展望することが仕事。時代の動向に敏感であることは当然ですが、誰も注目していないもの、忘れられているものから価値を見つけることも、これからはより重要になるのではないかと感じています。

若い頃は、1日に8~10軒も飲食店を視察しました。1号店として鉄板焼居酒屋「遊食楽酒いっとく」を出店したときは、まだ22歳。体力もありましたし…。当時は、とにかく繁盛している理由を知りたくて、はやっていると聞けば、業態を問わずに視察に行きました。ビールメーカーの担当者の方に見ておくべき店をピックアップしてもらい、連れていってもらったこともたくさんあります。ちょっと新しい工夫を見つけると、すぐに自分の店でもやってみたものです。

当時は今と違って、飲食店の情報がとても少ない時代です。本も雑誌も、今ほど出版されていませんし、テレビでも、グルメ番組なんて、ほんの少し。インターネットも始まったばかりで、情報量は今とは比べものにならないくらい。それも、ほとんど未整理の状態でした。つまり、飲食業を営む人間にとって必要な情報は、自分の足と目と耳で取りにいかなければ何も得られなかったのです。食材もメニューも、アルコールのラインナップも、すべてにおいて。だから、視察をするのは絶対条件。どんな料理を、何種類、どんな価格帯で提供しているのかを、盗むように観察しました。

特に3号店の「やまねこカフェ」を出店したときは、東京のカフェをスタッフと一緒に何軒も視察して回りました。この店は「カフェで働きたいから店をやめたい」というスタッフのためにつくろうと思ったのですが、当時の尾道には、喫茶店はあるけどカフェはなかった。東京に視察に行く以外に道はなかったのですから、まさに手探りの状態でした。

現在、広島県内にて全14店を展開中!

尾道市

  • 遊食楽酒 いっとく(創業の味「とん平焼」など。鉄板居酒屋)
  • たまがんぞう(でべら〈たまがんぞうびらめ〉と地魚料理)
  • ベッチャーの胃ぶくろ(活穴子料理と日本酒)
  • 鳥徳(焼鳥専門店。秘伝のタレと名物つくね)
  • 米徳(煮込みと特製肉鍋。大衆酒処)
  • おやつとやまねこ(プリンと焼菓子)
  • やまねこカフェ(手作りスイーツとカフェラテ)
  • YAMANEKO MILL(本格珈琲と厳選食材・雑貨販売)
  • こめどこ食堂(メインはおばんざい。「お米と発酵」がテーマ)
  • Lock'y(ローストチキンとタパスが売りの尾道バル)

福山市

  • 満天酒家 あかぼし(活魚料理と炉端焼き)
  • 百酒錬磨 天下ばし(黒豚と旬菜のせいろ蒸し)
  • 豪快鉄板 ばくだん酒場(和牛ホルモン料理)
  • ぶちくさらぁめん(とんこつラーメン/つけ麺)

世界を広げてくれた、全国の同業者との視察

自社の店舗数が5店舗を超えたころから、現場よりも経営者としての仕事の比重が大きくなりました。そして、地元の経済団体とともに、「居酒屋甲子園」など飲食店関係者との交流が徐々に増え、志が同じ仲間とのつながりが全国に広がっていったのです。

こうした人との出会いが、大きな刺激になりました。全国には、自分の知らないすごい飲食店や、熱い気持ちを持ってさらなる成長を目指す、すぐれた経営者がたくさんいることを知らされたのです。「もっと彼らから学びたい!」「彼らがどんな店に視察に行き、何に注目し、どうやって吸収しているのかを知りたい」と強く思うようになりました。

会議などで広島、大阪、東京といった大都市に行き彼らと会うたびに、繁盛している店、ベンチマークするべき店を聞き、連れていってもらったりもしました。尾道にこもっていたら絶対に出会わなかった店や人は、私の視野を大きく広げ、飲食業の新しい魅力や価値にも気づかせてくれました。

異業種や異文化など、まったく違うものから得られるヒントも大きい。自分だったらどうするか?を考えるのが楽しいですね繁盛店の視察から、老舗店へと視点が変化

現在、私も40歳を過ぎ、さすがに昔のように1日に何軒も食べ歩くことはできません。それより、某芸人さんの言葉ではないですが、生きている間にあと何回食事ができるかと考えると、1食たりとも無駄にはしたくないという気持ちのほうが強いですね。大切な人たちと、おいしいものを食べる大事な時間ですから。

もちろん、繁盛店の視察は大切という気持ちに変わりはありませんが、「川筋の違う店」への視察もぜひおすすめしたいです。「川筋の違う店」とは、例えば、大衆的な居酒屋と高級レストラン。私の店は業態こそ様々ですが、大衆的でカジュアルな店ばかり。でも、同じ「川筋」だけを見ていても新しい発想は生まれてきません。料理にしても、いい食材と一流の職人の技が生み出した「本当においしい料理」を知らなければ、自分の店の料理がどのくらいのレベルなのかがわかりません。“上”を知らなければ、“下”もわからないのですから。

もちろん、見るべき「川筋」はそれだけではないでしょう。例えば、「老舗」。高級店から大衆店までいろいろありますが、何十年も続いている背景には、それぞれ「何か」があると思うのです。盛り付けの工夫とかサプライズとか、SNSで拡散されてすぐに忘れられてしまうようなものではなく、人を惹きつけてやまない奥深い“何か”。それに気づけたとき、今の自分に足りないものが見つかるのではないかと感じています。また、海外の飲食店から刺激を受けることも多いですね。

今、すごく惹かれているのは、東京・新宿のゴールデン街のような超大衆酒場。独特の雰囲気があり、長く愛されている店ばかりで、日本のサブカルチャーの発信地の1つでもあるディープな世界です。飲食店ではありますが、ある意味、異業種であり異文化。ここには、今まで見てきたものとは異質な価値観や生き方が、確かに息づいています。飲食業界の中だけでなく、こういう世界からも貪欲に吸収することで、新しいヒントが得られるような気がしてならないのです。

あくなき探究心を持って、この街とともに生きる

こうして振り返ると、視察への意識はずいぶん変わりましたね。今は、店の“裏側”を探ってやろう!という感覚が強いのです。この料理はどうして生まれたのだろう、この味付けにしたのはなぜだろう、自分だったらどう料理し、何をアピールをするか、なんて考えるとワクワクします。こうした探究心を持って視察するのは、知らない世界に挑むようなおもしろさがあります。冒険みたいですよね。

創業から20年。尾道で生まれ育ち、街の人や全国の仲間に支えられながら、この街にないもの、あったらおもしろいなと思う店をつくってきました。今は飲食業を通じて、尾道をもっともっと活性化することが自分の役割と考えています。

そのためには、東京にある業態を真似しても意味がありません。尾道ならではの価値があり、東京や大阪や海外から、わざわざ尾道に来たいと思ってもらえる店、この街の本当の良さが伝わる店を創造したい。真剣にそう考えるようになりました。いい会社がいい店をつくるのではない。いい店が、いい会社を、「いい街」をつくるのです。

これからも、飲食業界はもちろん、異業種・異文化からも吸収して、成長していきたいと思っています。

2016年の会社の研修旅行では台湾へ。様々な文化に触れることで、新たな発想やヒントが生まれることも多い
たまがんぞう
広島県尾道市土堂1-11-16
https://r.gnavi.co.jp/y027005/
尾道水道の渡し場に臨む絶好のロケーションに、2007年オープンした地魚が自慢の居酒屋。レンガの壁が目印の昭和レトロな外観も魅力。
Lock’y
広島県尾道市十四日元町6-14
https://r.gnavi.co.jp/mcy1hpu20000/
鍵屋を改装した洋風酒場。100年前にマンチェスターで使われていたらせん階段をはじめ、珍しいアイテム満載のおしゃれな空間が人気。

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