2022/08/26 繁盛の黄金律

客層は広く、来店動機は狭く

個人・チェーン店に限らず、繁盛している店の特徴として共通するのは、さまざまな客層を集めながら、それでいて来店されるお客様の目的が明確になっていることです。客層を広くし来店動機を絞り込むことが重要です。

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Vol.132

繁盛店はどこでも、客層は広い

 よく、経営指南書などを読むと「客層を絞りなさい」という言葉に出くわします。「絞った客層に合った商売、商品構成、値付けをしなさい」と。

 そんなときに私は「なぜ絞る必要があるのか。100人いるお客様を、例えばわざわざ20人に絞る意味がどこにあるのだろうか」という疑問を持ちます。100人いたら、100人全員が来店してくれる方がいいに決まっています。でも、「客層を絞れ」という言葉には妙な説得力があって、コンサルタントの人たちがしばしば口にします。

 確かに客層を絞る商売がないわけではありません。会員制のゴルフクラブであったり、高級ホテルであったり、価格の高いフレンチや日本料理店などは、意識的に客層を絞ります。価格を高く設定して、「お金の余裕のある方だけに来店してほしい」というメッセージを発信します。でも、それはごくごく少数の特殊な店であって、大部分の店は客層を思い切り広くしておかなければなりません。

 例えば、客単価8,000円のイタリアンの繁盛店があったとしましょう。今日日なかなか単価の高い店と言えますが、それではその店の客層は狭いか、というとそんなことはありません。学生カップルもいれば、同僚のビジネス仲間もいます。学生カップルにとっては、かなり背伸びをしたぜいたくかもしれません。もちろん、お金に余裕のあるお客様も来店します。繁盛店の共通点は、客層が広いことです。客層なんか絞っていたら繁盛店にはなれません。逆にコンビニの1杯出しコーヒーは100円そこそこですが、低所得者だけが利用していますか。それを利用する客層は狭いですか。絞り込まれていますか。全然そんなことありませんね。年収1,000万円以上の人も使えば、小遣い月5,000円の高校生も利用します。客層は思い切り広いのです。

フィギュア(姿・形)をはっきりさせることが先決

 収入に関係なく、一人の人間は金持ちになったり、貧乏になったりするものです。喫茶店のモーニングでは、50円の差に敏感になりますが、その同一人物がランチでは1,000円を使い、仕事終わりに仲間と居酒屋で飲むときは5,000円くらいの支払いが平気になります。勢いあまって高いクラブに繰り込んで大金を使い、夜中の2時にようやくお開きになって、平気でタクシーで帰宅して1万円近くを払ったりします(翌日、大後悔する人が多いですが…)。時間と状況に応じて、一人の人間がケチになったり、太っ腹になったりするのですね。

 先述した通り、繁盛店の共通点は客層が広いところにあります。さきほどのイタリアンの例で言えば、アルバイトでようやくお金を貯めて来店した学生カップルもいれば、年収2,000万円のおじさんと女性のカップルもいます。

 いろいろな客層で共通していることは何でしょうか。それは、「8,000円くらいでおいしい料理と雰囲気とサービスを楽しもう」という動機です。この動機はどのお客様も持っています。お金持ちのカップルだからといってその店では3万円のワインを注文したりはしないのです。3万円のワインを飲むならば、別の店を選びます。つまり、来店動機が共通しているのです。

 昼時、牛丼店に来店したお客様は多種多様ですが、手早く食事を済ませたい、という動機は共通しています。客層は多様です。でも、動機は絞り込まれているのです。個人店でもチェーン店でも繁盛しているところはどこも来店動機が絞り込まれています。どういう時に使う店なのか、その動機は明瞭そのものです。

 別の言い方をすれば、動機を絞り込むことこそが、繁盛の条件になります。当然、その動機は朝、昼、アフターランチ(カフェタイム)、夕食、夜中、と違います。それぞれの時間帯で、どのような機能を果たす店なのか、そのフィギュアが明確でなければなりません。

 フィギュアとは聞き慣れない言葉かもしれませんが、姿・形とか、像とかいう意味です。つまり、「こういう動機でうちの店を使ってもらいたいな」という経営者の思いです。自店の青写真と言ってもいいでしょう。それがぼんやりしている店は絶対に繁盛店になりません。フィギュアが店のフォーマットを形づくる、と言ってもいいでしょう。

 そのフィギュアがはっきりしていれば、来店動機も明確になり、その来店動機に沿う形で客層の幅は広がります。格言風に言えば「客層は広く、来店動機は狭く」ということになります。

 ところが、真逆のケースがあまりに多いと思いませんか。来店動機はあいまいなのに客層だけが狭い。先ほどの例で言えば、100人いるお客様をわざわざ20人に絞って、その20人も「一体、この店はどういう時に使える店なのだろう」と戸惑っているような状態です。使い方が分からない店が繁盛するはずがありません。

株式会社エフビー 代表取締役 神山 泉 氏
早稲田大学卒業後、株式会社 柴田書店に入社。「月刊食堂」編集長、同社取締役編集部長を経て、2002年に株式会社エフビーを発足。翌年、食のオピニオン誌「フードビズ」を発刊。35年以上もの間、飲食業界を見続けてきた、業界ウオッチャーの第一人者として知られる。

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