2022/09/30 繁盛の黄金律

「一つ上の価格」で戦う力を身に付けよう

物価の高騰などで消費者の価格意識がよりシビアになっていますが、個店は、人件費を削減してまで価格競争に活路を見出すチェーン店と同じ土俵に立ってはいけません。むしろ、逆の方に向かうべきです。

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Vol.133

回転寿司は高原価だから、高い売上を取らないと利益が出ない

 今、回転寿司グループが、一皿の価格を巡って大変な戦いをしています。

 「100均」といって全皿100円均一を「売り」にして寿司市場の中で勢力をを伸ばしてきましたが、今は「100円均一」でやっているチェーンは一つもありません。100円(売価は110円)皿が中心にありますが、どこもその上に新しい価格の皿を加えています。ちなみに全品均一価格という商売は、どこかで必ず壁にぶつかります。寿司で言ったらイカゲソと中トロのマグロが同じ価格というのは、商売として明らかに無理がありますね。「100均」の小売店も今やワンプライスでやっているところはありません。

 回転寿司チェーンが、その成長の途上で変わったところは一皿の価格だけではありません。回転レーンを使わない店が多くなりました。今は、目の前まで皿が運ばれてきてピタリと止まる、オーダーレーンが中心になっています。この方がお客様にとってもフレッシュなものが食べられますし、経営的にはロスを減らすメリットがあります。もう一つ、大幅なメニュー内容の変更(ジャンルの増加)があります。もはや寿司だけではありません。ラーメンなどの麺メニュー、和食メニュー、洋食メニュー、デザート、おつまみとなんでもあります。ファミリーなどのお客様の需要に応えた、と経営側は言っていますが、フルメニュー化で原価率を下げようとしているのです。事実、寿司以外のメニューがその役割を果たしています。回転寿司チェーンで1店舗当たりでの売上が高いところは平均月商3,000万円を売ります。しかし、店舗投資はデカいし(郊外型の大型店は2億5,000円くらいかかる)、原価率が高いですから、もともと高い売上を取らないと利益が出ないのです。原価は高いですから、荒利益率ではなくて、荒利益高で稼ぐ商売なのですね。

 回転寿司チェーンの強みはどこにあるかというと、やはりあのレーンの存在です。客数が増えてレーンがフル稼働していくと人件費率が急速に下がるのです。繁盛店では20%を切るケースが出てきます。装置ビジネスの強みが前面に押し出されてくるわけです。高い売上を取らないと利益が出ないビジネスですから、客数が落ちて売上が下がると途端に利益が出なくなってきます。コロナで客数が減っている今は、テイクアウトやデリバリーでイートインのお客様の減少の補強に努めていますが「店外売り」が落ちてくると大変なことになります。

 ここで値上げ問題が出てきました。回転寿司最大手の「スシロー」では、110円皿を120円に、「くら寿司」は110円を115円に上げます。もっと上げたいところでしょうが、この上げ幅で我慢しています。「はま寿司」と「かっぱ寿司」は110円皿の価格を守ります。価格維持は大変ですが、ここが勝負どころと見切っています。「5円か、10円の値上げ?どうってことないでしょう」などと思ったら大間違いです。物価が上がって収入が増えていないのが現状ですから、消費者は貧乏になっているのです。価格意識はよりシビアになっているのです。支払い額は、「皿単価×注文皿数」ですからね。ほんのちょっとの値上げが致命的になるケースが出てくるのです。

人の技術と能力を全開させて「一つ上の価格」で戦う力を付ける

 実は、ここからが本題なのですが、チェーンの価格戦争に足を取られない店になろう、ということが言いたいのです。

 チェーンと同じ土俵に立つな、ということです。さらに具体的に言えば、「一つ上の価格」で戦え、ということです。チェーンの同業の相場、あるいは単価が1,000円ならば、1,500円、2,000円で戦う方向に進め、と私は言いたいのです。

 チェーングループは、ロボットや先のレーンを使って何とか人件費を下げようと必死です。また、店舗調理の部分をできるだけ省略してキッチンからプロを追い出し、ここでも人件費を下げようとしています。コックレスとサービスレスをことん追求しています。こうすることでしか、競争力のある価格を打ち出せないのです。

 それならば、個店は逆の方に向かうべきです。つまり、プロの調理技術を高め、またプロのサービス力を全開にすることです。このことで付加価値が高まり、「一つ上の価格」でビジネスができる店になるのです。人の能力を引き出すことで、チェーンとは異なる土俵で戦うことです。チェーンと肩を並べてコックレス、サービスレスで生きていこうとはしないことです。

 「一つ上の価格」を実現すれば原価率は下がります。一方、「一つ上の価格」を実現するためには、商品とサービスの高品質化が必須条件になります。つまり、人件費を削る方向には向かってはならぬ、ということですね。

まとめると

  1. 質の高い食材を使って
  2. 料理とサービスをプロ化して
  3. 高単価を獲得して
  4. 低原価率、高人件費で利益を出す構造をつくろう。

ということになります。高額店を目指せと言っているのではありません。あくまでも「一つ上の価格」です。あくまでも主客層は大衆です。大衆が「ちょっとぜいたくをしたいなぁ」という時に使ってもらえる店になろう、ということです。これをセミマジョリティ市場と呼ぶのですが、この市場を押さえるためには決定的に強い(競争力のある)商品を一つ、必ず持つことです。あの店のあのメニューが食べたい、とお客様がいつもイメージできる一品を持つことです。そしてその一品が利益商品になっていることが大事です。売れ筋は儲け筋でなければなりません。

 強い商品は必ず、プロの調理がベースになければなりません。「外食の最終価値は必ずプロの調理で生まれる」ことを肝に銘ずるべきです。そして、オリジナルの価値が生まれた時に初めて「一つ上の価値」での大繁盛を手に入れることができるのです。

株式会社エフビー 代表取締役 神山 泉 氏
早稲田大学卒業後、株式会社 柴田書店に入社。「月刊食堂」編集長、同社取締役編集部長を経て、2002年に株式会社エフビーを発足。翌年、食のオピニオン誌「フードビズ」を発刊。35年以上もの間、飲食業界を見続けてきた、業界ウオッチャーの第一人者として知られる。

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