2022/10/28 繁盛の黄金律

フランチャイズは危険がいっぱい

成功すればチャンスも大きいフランチャイズ(FC)ビジネス。自店をFC化させたいと思う経営者も少なくないはず。しかし、利益が出やすいビジネスでないと成立しないなど、FC化にはさまざまな危険があります。

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Vol.134

本部に資産処分権も人事権もないビジネス

 今回と次回、2回にわたって、フランチャイズ(FC)についてお話をします。FCビジネスは、危険がいっぱいなのです。

 外食業で、FCで大チェーンになった例はいくらでもあります。マクドナルド、KFC、モスバーガー、ミスタードーナツ、丸源ラーメン、ほっともっと、ほっかほっか亭、コメダ珈琲、焼肉きんぐ、かつや、天丼てんや、びっくりドンキー、ドミノピザ、ピザーラ…とFCの成功事例を挙げたらキリがありません。

 運営元のフランチャイザー(本部。以下、ザー)は運営のノウハウと食材を提供し、投資と店舗運営はフランチャイジー(加盟店。以下、ジー)がやっていきます。そのため数店の繁盛店を持つと、いや、1店の繁盛店を持っただけで、「よっしゃ、これからはFC化して店を増やしていこう」と勇み立って乗り出す粗忽な経営者が後を絶ちません。そして十中八九、FC化に失敗して、自分の虎の子の繁盛店まで手放す羽目に陥ってしまうのです。

 直営で運営する場合は、経営者の考え一つで、店をどこに出すかを決められます。先に出した店よりもいい立地が出てきたら古い店を閉店して、新しい立地に店を作り替えることもできます。また、商圏が食い合いになっても二つの店を運営することだってあり得ます。要するに、直営店の経営者ならば意のままに出店も閉店も移転もできるのです。しかしFC店舗に対してはそれができません。店はジーがお金を出して作ったものですから、ジーのOKが出なければ手も足も出せません。要するに、ザーの本部には資産処分権がないのです。また、FC店舗の店長が不適格だった場合、直営であれば降格もできますし、異動も可能です。しかし、FCではそうはいきません。店長はジーの会社の社員なのですから、ザーには人事権が及ばない、ということですね。

 資産処分権も人事権も経営の根幹ですから、それを行使できないというのは、手足をもがれて片肺で経営をさせられているようなものです。この一事をもってしてもFC化がいかに危険なビジネスであるかがお判りいただけると思います。FC化は成功すればチャンスも大きいですが、経営の在り方としては大変な弱みを持っていることを、FC化を目指す経営者は、まず自覚しなければなりません。

大衆商品であって、強い個性を持っていること

 もう一つ。当たり前の話ですが、店には利益を得たいと望む人が2人います。ザーとジーの2者です。

 FCは出た利益を分け合うビジネス、といっていいでしょう。直営ならばほんの少しでも利益が出れば、まあいいかで済みますが、FCの方はそうはいきません。ジーは投資しているし、人件費をはじめとする営業コストを出しているのですから、適正な利益が出ることをより強く要求します。当然のことですね。

 利益はいろいろな要因で出たり出なかったり、増えたり減ったりしますが、FCビジネスで求められるのは、何よりもフォーマットとしてしっかりした収益構造を持っている、ということです。利益が出やすいビジネスでないとFCは成立しない、ということです。

 ステーキの価格破壊で一気に店舗数を増やしたFCチェーンがありましたが、今は大変苦労しています。ステーキを安く売るところがフォーマットの肝なのですから当然、原価率は高くなります。それでも売上が高いときには、利益が出ますが、元々ペイライン(損益分岐点)が高いですから、売上が落ちると、一気に赤字に転落してしまいます。

 一般に粉もの商売の方がFCに向く、と言われるのも、それが理由です。利益を出しやすいのです。粉ものといえば、うどん、スパゲティ、ピザがあります。また別の粉ですが、コーヒーも粉ものですね。それぞれの分野に成功したFCチェーンがあります。いずれも低原価率という強みがあります。しかし、原価率が低くても、人件比率が高ければやはり利益は出ません。

 一般的に言いますとF(材料費)とL(人件費)の売上比率が55%以内に収まると、FCに向くビジネスになります。なかなか実現しづらいラインです。これで繁盛店を生み出さなければならないのですから大変ですが、利益山分けのビジネスなのですから、FL比率が高いとFCはとてもやってはいけません。

 また、ジーになる人は一般に調理に関しては素人なのですから、プロの調理人を必要とする飲食店はFCには向きません。素人でも一定の訓練を積めば商品を作れる、提供できる、という仕組みになっていなければなりません。調理行程がシンプルであること。これが大前提になります。もしあなたの店が、プロの技術で繁盛しているのであれば、FC化は断念しなければなりません。また、特殊な立地で繁盛している店もダメです。FCビジネスにも、それぞれ得意不得意の立地がありますが、多店化するのですから、ある種の普遍性がなければなりません。

 この普遍性は、商品についてもいえます。頻度高く使ってもらうためには、大衆商品であり、また大衆価格でなければなりません。特殊な商品でベラボーに高い価格では多店化できるはずがありません。FCは大衆商品であって、独自の個性がなければならないのです。前にも例として挙げましたが、KFCのフライドチキンがFC商品の理想ですね。フライドチキンは大衆商品で市場も大きい。そこに身を置きながらKFCは「11種類のハーブとスパイス」で強いオリジナリティーを具備する商品を持っています。こういう商品を持てたときに初めて、FCビジネスの可能性が拓けるのです。そういう個性的な商品を持っているのか。そこが出発点になります。

(次回、後編に続く)

株式会社エフビー 代表取締役 神山 泉 氏
早稲田大学卒業後、株式会社 柴田書店に入社。「月刊食堂」編集長、同社取締役編集部長を経て、2002年に株式会社エフビーを発足。翌年、食のオピニオン誌「フードビズ」を発刊。35年以上もの間、飲食業界を見続けてきた、業界ウオッチャーの第一人者として知られる。

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