2022/12/23 繁盛の黄金律

サービスレスの時代だからこそ、サービス力特化で繁盛店になれる

チェーンではサービスレスを追求する店が増えていますが、サービスレスが進むほど、本来の外食業のサービスを求める人も増えてきます。個人店はサービスを追求することで活路を見出すことができます。

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Vol.136

チェーングループでは、サービスレスが一気に進んでいる

 これからは、良質な個人店が支持される時代になると考えています。

 「良質な」の中身は、良い食材、高い調理技術、そこから生まれる適温の料理、お客様に緊張させない心温まるサービス、清潔で空気が澄んでいる店づくり、ということになります。飲食店に必要なエッセンスが、全て程よく、有機的に機能している店ですね。この中で特に大事なのが、心温まるサービスです。飲食業が飲食業であるために、最も大事なものが、サービスであると思うのですが、これが今、どんどん失われています。特にチェーングループの現在の最大テーマが、いかにして最小限の人員で店を稼働させるか、その追及に集中しているのです。ファストフードは、もともと少ない人員で稼働させるために考えられた仕組みですが、今はさらなる人員の圧縮を目指しています。

 セルフオーダーで決済まで行える端末「キオスクオーダー」の導入がそのいい例ですね。これまでは、お客様がカウンターで従業員に注文をしていたのですが、今やこの「直接接触」がありません。店内に設置された端末を操作して注文をする形が一般的になりました。券売機からオーダーする店も増えていますね。これもオーダーがカウンター内に伝わって、注文品が出来上がると、自分の番号がカウンターのパネルに表示される仕組みです。キオスクオーダーも券売機もお客様が従業員と「直接接触」するのは、カウンターで注文品を手渡される時、1回だけです。究極のサービスレスが進行していて、それが一般的になっているのです。

 テーブルサービスの店ではそんなことはないだろうと思うと、さにあらずです。例えばゼンショーが今、力を入れているイタリアンのファミリーレストラン「オリーブの丘」に行ってみてください。入店したお客様は入口のタッチパネルでまず、人数を入力して、カウンター席がいいかテーブル席がいいか、を選択します。そうすると、席の番号が記されたペーパーが機械から出てきます。従業員の案内なしにお客様はその番号の席に向かいます。メニューの注文も卓上のタッチパネルから行います。出来上がった料理を運んでくるのは従業員ですが、このとき初めて従業員との「直接接触」があるのです。お水のサービスもありません。ドリンクバーからお客様自らが取ってくるのです。精算もセルフでもできます。回転寿司のテーブルサービス版ですね。

 回転寿司では、客席の案内は従業員が行うケースが多いですが、料理のサーブは高速レーンがやります。また、テーブルサービスでも、ガストのようにサーブをロボットがやっているところも増えてきています。テーブルサービスという言葉は残っていますが、実態はサービスレスです。チェーングループでは、このサービスレスの仕組みを確立させることで、人件費の高騰を回避しようとしているのです。

従業員が店のファンになれば、サービス力は自然に上がる

 ファストフードもテーブルサービスも、チェーングループはこれからさらにこの方向に突き進んでいくことでしょうね。つまり、外食業の本来の形からどんどん離れていっているのです。慣れてしまえば、それはそれで使い勝手がいいので「これもありかな」と多くのお客様が受け入れています。しかし、こういうサービスレスの仕組みが普及すればするほど、本来の外食業のサービスを求める潜在市場も大きくなります。本物のサービスへの希求が強くなるのです。

 私は個人店が生き残るポイントは、まさにここにあると思います。お客様との接触度を深め、お客様のサービスの飢餓を充足させることに努めるのです。人が集まらないという点では、個人店もチェーン店でも同じですが、個人店は少ない人員をとことん教育・訓練すれば、少ない人員でもサービスの質を保つことができます。そのための第一ステージは、働く人が店のファンになってくれることです。お店が好きな従業員が、技術を身に付けて高度な調理力、サービス力をフルに発揮すれば、どうなるでしょうか。少人数でも生き生きした心温まるサービスが実現できるはずです。そして、適時適温の最高レベルのメニューが提供できるはずです。

 繰り返しますが、ポイントは働く人が店のファンになることです。もっと言えば店主が尊敬されるに足る人物であるかどうかです。そして、その店主が親身になって従業員の将来を心配してくれているかどうかです。まずは、店主の心の入れ替えが大事です。働く人を使い捨てにするような店主のもとでは、いつまでたっても働く人は定着しませんし、お客様の数は減る一方です。儲け主義では、これからは個人店は生き残れません。働く人の幸せを目指す店主の店だけが、繁盛店の資格を獲得することができるのです。

 もう一つ、個人店は過度な低価格を追求するべきではありません。価格は重要な集客の要因ですが、チェーンや企業グループと価格で競争することは得策ではありません。あちらは仕入れ力と仕組み力で低価格でも利益を出すことができますが、個人店ではそうはいきません。良い食材を使ってレベルの高い料理を出すことが、個人店の使命なのですからリーズナブルな値付けをして、しっかりと荒利を取らなければなりません。低価格を打ち出してお客様は来てくれたけれども、働く人は疲労困憊(こんぱい)して、利益もほんのわずか、というのでは商売は長くは続きません。利益がちゃんと出る店でなければ、働く人もファンになってくれません。価格に見合った価値(良い食材、良い料理、心を込めたサービス、クレンリネス)が提供できていれば、ほんのちょっと値段が高くてもお客様は満足してお金を払ってくださいます。

 企業、チェーンとの泥仕合に巻き込まれないためには、本物の価値の提供が必須です。彼らと同じ土俵に立たない。このことも肝に銘じておかなければなりません。

株式会社エフビー 代表取締役 神山 泉 氏
早稲田大学卒業後、株式会社 柴田書店に入社。「月刊食堂」編集長、同社取締役編集部長を経て、2002年に株式会社エフビーを発足。翌年、食のオピニオン誌「フードビズ」を発刊。35年以上もの間、飲食業界を見続けてきた、業界ウオッチャーの第一人者として知られる。

■飲食店経営の明日をリードするオピニオン誌「Food Biz」

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