2023/03/31 繁盛の黄金律

外食は、技と意欲がマシンに勝つ世界

外食チェーングループは、生産性を高めるためにあらゆる方法を探求しています。しかし個人店、単独店はその流れに同調してはいけません。人の技と能力を最大限に生かし、いいサービスの提供を目指しましょう。

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Vol.139

生産性追求マシンが、外食の仕事をつまらなくする

 外食業は生産性が低い、とよく言われます。もっと生産性を上げなければ、他のビジネスと肩を並べて歩けない、などと言われています。生産性が低いというのは、労働時間を使う割に利益が上がらない、ということです。ですから生産性を上げるためには労働時間を減らす(少ない人数で営業する)ことを目指さなければならない、というのです。私に言わせれば、大きなお世話です。生産性が低くてどこが悪いのか、です。

 外食業というのは、技能を持った人を含めて、大勢の人間が一生懸命働いておいしい料理と楽しい雰囲気という価値を生み出すビジネスです。それが嫌ならば、外食業を捨てて、もっと生産性の上がるビジネスに乗り換えればいいだけのことです。しかし、外食業のチェーングループは、生産性を高めるために、日々必死の努力をしています。その努力とは、一言で言えばより少ない人数での稼働です。これに尽きます。フロアサービスにロボットを入れたり、テーブルにタッチパネルを置いたり、自動調理のマシンを導入したり、自動精算機を入れたり、人を使わないで店を稼働させるために、ありとあらゆる方法を探求しています。労働生産性とは、荒利益高を総労働時間で割ったものですから、労働時間が減れば減るほど、生産性が上がります。

 しかし、高い生産性が得られても仕事はどんどんつまらなくなります。マシン任せの調理は、人の調理技能を不要なものにしますし、フロアサービスの労働もスキルは要らなくなって、ロボットの下働きのような格好になってしまします。料理はバラつきのない均質なレベルのものは提供できますが、特別おいしいものが提供できるわけではありません。また、チェーンのサービスでは、「失礼にならない程度の素っ気ない」レベルが提供できればいいのですから、ロボットに代替することが容易にできるわけです。お客様の方も特別おいしい料理を求めているわけではなく、サービスもまさに「失礼でなければ」それでいいのです。

 「それでいい」という需要は確かにありますから、チェーンはその需要の掘り起こしに力を入れればいいのです。でも個人店、単独店が同じ方向を目指してはいけません。チェーンがやっているような形で、高い生産性を求めてはいけないのです。以前にも書きましたが、チェーンと逆張りでやって、個人店、単独店でしか掘り起こせない需要(お客様)を、我がものとしなければなりません。

技と意欲が高い生産性を生み出してくれる

 外食業で生産性の足を一番引っ張るのは、厨房です。厨房は工場ですから、素材を加工して組み合わせて、加熱して、一つの商品に仕立て上げることが課せられます。注文が来てから人を配置し、工場を動かし、製品にまで持っていくのですから、これほど非生産的な部門もありません。しかも注文はバラバラに入ってきます。ですからチェーングループでは、調理の大部分を外部化(集中加工場を持つか、外部に委託)して、さらに調理を機械化し、厨房で人手をなるべく使わないようにしています。ファストフードは、これをさらに徹底させて、注文が来てから調理を開始するのではなく、作り置きシステムに変えます。ツーオーダーの廃止です。しかし、人の技能によって作りだすものは、料理の質に決定的な違いが出ます。

 人の持つ技能を侮ってはいけません。機械やシステムでは到達できないレベルのものを生み出すのが「人間の技」です。個人店、単独店は、この技を店に温存させ、それをフルに発揮することによって、価値の高い(それ故に高単価が取れる)商品を提供することができます。その商品に見合うサービスも、人によってしか生み出すことはできません。いくら価値あるものでも、ロボットで提供されたら怒り出すお客様もいるでしょう。いい素材を使って、技を持った料理人が作った商品をいい盛り付けで即提供する。その時にキビキビとして笑顔があふれ、心のこもったフレンドリーなサービスが伴った時にはじめて、商品の価値が100%生かされるのです。素材と技と心が三拍子そろっているのですから、当然チェーンよりも高い価格で提供できます。

 生産性を追求するな、と言いましたが客単価の高い店は荒利益高も高くなりますから、実は高い生産性を確保することができるのです。厨房でもフロアでも働く人全員が意欲があってスキルが高ければ、少数精鋭チームができますから、総労働時間も圧縮することができます。オーナーシェフの繁盛店では、チェーン店では考えられないような高い生産性を確保している(つまり、よく儲かっている)ケースがあります。夜だけの営業で2回転、客単価は3万円という人気高級店がありますが、総労働時間も短いですから、信じられないような人時生産性をはじき出しています。人時生産性というのは、1時間当たりの荒利益高を指します。客単価が高くて、原価率が低く、さらに少労働時間で稼働するのですから、高い人時生産性が取れて当然なのです。そんな店ばかりではありませんが、労働集約型の個人店、単独店でも、プロの技とスキルが集約されれば、チェーンに負けない生産性を持つことができるのです。外食業は「技」が高い生産性を確保するビジネスだ、と言うことができます。
 

ハイテク武装の生産性追求型の店が苦戦している

 でも、私は個人店、単独店でも高い生産性が取れることを言いたいわけではありません。今、日本の外食業には約400万人の人たちが就労しています。生産性追求グループが実現しようとしていることは、簡単に言うとこれを200万人に減らして、同じ売上を確保する状況を作ることです。そして、プロは要らないと。単純労働だけで、外食業全体を回していこうというのです。

 チェーングループはチェーングループの役割があります。それは否定しませんが、個人的にはどうも楽しい世界が思い浮かびませんね。スキルを生かしておいしい料理を提供して、思いっきり楽しい時間を過ごしてもらおう、というのが外食業の本分ではありませんか。コロナが終息しつつある中で、テーブルサービスの外食業にお客様が戻ってきています。テイクアウトやデリバリーにお客様は飽き飽きしているのです。で、どのテーブルサービスにも等しくお客様が戻っているのか、というとそれが違うのです。

 先述のように、ハイテク武装して少人数で稼働させることを追求した店は、お客様の戻りが悪く、苦戦しています。同じチェーングループでも人の技と能力を大切にしたところは、戻りが顕著です。それから居酒屋でも主人がちゃんといて、質の高い料理といいサービスが守られている個人店には、お客様が殺到しています。

 外食業は何をしなければならないのか、そのことを今、お客様が雄弁に教えてくれています。

株式会社エフビー 代表取締役 神山 泉 氏
早稲田大学卒業後、株式会社 柴田書店に入社。「月刊食堂」編集長、同社取締役編集部長を経て、2002年に株式会社エフビーを発足。翌年、食のオピニオン誌「フードビズ」を発刊。35年以上もの間、飲食業界を見続けてきた、業界ウオッチャーの第一人者として知られる。

■飲食店経営の明日をリードするオピニオン誌「Food Biz」

「Food Biz」の特徴
鍛えられた十分な取材力、現場を見抜く観察力、網羅的な情報力、変化を先取りする予見力、この4つの強みを生かして、外食業に起こっている変化の本質を摘出し、その未来を明確に指し示す“主張のある専門誌”です。表層的なトレンドではなく、外食業に起こっていることの本質を知りたい人にこそ購読をおすすめします。読みたい人に直接お届け!(書店では販売しておりません)

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