映画『しゃぼん玉』 - エンタメレストラン -

2017/02/20

エンタメレストラン

Vol.132
しゃぼん玉
3月4日(土)よりシネスイッチ銀座ほか全国公開
http://www.shabondama.jp/
© 2016「しゃぼん玉」製作委員会
【イントロ&ストーリー】
Netflixのオリジナルドラマ「火花」の主演などで注目を集める若手人気俳優・林遣都と、日本を代表する女優・市原悦子の共演作。直木賞作家・乃南アサのベストセラー小説「しゃぼん玉」を、TVシリーズ「相棒」で監督を務めてきた東伸児が映画化した。宮崎の大自然を舞台に、親の愛を知らずに育ち犯罪に手を染めてしまった若者と、偶然出会った老婆との魂のふれあいを描く。
★通り魔や強盗傷害を繰り返す、無軌道な若者・伊豆見翔人(林遣都)。あるとき誤って人を刺してしまった彼は、逃亡中に出会った老婆・スマ(市原悦子)を助けたことがきっかけで彼女の家に居座ってしまう。初めは金を盗んで逃げるつもりだったが、スマをはじめ、村の人々とのふれあいによって人生の大きな決断をすることに…。
【キャスト&スタッフ】
脚本・監督:東 伸児
原作:乃南アサ『しゃぼん玉』(新潮文庫刊)
主題歌:秦基博
出演:林 遣都、藤井美菜、相島一之、綿引勝彦、市原悦子
配給:スタイルジャム

日本三大秘境といわれる村を舞台にした“償い”のドラマ
愛を知らぬ青年の心を融かす、宮崎県椎葉村の郷土料理

 誰もが経験があると思う。子どもの頃、食事中によく、親に箸の持ち方を注意されなかっただろうか。

 宮崎県の山間に位置し、“日本三大秘境”のひとつとされる椎葉村(しいばそん)を舞台にした本作、『しゃぼん玉』の主人公はもう立派な大人だが、箸の持ち方が変だ。林遣都扮する若者は偶然、原付バイクで横転し、道端で頭から血を流していた老婆を救ったことが縁で、ひとり暮らしのその家に逗留(とうりゅう)することになる。そして食事のとき、市原悦子演じる老婆におかしな箸の持ち方をたしなめられるのだ。「直したほうがええぞ」と。

 実はこの男、親の愛情を知ることなく心が荒んだまま育ち、結果、女性や老人を狙って強盗を繰り返しており、椎葉村には逃亡途中に迷い込んだのだった。過去はいっさい描かれていないが、箸の持ち方で子ども時代の環境がうかがえ、遅まきながらそれを注意する老婆は、赤の他人ではあるものの彼にとっていわば“母親的な存在”なのだとわかる。

 若者の過去をつゆ知らぬ老婆は、ケガをした自分を家までおぶってくれた“恩人”を手厚く迎えたわけだが、翌朝、老婆の代わりにあり合わせの料理を持ってきたご近所さんたちもそう呼べるかもしれない。ちゃぶ台に並べられたのは、手作りの“地”の品々ばかり。白米に具だくさんの汁。メインは宮崎名物イノシシ肉の味噌漬けだ。それから菜豆腐も。これは、季節の花や野菜を細かく切って豆乳の中に入れて一緒に固めたもの。一丁が通常の豆腐の二丁分ぐらいになるのは、大豆が貴重だった時代、花や野菜を使ってかさを増そうとしたためで、水をしっかりしぼり、固めに出来上がるのも特徴。祭りや冠婚葬祭などでふるまわれてきた郷土料理である。

 さらに、炙っただけの椎茸、梅干し、漬物やゼンマイ煮……男は湯気のたった料理に箸をつけるたびに、ぶっきらぼうに「うめえ」と言う。こんな温もりを感じさせる、家庭的な食事はもしかしたら初めてなのかもしれない。映画は、彼がそれまで犯した罪を次第に自覚し、苦しみながら自分を見つめようとする“償い”のドラマを紡いでゆく。殺伐とした、頑なに閉じた若者の心を次第に解きほぐしてゆくのが、日々の素朴な料理と厳しい山仕事、そして祭りの準備。そう、椎葉村は、かの“壇ノ浦の戦い”に破れた平家の武者たちが隠れ住んだほど静かな土地柄、毎年11月に開催される「椎葉平家まつり」でも知られているのだ!

 今年はNHKの連続テレビ小説に初出演。『べっぴんさん』のジャズドラマー役で目を引き、この3月で俳優デビュー10周年を飾る林遣都。なんと、主人公の箸の持ち方がおかしいのは彼の提案だそう。セリフを極力排した繊細な演技で“寄る辺ない男”の魂に寄り添い、一方、大女優の市原悦子は年輪と包容力を感じさせる老婆、しかも“ある秘密”も抱えているという難役をさすがの懐の深さで体現してみせた。劇中、彼女が差し出すおにぎりが沁みるのである。おにぎりとは鬼切り、災いを退ける食べ物とも。それを偉大なる語り部、この世の“守護神”のごとき市原悦子が作るから、含意が増すのであった。

Text by 轟夕起夫(映画評論家)
「キネマ旬報」「映画秘宝」「ケトル」などで執筆中。近年の編著に「好き勝手夏木陽介スタアの時代」(講談社)など。雑誌「DVD&ブルーレイでーた」で連載した名物コラム『三つ数えろ!映画監督が選ぶ名画3本立てプログラム』も単行本化。取材・構成を担当した『伝説の映画美術監督たち×種田陽平』がスペースシャワーブックスより発売中。

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