映画『焼肉ドラゴン』 - エンタメレストラン -

2018/06/15

エンタメレストラン

Vol.163
焼肉ドラゴン
6月22日(金)より全国公開
http://yakinikudragon.com/
© 2018「焼肉ドラゴン」製作委員会
【イントロ&ストーリー】
2008年の初演時に数々の演劇賞を総なめにし、その後も再演を重ねた伝説の舞台「焼肉ドラゴン」を、作・演出の鄭義信が自ら映画化(初監督作)。舞台は1970年代初頭。関西の地方都市で小さな焼肉店を営む在日コリアンの一家を通して、時代のうねりに翻弄されつつも懸命に生きる庶民のエネルギーを描く。
★万国博覧会が開かれ、高度経済成長真っ只中の1970年。太平洋戦争で左腕を失った龍吉(キム・サンホ)は、戦後の「四・三事件」で故郷・済州島を追われた英順(イ・ジョンウン)と結婚する。長女の静花(真木よう子)と次女の梨花(井上真央)は龍吉の連れ子で、三女の美花(桜庭ななみ)は英順の連れ子。家族は関西の地方都市で小さな焼肉店「焼肉ドラゴン」を開き、やがて長男・時生(大江晋平)が新しい家族として加わる。静花の幼なじみで大酒飲みの哲男(大泉洋)をはじめ、店は常連客で大賑わい。ささいなことで泣いたり笑ったりしながら、日々を送っていた。だが、強い絆で結ばれた共同体にも、やがて時代の波が押し寄せてきて…。
【キャスト&スタッフ】
監督・脚本:鄭義信
出演:真木よう子、井上真央、大泉洋、桜庭ななみ、大谷亮平、ハン・ドンギュ、イム・ヒチョル、大江晋平、宇野祥平、根岸季衣、イ・ジョンウン、キム・サンホ
音楽:配給:KADOKAWA、ファントム・フィルム

実力派の競演で浮かび上がる「小さな焼肉屋の、大きな歴史劇」
未来に希望を託したくなる、最良の日韓コラボレーション映画

 8年間(!)続いた連載の最終回なので、少し個人的なことを冒頭に書かせていただく。この「エンタメレストラン」という企画、筆者にとって、生涯忘れられない仕事となった。というのも今から4年半ほど前、突然の大病(=脳梗塞)で倒れ、一命は取り留めたものの重い後遺症が残り、絶望的な気持ちのまま病院でのリハビリ生活を繰り返していたとき、「また書いてみませんか?」と最初に“ライター復帰”のチャンスを与えてくれたのが当サイトであったのだ。

 右片麻痺なので利き手利き足が動かず、車椅子も必須……そんな状態だったために大いに悩んだが、配給会社からDVDをお借りし、持ち込んだパソコンでリハビリの合間に視聴、左手一本でデジタルメモを打って病室で完成させたその記事が2013年の韓国映画、日本では2014年5月に公開されたユ・アイン主演の『カンチョリ オカンがくれた明日』だった。

 というわけで、ラストも韓国映画を選ぼうかと思ったのだが、ここはひとつ、未来に希望を託し、日韓コラボレーションの形として最良な作品を。『焼肉ドラゴン』。2008年に日本の演劇賞を総なめにした伝説の舞台の映画化である。1970年、日本の高度経済成長期。大阪万博に沸く関西の地方都市で焼肉屋を営む在日コリアンの一家の物語で、韓国の名優キム・サンホとイ・ジョンウンが“アボジ(父)とオモニ(母)”、真木よう子、井上真央、桜庭ななみが“三姉妹”、そして大泉洋がキーマンの“幼なじみ”に。それぞれが渾身の演技で「小さな焼肉屋の、大きな歴史劇」を体現してみせる。

 その舞台が「どれほど素晴らしい」かは、2011年の再演のときに、評判を耳にした大泉洋がチケットを求めるもなかなか手に入らず、結果、ひとりで北九州芸術劇場まで足を運んだというエピソードでもわかるだろう。ステージ上では1回の公演当たり、300グラムのホルモンを実際に炭火で焼き、客席まで煙や匂いが届いて臨場感あふれる劇世界が構築されたというが、映画版も負けていない。300坪(約990㎡)の大セットが組まれ、当時の在日コリアンたちが肩を寄せ合っていた集落を再現、パッションに満ちた「人情喜劇」がそこで展開される。

 イタリアの熱きシチリア移民のドラマでもあった、あの『ゴッドファーザー』(1972年/フランシス・フォード・コッポラ監督)が、結婚式のシーンから始まっていたように、『焼肉ドラゴン』も開幕早々、店の中で結婚パーティが開かれる。ここで簡潔に登場人物の紹介と、家族が抱える諸問題、不穏な要素も合わせて示されていく。ちなみに、主要舞台となるこの店、看板には「ホルモン」とだけ書いてあるのだが、アボジ(父)の名前が“龍吉”ゆえに、いつの間にか「焼肉ドラゴン」と呼ばれるようになってしまったわけである。

 さて、演劇と同様に、日韓の実力派俳優たちが共演、得がたい交流の歴史を刻むこととなった『焼肉ドラゴン』という特別な作品。演劇界の重鎮、作・演出の鄭義信(チョン・ウィシン)が今回、自ら初監督を務めており、各役者のほとばしる熱量、ポテンシャルをさらに引き出している。例えば、真木よう子扮する長女をめぐって、大泉洋とハン・ドンギュ、ライバル同士がマッコリの飲み比べをするシーン。リハーサルとはアプローチを変え、本番時にはサプライズ的に長回し撮影を敢行。それに若干動揺しつつも、見事に応えてゆく3人のアンサンブルが最高なのだ!

 最後に。8年間の長きお付き合いに感謝しつつ、本作のアボジ(父)の口癖で、映画のキャッチコピーにもなっている言葉を、皆さま方にもお送りして“連載の結び”としたいと思う。「たとえ昨日がどんなでも、明日はきっとえぇ日になる」。いやあ、本当に。切に「えぇ日」になってほしいなあ~。

 
Text by 轟夕起夫(映画評論家)
「キネマ旬報」「映画秘宝」「ケトル」などで執筆中。近年の編著に「好き勝手夏木陽介スタアの時代」(講談社)など。雑誌「DVD&ブルーレイでーた」で連載した名物コラム『三つ数えろ!映画監督が選ぶ名画3本立てプログラム』も単行本化。取材・構成を担当した『伝説の映画美術監督たち×種田陽平』がスペースシャワーブックスより発売中。

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