2020/05/21 特集

何を売る?どう売る?テイクアウト&デリバリー

コロナ禍の中、売上の補填や事業の拡充を目的に、新たにテイクアウト・デリバリーを始める飲食店が増えている。そのコツやポイントを、株式会社船井総合研究所の飲食専門コンサルタント・小林耕平氏に伺った。

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更新日:2022.8.29

目次
“中食慣れ”がマーケットを拡大。本格的な事業展開に動き出す企業も
素材と製法にこだわったオリジナルな商品開発が肝要
店頭でのアピールと共にオンラインでも多角的に発信を
安心・安全に配慮し、ピンチをチャンスに変えよう!

 コロナ禍で売上の補填や事業の拡充を目的に、新たにテイクアウト・デリバリーを始める飲食店が増えている。株式会社船井総合研究所の飲食専門コンサルタント・小林耕平氏に、マーケット拡大の要因や商品開発のポイント、アピール方法、衛生面について必要な対策などについて話を聞いた。

株式会社船井総合研究所 フード支援部グループマネジャー シニア経営コンサルタント 小林 耕平氏
30業種以上のコンサルティングに携わった後、宅配やケータリング、惣菜業、テイクアウトなど、中食事業の開発や業績アップに従事し、2019年にグループマネジャーに。最新技術やノウハウを活用した独自の業態開発などに定評があり、赤字企業の即時業績アップから、年商数十億・数百億円企業の次代の戦略づくりまで、幅広い領域において数多くの成果を上げている。

船井総合研究所フードビジネス専門サイト『フードビジネス.COM』
https://funai-food-business.com/

“中食慣れ”がマーケットを拡大。本格的な事業展開に動き出す企業も

 新型コロナウイルス感染症拡大に伴い、売上減の補填などを目的に、中食に活路を求めてテイクアウトやデリバリーを始め、収束後も継続して行うことを視野に入れている飲食店が増えてきている。

 株式会社船井総合研究所のコンサルタント・小林耕平氏は、「以前より、多くの飲食店が中食に参入していましたが、新型コロナウイルス感染症の拡大を契機に参入が加速しています」と語る。飲食店側の売上補填という動機はもちろんあるが、「大きいのは消費者側のニーズの高まり」と小林氏。ステイホームやテレワークの推奨、休校や休園などによって“巣ごもり”需要が増加し、「これまでテイクアウトやデリバリーをほとんど利用してこなかった層が利用し始め、飲食店による中食市場を活性化させている」と指摘する。在宅の人々が、自宅の近隣にある飲食店のテイクアウトを好んで利用するほか、外出自粛の中でも稼働せざるを得ないオフィスや工場などでも、ランチを中心に中食のニーズが急増している。彼らが求めているのは、作り置きの弁当ではなく、“店内調理&できたて”が期待できる飲食店の料理なのだ。「最近では、このニーズに合わせて、テイクアウトやデリバリーの商品のトレンドが変化してきています」と小林氏。「飲食店が提供する“レディミール”、すなわち解凍したり湯煎したりして、家庭で飲食店の味を再現できる商品が伸び始めている」という。10品前後のコースをクール便で届ける高級フレンチ店の取り組みが評判になってニュースで紹介された例もあり、飲食店が提供する新たな食のシーンが、多くの家庭に広がり始めている。

 合わせて、購入方法にも変化がある。特にテイクアウトでは、「待ち時間や三密(密閉・密集・密接)を避けるため、予約や決済をオンラインで行いたいという要求が消費者側で強くなっています」(小林氏)。事前予約の普及は、飲食店の強みである“でき立て”を可能にするとともに、仕込みや調理の効率化、食品ロスの低減にもつながる。オンライン決済も業務の軽減や、キャンセルによる損失防止が期待できるだろう。消費者にとっても飲食店にとっても、中食のメリットはますます顕著になっている。「見逃せない重要な点は、コロナ収束後もこの流れが継続するであろうこと」(小林氏)だ。緊急事態宣言が解除されても、ソーシャルディスタンスなどへの配慮から、イートインの売上がすぐに従来どおりに回復するとは限らない。なによりも、多くの飲食店の参入によって、テイクアウトやデリバリーの快適さ・便利さを消費者が経験し、消費行動の1つとして定着しつつあるからだ。

 そうであるなら、テイクアウトやデリバリーを、コロナへの緊急対応という一過性の取り組みではなく、コロナ収束後の売上の柱の1つとして、積極的に位置付けるべきものと言えるだろう。小林氏は「この機会に店外売上の仕組みを構築して、コロナ収束後には店内・店外の両方で攻勢的に売上を作ろうとする動きがあります。チェーン展開している飲食企業の中には、既存店の一部をテイクアウト専門店に切り替えて、本格的に事業展開に乗り出すところも出てきています」と指摘する。さらに、小林氏は「飲食店の価値がこれまでとは変わってくることも予想される」と言う。「飲食店への来店動機の基本は“食べたい・飲みたい”という要求。しかし、テイクアウトやデリバリーがこれだけレベル高く出揃うと、飲食の欲求自体は家でも満たされやすくなる」からだ。飲食店としては“わざわざ来てもらう”ための価値付けが、ますます重要になってくるだろう。同時に「レディミールの人気に見られるように、家庭で最後の仕上げをする料理も、飲食店が狙う新たな市場の1つに位置付けられる」と小林氏。飲食事業の可能性が広がっているとも言えそうだ。

 ただし、飲食店がテイクアウトやデリバリーなどに取り組む際には、飲食店の営業許可だけでは足りない場合もあるので、注意が必要。例えば仕入れた農産物をそのまま販売するのは問題ないが、生肉の販売には「食肉販売業」の許可、自家的ハムやソーセージなどの加工肉は「食肉製品製造業」の許可、刺身は「魚介類加工業」の営業許可が求められることもある。また、セントラルキッチンで製造し、各店舗に配送した弁当などは、「加工食品品質表示基準」による表示が必要。不安な点は、自店のエリアの保健所に確認するのが安心だ。

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素材と製法にこだわったオリジナルな商品開発が肝要

 飲食店などの参入によって、テイクアウトやデリバリーの市場はこれまで以上に競争が激化。選ばれるためには、やはりメニューが重要だ。小林氏は「その店ならではの“名物”や“看板”を生かした商品開発が有効」とアドバイス。従来は、唐揚げやハンバーグといった定番料理の品ぞろえが売上に直結することが少なくなかったが、現在はそれだけでは選ばれにくいという。「“あの店のあの料理を自宅で食べることができるのなら、ぜひ買いたい”という利用動機の喚起がカギになります。その際、キーワードになるのが『素材と調理法』」(小林氏)。例えば、地元ブランド豚を使用している店なら、「△△豚のカツ丼」などと打ち出したり、漁港直送の海鮮が自慢の海鮮居酒屋なら「○○漁港の漁師弁当」などもアピール力があるし、炭火焼きが看板なら「牛炭火焼き弁当」もいいだろう。定番の唐揚げでも、こだわりの素材や調理法をアピールすれば、ぐっと選ばれやすい。「できたて」は飲食店ならではの重要な価値だが、作り置きをする場合も「素材と調理法」のアピールは有効なセールスポイントとなる。

 さらに、「これらのメニューを、レディミールとしてブランド展開すれば、将来的に通販にも進出が可能。収益の柱の多角化を狙えます」と小林氏。例えば、「△△豚のカツ丼」でテイクアウトやデリバリーを展開し、同じ素材を「△△豚の鍋セット」などミールキットへ落とし込めば、通販という販売経路が開け、店のブランディングにつながる。事業拡大の可能性の1つがここにもありそうだ。

 加えて、小林氏は「価格帯を最適化することも忘れてはいけません。現在、特に伸びている中食ニーズは、『家庭の夕食』『オフィスや工場でのランチ』『家庭のプチパーティー』の3つ。それぞれの利用動機によって予算が変わってくるので、自店の立地やターゲットのニーズに合わせた価格帯を見極めることが大切です」と指摘する。競合が多い分、安すぎても高すぎても、選択肢からこぼれてしまうからだ。ただし、価格設定については、「消費者側に“コロナ慣れ”“中食慣れ”による価格意識の変化があることも、念頭に置きたい」と小林氏。以前は、外食で使う金額に比べ、中食の予算はかなり抑えられる傾向があった。飲食店のテイクアウトも、コンビニやスーパーの低価格帯に引っ張られて、安価になりがちだったのだ。しかし、今は「外食が制限されている分、中食にお金を使いやすい心理になっている」(小林氏)という。こうした状況で、飲食店ならではのこだわりが詰まった中食であれば、価格を上げても十分に勝負できるはず。作り置きのコンビニ弁当や惣菜との差別化に成功するチャンスでもある。

 小林氏は「飲食店がテイクアウトやデリバリーを行う上で、今の状況は完全に“追い風”」ときっぱり。上手に“風”をつかみたいところだ。そのためには、見た目の完成度にも気を配りたい。盛り付けの工夫とともに、包材のチョイスも重要になる。コロナ禍によって生まれた消費者の新しい価値観を意識し、ニーズとシーンに合った包材で、アピール力を強めることも一案だ。

 今回のコロナ禍に伴う特別措置として、一時的に飲食店で酒類のテイクアウトも可能になった。小林氏は「飲食店がアルコールのテイクアウト販売を行うのであれば、フードとアルコールのセット商品が有効」とアドバイス。例えば、缶ビール単体ならスーパーで購入したほうが安く済むだろうが、飲食店のこだわり料理と、それに合うお酒(銘柄含む)とのセットなら、購入につながりやすいだろう。そもそも、フードとアルコールのマッチングは飲食店の得意分野だ。「例えば、ワインバルなら、おしゃれなタパスにワインやカクテルを付けるとか、和食メインの居酒屋なら小鉢料理などと日本酒を組み合わせたり、地酒3種飲み比べセットを付けたりすると、喜ばれるのでは」(小林氏)。スーパーではなかなか手に入らない銘柄などは、希少価値からそれ単体でも購入意欲につながるはずだ。

 「『家飲み』や『オンライン飲み会』は、コロナ収束後も定着する可能性が大。今後は、オンライン飲み会であれば、料理やドリンクの“Web映え”が重要になっていくかもしれません」と小林氏。自店の強みを生かしてチャレンジしてみてはどうだろうか。

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店頭でのアピールと共にオンラインでも多角的に発信を

 自店でテイクアウトやデリバリーを行っていることをアピールするには、どんな方法が効果的なのか。小林氏がまず呼びかけるのが、「他者任せにしてはいけない」ということ。「特に最近よく見られるのが、集客のための販促について、外部の業者に過度に依存してしまうケース」という。デリバリーの配送代行業者に登録しただけで良しとし、集客の工夫を怠りがちになることが、その典型例の1つだ。「これでは、思うような売上にはつながりにくい」と指摘する。では、どうすればよいのだろうか。小林氏は「集客の機能(仕掛け)を内製化する視点が大切」と力説する。例えば、ファサードの全体、もしくは一部を使ってテイクアウトやデリバリー情報を発信する。そこまでできなくても、店頭のポスターやのぼり、店頭に出すA型の立て看板やイーゼルなどでテイクアウト・デリバリーを行っていることやメニュー内容・価格などを、わかりやすく、細かく発信すること。また、エリアによってはポスティングも有効だ。いずれにしろ、テイクアウトやデリバリーをやっていることがひと目でわかるようにアピールし、商品の魅力をターゲットに届ける努力が肝心だ。

 また、オンラインでの発信も不可欠。特に不要不急の外出自粛が求められているエリアもある現在、様々な情報を家にいながら手にしたい気持ちは、かなり強い。食事を用意しようと思ったとき、食材の買い出しではなく、まずテイクアウトやデリバリーができる店や施設をインターネットで検索する人は多くなっている。地図アプリにはテイアウトやデリバリー情報が検索できるようになったものもあり、自粛の長期化で、テイクアウトやデリバリーできる店を新たに開拓しようという意欲も大きい。だからこそ、「SNSでの発信はもちろん、自店のWebサイトやグルメサイトをきちんと更新して、テイクアウトやデリバリーを探している人の目に留まるように努力することがとても大切」と小林氏。「Googleビジネスプロフィール(Googleマイビジネス)の活用のほか、Instagramで情報を発信する際も、『テイクアウト』や『持ち帰り』といった言葉をハッシュタグに使うだけでも、効果は大きい」と語り、「こうした地道な取り組みに、どれだけ注力できるかによって、集客への効果は大きく変わってくる」と力説する。

 一方、デリバリーは、テイクアウトに比べると配達という工程が加わる分、特に従業員の少ない店ではハードルが高くなる。配達代行業者に登録する店は増えているが、コロナ禍で参入店が多くなり、登録待ちが発生しているほか、配達手数料も発生するため、どうしても収益性が下がる。だからといって、従来の出前のように配達先と店とをオーダーが入るたびに往復するピストン型の配達システムでは、時間もコストもかかりすぎて、やはり収益性が低くなる。そこで小林氏は「自社便による効率的な配達システムの構築」を勧める。配達の作業は、車やバイク、自転車などの配達手段によって1時間あたりのコストが異なる。そこで、自社が採用できる配達手段と、配達件数の見込みを勘案して、1便あたりのおよそのコストを算出する。それを元にして、採算ベースに乗せられる配達エリアと配達件数、1件あたりの最低注文金額を設定する。小林氏によると、最も合理的な配達システムは「ルート配達」だという。これは、複数の配達先を最短コースで順番に回る方法で、生活協同組合の宅配方法をイメージするとわかりやすい。この場合、オーダーは必然的に事前予約制になる。例えば、メニューにもよるが前日や前週までにオーダーを受け付け、当日の昼や夕方、決まった時間内にルート配達で複数箇所に配達する仕組みなら、「小規模の飲食店でも、自社便のデリバリーで収益を上げることは十分に可能」と小林氏は言う。こうした新たなデリバリーの戦略でも、オンラインでのアピールは効果を発揮する。Webで探してデリバリーの利用を決めた人が、そのままオンラインで事前予約に進めば、手続きは一瞬で完了。さらに事前決済も導入すれば、飲食店にとっても消費者にとっても利便性は高い。もちろん、テイクアウトでも効果は同じだ。

 もちろん飲食店の魅力はツーオーダーで「できたての料理」をその場で食べられることだが、非接触・移動レスは、今後も「新たな生活様式」として一定の定着が予想され、飲食店によるテイクアウトやデリバリーへの期待はますます高まるだろう。オンラインをはじめとした様々なリソースを駆使して、収益アップを図る取り組みを工夫したい。

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安心・安全に配慮し、ピンチをチャンスに変えよう!

 テイクアウトやデリバリーにしろ、商品を受け渡すときだけは、必ず店側と注文客が接触せざるを得ない。注文客に安心してもらうと同時にスタッフの健康を守るために、たとえ短い時間でもマスクの着用、ソーシャルディスタンスの確保など、基本的な安全行動を徹底したい。手指洗浄やアルコール消毒などの衛生行動も、これまで以上に頻繁に、しかも丁寧に行うことが大切だ。飲食店の中には、商品を棚置きしたり、デリバリーの場合は「置き配」したりして、非接触の受け渡しを工夫する例もある。また、この機会に、事前決済を導入することも有効。あらゆる場面で、衛生意識を一段階も二段階も高くすることで、安心して利用してもらえる店を実現したい。

 また、イートインの店内消費と違い、テイクアウトやデリバリーなどの店外消費は、調理後、一定の時間が経過してから、しかも作り手の目が届かないところで食べることになり、衛生・品質面での特別な配慮が不可欠になる。今後、温度と湿度が上昇していく中で、食中毒などが発生しないように、料理の温度管理、手渡すまでの保存方法、配達環境の整備、配達時間の最短化、食べるときの注意喚起などには、十二分な対策が必要。せっかく中食市場に進出しても、健康被害を起こしたら元も子もなくなってしまう。

 新型コロナの今後の影響は、まだまだ予断を許さない。だが、小林氏は「今の状況をピンチと捉えるか、それともチャンスの要素を見出して、そこに帆を張って前進しようとするかで、見える風景は全然違ってくる」と語る。特に中食のマーケットは、「消費増税の際に導入された軽減税率と、新型コロナの2つが追い風となっているといえる」と分析。「今現在生まれているニーズに適応して乗り切るとともに、今後、伸びる分野を捉えて、事業を最適化していく戦略を立てるべき」とエールを送る。そのうえで、小林氏は、「今なら、まだ間に合う」とも。「客足が遠のき、売上が大幅に減少した現実を見て、思考停止したままこの時期をやり過ごしてしまうと、この先はさらに苦しくなり、後悔する事態になりかねません」と警鐘を鳴らす。すぐに、打つべき手立てをすべて打ち、ピンチをチャンスに変える気概で、追い風をつかみたい。

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