早めの戦略･対策で、酒と料理のセットなどテイクアウト＆デリバリーが成功

和牛と魚貝 おへそ

静岡　浜松　居酒屋

　JR浜松駅から徒歩約10分の場所に位置する「和牛と魚貝 おへそ」。創作和食と豊富な酒をそろえ、2016年１月のオープン以来、20～60代と幅広い年代に支持されている。

　「私の理念は『食を通じて人を幸せにする』こと。企業の接待利用などアッパーなお客様も多いのですが、若い方々にも客単価4,000～5,000円で楽しめる店にしたいと考えました。店内はカウンター、広間、完全個室とあるので、利用シーンによってうまく振り分けられるのも特徴です」と、代表の松田時成氏。平日はビジネス層の接待や宴会、週末はカップルのデート利用など様々なニーズを取り込み、予約が取りにくい店として認知されている。

　そんな「おへそ」で、コロナの影響が出始めたのは2月末。まず、大手企業の接待利用がなくなり、3月になると歓送迎会の予約キャンセルが相次いだ。

　　そして、浜松市からの要請もあり、営業自粛を経た後は「3密」を避けるため、カウンター、広間、個室で、それぞれ1日限定1組だけの営業を続けた。

　松田氏は、「予約のキャンセルが増え始めた時から早めに戦略を立て、1日3組限定での営業に関しても、ぐるなびやSNSで発信。店内のアルコール消毒やスタッフのマスク着用についても、まだ他店舗があまりやっていなかったので、店に対する信頼につながったと思います」と語る。

　コロナ禍においてスピードを持って取り組んだのは、店内の3密対策だけではない。「3月末に外食する人が減る中で、卒業式や入学式などお祝いをしたい人たちも多いのでは考え、オードブルや弁当のテイクアウトを始めました。こちらもその時はまだ、市内でテイクアウトをやっている店がほとんどなかったのと、飲食店を応援したいという社会的な流れもあり、SNSで拡散され、多くの注文が入りました」（松田氏）。

　この段階では、お祝いでの利用が主であることを踏まえ、オードブルは5,000円と10,000円、弁当は2,500円と高単価に設定。その後も外出自粛が続き、人々のニーズが日常食へ移行する一方で、周辺にテイクアウトを始める店も増えた。

　そんな中、今度はいち早く「期限付酒類小売業免許」を取得。日本酒・ワイン・シャンパーニュのコレクターでもある松田氏は、店内にある希少な酒も提供しながら、「日本酒とあてのセット」（4,000円〜）や「ワインとキャビアのセット」（12,000円～）などを打ち出した。「こういう状況なので、毎日、人の心理は変わります。飲食店でテイクアウト商品を買う目的が毎日の食事に変わったところで、次は“家飲み”のニーズが高まると考えました。常に半歩先を想像し、培ってきた調理技術を駆使して、店をブランディングしていくことが大事だと思います」と松田氏は語る。

　加えて、店を休業している飲食業界の仲間に車での配達を依頼するかたちでデリバリーも始めた。テイクアウトやデリバリーのメニューは、オードブルや酒とつまみのセットのほか、「竹の子と和牛バーグのホットドッグ」（1,100円）、「和牛握り」（1,100円～）、「おへそカレー」（748円）と、ファミリーのニーズも考えながら、全て新たに開発したものだ。

　通常営業時から料理は自分1人で作る松田氏。「現場が大好きで、生きがい。それに、意思決定を全部自分でできることは大きなメリットです」と松田氏。また、出店時から人件費、経費などをミニマム化できるよう努めてきたという。そのため「今回のような状況でも赤字にはなっていません。合わせて、スタッフは1日7時間勤務とし、労働時間を短くする店づくりも以前から進めてきました」と話す。

　現在、浜松パワーフード学会が立ち上げたクラウドファンディング「浜松のおいしい食を守る！応援プロジェクト」にも参加。飲食店にとって厳しい状況の中、地元を盛り上げながら、来店客、スタッフ、みんなが喜ぶ店づくりをさらに進めていく。