更新日:2022.8.23
目次
・衛生管理の最適化&見える化で食中毒をより効果的に予防!
・【step 1】HACCPの手順を知る
・【step 2】“一般的衛生管理”をチェック!
・【step 3】“重要管理”の考え方をプラス
・【step 4】確認・記録して保管する
・こちらも押さえたい! HACCP攻略のためのQ&A
今求められる飲食店の衛生管理を考える特集の後編。前編では基本的な衛生管理の方法について紹介した。後編では、「HACCP(ハサップ)」をクローズアップ。「HACCP」とは、ハイレベルな衛生体制が必要な施設で実施されてきた衛生管理の手法。そのHACCPの手法を取り入れた“新しい衛生管理”が、飲食店にも義務化。2021年6月から完全施行となる。そもそもHACCPとは何なのか、そして飲食店は具体的に何をすればよいかを4つのステップに分けて解説する。
【前編はこちら】
今やるべき衛生対策〈前編〉 “クリーンな店”のつくり方
衛生管理の最適化&見える化で食中毒をより効果的に予防!
製造工程のリスクを分析し、管理することで安全性アップ
2020年6月に施行された改正食品衛生法により、原則として食品を扱うすべての事業者は「HACCP(ハサップ)」に沿った衛生管理に取り組むことが義務化された。HACCPとは、Hazard Analysis and Critical Control Pointの頭文字をとった略称で、国際的に認められた衛生管理の手法だ。食品事業者自らが、製造工程に潜む「危害要因(ハザード)」を予測した上で、その防止につながる重要なポイントを管理することで、製品の安全性を確保する。
食品安全のコンサルティングを手がける柏原吉晴氏は「HACCPの目的を一言で表すと、食中毒をはじめとする事故を出さないことに尽きます」と説明する。「従来の衛生管理では、最終的に完成したものを検査し、安全性を確認していました。それに対しHACCPは、どこに危険が潜んでいるかを事前に分析し、それを排除・軽減していく点が大きな違いです。また、計画と記録を作成し、衛生管理を“見える化”することで、より効果的に食中毒を防ぐことができます(下図)」(柏原氏)。
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もともとHACCPは、アメリカ航空宇宙局が宇宙食の安全性を高めるために考案したもの。その有効性が評価され、1990年代以降は先進国を中心に食品工場などで導入が進められてきた。前述の通り、日本でもすべての食品事業者に導入が義務化されたが、知っておきたいのは、業種や規模によって内容が異なっている点(下図)。大規模な食品工場などにはHACCPに基づく厳格な取り組みが求められるのに対し、飲食店の場合は、「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」、つまり簡略化された方法でより簡単に取り組めるようになっている。
飲食店での食中毒事故の多さを見ても(下図)、HACCPに取り組むことは急務だと柏原氏は指摘する。「国内で起きる食中毒の半数以上が飲食店で発生しており、年間500件を超えています。2011年に焼肉店の集団食中毒で5人が亡くなった事件も記憶に新しいでしょう。食中毒は人命に関わり、決して他人事ではないことを、食に携わる人は肝に銘じる必要があります」(柏原氏)。食中毒予防の徹底は、自店の経営を守ることにもつながり、意義は大きい。次ページからは、取り組む上でのポイントを見ていこう。
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【step 1】HACCPの手順を知る
飲食店がやらなければならないHACCPは計画・実施・記録の3つだけ!
手引書のひな形を利用して2種類の衛生管理計画を作成
新たに飲食店に義務付けられた「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」。この全体像をまずは押さえておきたい。飲食店がすべきことを整理すると、大きく分けて①衛生管理計画を作成する、②計画に基づいて実施する、③実施状況を確認して記録する、という3つの作業がある。さらに、①の衛生管理計画は「一般的衛生管理」と「重要管理」の2つで構成され、すべての飲食店はこの両方について、計画書を作って実施し、記録していく必要がある。
「飲食店は、厚生労働省のホームページで公表されている“HACCPの考え方を取り入れた衛生管理のための手引書(小規模な一般飲食店事業者向け)”に沿って取り組めばOK。この手引書は、管轄の保健所からも入手できます。2種類の衛生管理計画についても、手引書にひな形が用意されているので、決してハードルが高いものではありません」(柏原氏)。
では、具体的に何をどう計画すればよいのかを、順に紹介していこう。
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【step 2】“一般的衛生管理”をチェック!
「なぜ必要か」を理解した上で計画を立てることが重要
「一般的衛生管理」は、業態や規模を問わず、すべての飲食店が行うべき衛生管理の共通事項だ。HACCPに取り組む上で、対応しておかなければならない前提条件にも位置付けられる。具体的には次の項目がある。
①原材料の受け入れの確認
②冷蔵・冷凍庫の温度の確認
③交差汚染・二次汚染の防止
④従業員の健康管理・衛生的作業着の着用など
各項目について、「なぜ管理が必要なのか」を理解して、計画を作成することが求められる。「①②に考えられるリスクとして例えば、原材料が納入された時点で腐敗や包装の破れなどがあると、有害な微生物が増殖している可能性が高まります。また、冷蔵・冷凍庫の温度管理が不十分だと、同じく有害な微生物の増殖や、食品の品質劣化が起きやすくなります」(柏原氏)。
同様に、③交差汚染・二次汚染の防止については、保管や調理の際に様々な経路からの汚染を断ち切ることが重要だ。④従業員の健康管理は、体調の悪いスタッフや、汚れた作業着などを介して食中毒が発生する危険性があることを常に心にとめたい。
続いて、各項目を「いつ」、「どのように」管理し、「問題があったときはどうするか」の対応を考える。手引書にひな形(下図)が用意されているので、自店ではどのように管理するかを決めて、シートを埋めていこう。例として、①原材料の受け入れの確認なら、
●いつ…原材料の納入時
●どのように…外観、におい、包装の状態、消費期限などを確認する
●問題があれば…返品、交換する②冷蔵・冷凍庫の温度の確認なら、
●いつ…始業前
●どのように…温度計で庫内温度を確認する(冷蔵/10℃以下、冷凍/マイナス15℃以下)
●問題があれば…温度異常の原因を確認し、設定温度の再調整、故障の場合は修理を依頼する
などのように記載していく。あまり難しく考えず、普段から行っていることを思い出しながら書くとよい。柏原氏は「基本的な項目ですが、ここをおろそかにして食中毒が起きてしまう事例が飲食店では少なくありません」と一般的衛生管理の重要性を強調する。
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【step 3】“重要管理”の考え方をプラス
調理中の温度帯に着目し、メニューを3分類してチェック
「一般的衛生管理」が、業態を問わず、どの食品についても行うべき共通事項であるのに対し、「重要管理」は、調理方法に合わせて個別に取り組む事項だ。具体的には、下図のようにメニューを調理方法によって「非加熱のもの」「加熱するもの」「加熱後冷却し再加熱するもの、または加熱後冷却するもの」の3グループに分類し、食中毒などを防ぐための調理手順やチェック方法を、あらかじめ決めておく。
「最初に自店の全メニューを分類し、手順を決める作業が必要です。面倒に感じられるかもしれませんが、グループごとにリスクが異なるため、この分類作業は重要です」と柏原氏。例えば「非加熱のもの」では、加熱工程がないため、食材に付いた有害な微生物がそのまま消費者の口に入る可能性が高くなる。一方、「加熱するもの」は生食よりリスクは低いものの、加熱が不十分だと微生物が生き残ってしまう。「加熱後冷却し再加熱するもの、または加熱後冷却するもの」も特有のリスクがある。「加熱後にゆっくり冷ましてしまうと、細菌が繁殖しやすい10~60℃の温度帯に長く置かれることになり(下図)、細菌が爆発的に増える恐れが。そのため、このグループはできるだけ早く冷却することがポイント。粗熱がとれたら保存容器に小分けして速やかに冷蔵庫に入れるなど工夫しましょう」と柏原氏は注意を促す。
メニューを分類したら、それぞれのチェック方法を決める。例えば「加熱するもの」なら、食品の中心部が十分に加熱されたときの火の強さや時間、見た目(形状・色)、中心部の色などを把握しておき、日々の調理の中では、見た目などによって加熱が十分かを確認することを徹底したい。
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【step 4】確認・記録して保管する
日々の衛生管理の記録は万が一の事態での証拠書類に
「一般的衛生管理」「重要管理」とも、計画を作成したら従業員に周知するとともに、計画に従って日々の衛生管理を確実に行うことが重要だ。さらに、実施状況を記録に残すことも求められる。記録することで、日ごろの衛生管理が適切に実施されているかを飲食店自らが把握しやすくなり、食中毒の未然防止につながる。「加えて、万が一食中毒の疑いを向けられたときに、自分たちが決めたルールをしっかり守って衛生管理を行っている証拠書類となり、お客様や保健所に対して自信を持って説明できます」(柏原氏)。
記録は1日の営業を終えた後に、計画通りに実施できたかをチェックし、記入する。問題があった場合にはその内容も書き留めるようにしよう。また、定期的に振り返りを行い、問題の対処法や改善点について従業員も交えて話し合うことが望ましい。「衛生上の問題が繰り返し発生する場合には、根本の原因を突き止めて対応を検討する必要があります。また、最初にルールを決めて始めても、どうしても日々の営業の中で手を抜いてしまうことや、慣れでやらなくなってしまうことも。食中毒のリスクについて、店長が従業員に対して繰り返し説明し、危機意識の共有を図ることが大切です」と柏原氏はアドバイスする。
さらに、記録した用紙は少なくとも1年間は保管する。保健所から提示を求められた場合に備え、速やかに見せられる状態に整理しておこう。
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「計画」「実施」「記録」の繰り返しが飲食店向けHACCPの肝であり、義務化されたといっても決して難しいものではない。一方で、いざ取り組むとなると気になる点も…。そんな疑問に、柏原氏に答えていただいた。
Q.HACCPで定められている飲食店の「危害要因」って何?
A.「微生物」「化学物質」「異物」の3つ
食べた人の健康に悪影響をもたらし得る危害要因は、大きく3つ。1つ目が「微生物」で、危険な細菌やウイルス、寄生虫、カビなどが該当する。2つ目が「化学物質」で、食物アレルゲン、洗剤、殺虫剤などだ。フグ毒や貝毒など、自然に存在する毒も化学物質に当てはまる。3つ目の「異物」は、金属品やガラス片など硬質なものを指し、口の中のケガにつながりやすい。
飲食店での食の事故というと、1つ目の微生物による食中毒がまず連想されるが、危害要因はそれだけではないことを心にとめておこう。
Q.HACCPにはいつから取り組めばいいの?
A.すでに義務化。速やかに導入して実施を
2020年6月からすべての飲食店はHACCPに沿った衛生管理を行うことがすでに義務化されている。ただし1年間の経過措置期間があり、HACCPに沿った衛生管理の導入を進める期間を経て、2021年6月1日から完全施行となる。2021年6月以降は、きちんと記録できている状態にしたい。
Q.HACCPに沿った衛生管理を実施しなかった場合、罰則はある?
A.営業停止の行政処分を受けることも
2021年6月の完全施行後は、管轄の保健所が通常の定期立入検査や営業許可の更新の際に、HACCPに沿った衛生管理計画の作成や、実施がなされているかを監視指導する仕組みとなる。実施状況に不備がある場合は改善指導があり、それでもなお改善されない場合には、営業の禁止・停止などの行政処分が下されることもある。法律で定められている以上、取り組むことは必須と認識しておきたい。
Q.セントラルキッチンにも飲食店向けのHACCPが適用される?
A.規模などにより変わるため保健所に確認が必要
近隣にある複数のグループ店の仕込みを1カ所でまとめて行うような場合は、店舗の厨房の一部を使うことも多いため、飲食店と同様の「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」。一方、規模が大きくキッチンの従業員数が50人を超えるような場合は、より厳格な「HACCPに基づく衛生管理」が適用される。このように、セントラルキッチンの規模や営業許可の種類によってもどちらに該当するかが変わってくるため、必要に応じて管轄保健所に相談し、助言を得るようにしよう。
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