食料システム法や消費税制などによる影響と対策は?
2026年は飲食業界にとってどんな年になるのか。実は、2026年は飲食業界に関連深い法律(改正法)が施行される。4月1日には食料品の適正な価格での流通を目指す「食料システム法」が施行されるほか、飲食店などでの高年齢スタッフの労災防止策が努力義務となる。さらに、10月にはインボイス制度の経過措置の内容が変更されるほか、今年度中に「カスタマーハラスメント防止策の義務化」「労働時間の週44時間特例の廃止」が施行される可能性が高く、食料品の消費税が撤廃される可能性もある。
法律の施行・改正について、あまり直接的な影響を感じない飲食店経営者も多いかもしれないが、大きな社会の動きを映し出す鏡でもある。法律の背景にある「社会がどう変化しようとしているか」に目を向け、対策を講じていく必要がある。そこで、それぞれの法律の施行を踏まえて、これからの飲食店にはどのような対策・姿勢・考え方が必要かを株式会社船井総合研究所の石本 泰崇 氏にうかがった。
目次
・食料システム法(2026年4月1日~)
・労働安全衛生法※改正(2026年4月1日~)
・インボイス制度※経過措置変更(2026年10月1日~)
・カスハラ防止法(2026年10月1日~の見込み)
・労働基準法※改正(2026年度中の見込み)
・消費税の食料品0%(2026年秋以降の可能性)
・まとめ
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食料システム法(2026年4月1日~全面施行)
仕入れ価格の値上げも?顧客体験価値がさらに重要に!
| いつから? | 2026年4月1日から全面施行。 |
|---|---|
| どんな内容? | 原材料費や人件費が上がった場合、生産者や 仲介業者がそれを価格に転嫁しやすくなるよ うな規定が設けられる。米、野菜、牛乳、豆 腐、納豆の5品目は、適正な価格形成に向けた コスト指標が作成される。 |
| 飲食店への影響は? | 生産者や卸業者から「コスト指標に基づき、値 上げさせてほしい」という交渉が法的な根拠を 持って行われるようになり仕入れ値が上昇する。 |
| どんな対策が有効? | ・原価率の設定見直し ・付加価値(ストーリー)の発信 |
「食料システム法」の目的は「食料の持続的な供給」と「食品産業の持続的な発展」です。つまり、生産者が今後も事業を長く続けていけるような販売価格や仕組みを実現するために制定された法律といえます。
飲食店の視点からポジティブに読み解くと、国産品など付加価値の高い食材を使っている店にとっては、その信用が今まで以上に担保される(価格に転嫁しやすくなる)といえます。また、食品ロス対策など環境負荷を下げる取り組みを行う飲食店を支援する認定制度も始まりますので、認定をもらうことで補助金申請や融資において優遇される可能性もあるでしょう。
ただ、実際はネガティブな現象も起こりうると思います。なぜなら、産地や銘柄名などをうたえる高付加価値の食材を使っている飲食店ばかりではないからです。食材の付加価値に関係なく、生産者や卸業者から値上げの交渉を受ける頻度は今後さらに増えることが考えられます。
そこで飲食店が考えなければいけないのは、仕入れ値を抑える方法ではなく、仕入れ値の上昇を受け入れた上で、「いかに“顧客体験価値”に変えて価格転嫁するか」です。顧客体験価値は、大きく「商品力」「サービス力」「居心地」の3つに分けられます。この店でしか味わえない商品(料理・ドリンク)を、この店でしか体験できない接客や演出によって提供し、また来たいと思える空間的な居心地の良さを整えることで、原価上昇分を価格に転嫁しても集客力が落ちない体制を作ることは可能です。もちろん簡単なことではありませんが、だからこそ「準備・対策をしていた店」と「していない店」で、今後生き残れるかどうかが分かれると予想しています。
労働安全衛生法※改正(2026年4月1日~)
シニアスタッフの労働環境改善を努力義務化!
| いつから? | 2026年4月1日から。 |
|---|---|
| どんな内容? | 高年齢労働者への労災防止対策の努力義務化。 |
| 飲食店への影響は? | 転倒防止対策や熱中症対策、メンタルヘルスなど、 高齢者スタッフへのケアが求められるようになる。 |
| どんな対策が有効? | ・厨房に温湿度計を設置 ・厨房の床を水・油で滑らないよう清掃を徹底 ・防滑靴の導入 ・高齢スタッフには重い物を持たせない ・段差に手すりをつける ・エイジフレンドリー補助金の活用 |
目的は、60歳以上の高年齢労働者の労働災害を防止することです。飲食店にとって、シニアスタッフは、長く働いてもらえる重要な戦力。卒業や就職がある学生スタッフや帰国がある外国人スタッフなどに比べて離職しにくいといえるからです。今回の法改正によって、事業者には就業年齢に即した安全性の配慮(段差の解消、機器の自動化など)が求められるようになります。
ポイントは、どんな配慮が必要なのかを、トップダウンではなく全従業員参加型で明確にすること。つまり、実際に働いているシニアスタッフに「危険だと感じる業務や場所」をヒアリングしたり、定期的に健康状態を確認できる体制を作ることが重要。その上で、現場の声に即した対応策を検討しましょう。
その際に、「エイジフレンドリー補助金」などを利用するのも一案です。シニアスタッフの安全のために店舗のさまざまなエリアの改修に活用できるのでおすすめです。また、シニアスタッフに限らず従業員の健康保全のために重要だなと感じているのが「熱中症対策」です。業態によりますが、飲食店の厨房は特に夏場などに信じられない暑さになることがあります。今はさまざまな熱中症対策グッズが登場していますし、今後、熱中症対策に関連する補助金が登場する可能性もあります。職場環境改善の補助金には注目して、有効に活用していただきたいです。
【飲食店が使える補助金の情報はこちら】
いま、飲食店が使える補助金&助成金まとめ
インボイス制度※経過措置変更(2026年10月1日~)
影響は限定的だが、仕入れ価格上昇という課題は変わらず
| いつから? | 2026年10月1日から |
|---|---|
| どんな内容? | 免税事業者(インボイス未登録の業者) から仕入れる場合、これまで消費税額の 80%が控除されたが、控除率が70%に変 更される。 |
| 飲食店への影響は? | 免税事業者から食品などを仕入れる場合 に納税額が増える。 |
| どんな対策が有効? | ・仕入れ先の再確認 ・メニュー価格の再考 |
2023年10月から開始したインボイス制度が2026年10月以降、経過措置の変更に伴って、免税業者から仕入れている事業者は納税額が増加する可能性があり、利益率の低下が予想されます。必要な対応としては、免税業者に対し「インボイスの登録を促す」「価格交渉をする」「仕入れ先の変更を検討する」などが考えられますが、そもそも飲食店で免税業者から仕入れている例はそれほど多くないのではないかと思うので、影響は限定的だと思います。
ただ、忘れてはいけないのは、そもそも仕入れ価格はインボイスの経過措置変更に関係なく上昇しているということ。社会全体の物価が上昇している中で、「食料システム法」も含めて、それを適正な価格で販売することを国は求めています。つまり、本来であれば、飲食店もこの流れに乗って一斉に値上げをするのが自然なのですが、消費者のマインドや可処分所得がそれを受け入れるところまで至っていないのが現実です。この事実を直視して現状分析を行い、商品設計や収益構造を見直すことが飲食店にとって唯一の活路といえそうです。
【インボイス制度についての詳細はこちら】
飲食店のインボイス対応完全ガイド:対象判定・登録手順・注意点
カスハラ防止法(2026年10月1日~の見込み)
人材採用や定着に影響が出る可能性も
| いつから? | 2026年10月1日から施行の見込み |
|---|---|
| どんな内容? | 「悪質な迷惑行為から従業員を守る こと」を経営者の義務とする。 |
| 飲食店への影響は? | 対策していない店は求人への応募が 減ったり、離職が増えたりするリスクがある。 |
| どんな対策が有効? | ・店の方針をポスターなどで掲示 ・マニュアルの作成 ・記録(録画・録音)の徹底 ・助成金の活用 |
カスタマーハラスメント(就労環境が阻害される来店客の言動)から従業員の心身を守り、健全な職場環境を確保することが目的です。カスハラへの対応一つでその店の倫理観が測られるので、顧客にも伝わる対策が重要です。一番わかりやすいのは、店内に啓蒙ポスターを掲出することでしょう。厚生労働省のホームページではポスターのデザイン案がダウンロードできるので、参考にしてみてください。
そのほか、防犯カメラの設置も有効です。カスハラの証拠となる映像や音声が残るので抑止力になりますし、人の動きや接客の様子を共有することでスタッフ教育にも利用できます。就業環境が守られている店は働きやすく、雰囲気が和やかで、お客様の居心地もいいはず。先述した顧客体験価値を上げる居心地のよさにもつながりますので、法律の施行に関係なく、社会的ニーズの高い取り組みだととらえて対策していただきたいです。
【東京都のカスハラ防止条例はこちら】
東京都で初のカスハラ防止条例が施行!飲食店が取るべき対応とは
労働基準法※改正(2026年度中の見込み)
週44時間の特例が廃止されて週40時間に
| いつから? | 2026年度中の見込み |
|---|---|
| どんな内容? | 従業員10人未満の飲食店などに認 められていた「週44時間までなら 残業代を払わなくてよい」という 特例が廃止され、全業種一律で「週 40時間」が法定労働時間になる。 |
| 飲食店への影響は? | 週に4時間(月換算で約16〜18時間) 分の法定内労働が「残業」に変わる ため、人件費を圧迫する。 |
| どんな対策が有効? | ・変形労働時間制の導入 ・営業時間の短縮・中抜き ・DX化による業務効率化 |
週の所定労働44時間の特例廃止は、労働者の待遇改善の一環です。ただ、小規模事業者の多くが、この特例を利用していないとも言われています。飲食店は多くの場合、週40時間労働に縛られない変形労働制を採用しているので、影響は限定的でしょう。ですが、特例を採用している場合は、廃止に伴って週40時間を超えた分は残業代の対象となって人件費が予想以上に増加するので、注意が必要です。
この機会に、スタッフの労働時間をきちんと把握し、シフト管理を厳格にすることをおすすめします。変形労働時間制であってもなくても、所定労働時間の超過分は割増料金の対象となります。労働時間をリアルタイムで正確に把握できれば、超過分の発生を事前に調整でき、予期せぬ人件費増というリスクを避けることもできます。有効な対策としては、デジタルツールを導入してシフト管理をシステム化すること。無料ツールなども上手に活用し、リスク回避に役立てていただきたいです。
【労務管理のノウハウはこちら】
こんなときどうする?飲食店の労務管理 相談会~人に関する悩みをプロに聞いてみた~
消費税の食料品0%(2026年秋以降の可能性)
税抜き価格上昇への対応がカギ
| いつから? | 2026年秋以降の可能性 |
|---|---|
| どんな内容? | 「食料品」の販売税率を、時限的に 8%から0%に変更する。 |
| 飲食店への影響は? | 外食離れのリスク増大。仕入れる食 材の税率が0%になると、確定申告で 「売上税額から差し引ける仕入税額」 がなくなる一方で、売上には10%の税 金がかかるため、納税額が増える。 |
| どんな対策が有効? | ・テイクアウトの強化 ・体験価値の創出 ・メニューの価格見直し |
消費者の負担軽減を目的とした食料品の消費税率を時限的に0%にする議論が国会でなされています。現時点では、飲食店にとっての影響は不確かですが、イートインと同じ商品でもテイクアウトは消費税が0%になるとしたら、テイクアウトの売上比率の高い飲食企業がテイクアウトに注力する傾向は強まると予想されます。特にランチ営業ではテイクアウトが選ばれやすくなる可能性はあるでしょう。ただ、ディナーにおいては外食に求める体験価値がテイクアウトで代替できないものが多いため、大きな影響は考えにくいです。
一方で、食材の仕入れに消費税がかからないことになるので、理論上では食材原価は低下するはずですが、実際どうなるかは不透明です。なぜなら、食品の税抜き価格自体が物価高の中で上昇傾向にあるから。気候変動や食料システム法の影響も加わることで、仕入れ価格が低下することは考えにくいです。
ですので、求められるのは消費税制がどうなっても税抜き価格の上昇を前提にした店づくりをすることです。前述したとおり、「商品力」「サービス力」「居心地」を軸に、顧客体験価値を上げることに注力し、わざわざ行きたくなる飲食店であり続けることが、ますます不可欠になるでしょう。
まとめ
法律の施行や改正だけを見ても、2026年は飲食企業にとってさまざまな対応に迫られる年になりそうです。
日本の飲食企業の多くは、“おいしい料理をできるだけ安く消費者に提供する”というマインドを持ち続けてきました。その中で、持続可能な成長曲線を描こうとするとき、このマインドを見直して、売価を上げる方向への舵とりをする企業が増えていくでしょう。2026年はそのきっかけの年になるかもしれません。
また、料理のライブ感、生産者とのつながり、心地よい空間やサービスといった、他店では得られない体験価値の創出にどう取り組み、動画を含めたツールでどうアピールしていくのかも大事です。顧客体験価値を上げながら、上手に原価高騰と共存できた店が強みを発揮する年になりそうです。
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