いよいよ年間最大の繁忙期・忘年会への取り組みがスタート。特に大人数の予約が見込める企業の宴会は、9月末から10月にかけて告知を開始し、確実に予約に結びつけたい。そのために有効な“告知の戦略”について、飲食店コンサルタントの白岩大樹氏に聞いた。
他シーズンとは違う忘年会告知。競合店との“情報戦”を勝ち切る
「忘年会の告知は、競合店との“情報戦”です。この戦いに勝ち切ることが、忘年会告知の大きなポイント」と、白岩大樹氏は開口一番、こう切り出した。
他の宴会シーズンの場合、告知には客の外食ニーズを喚起させる役割もある。場合によっては、競合店との合同イベントなどの連携も有効だ。しかし「忘年会の場合はすでに、喚起をせずとも宴会需要は存在しています。その需要を、競合店ではなく自分の店が獲得する、という視点が大切になります」と白岩氏。特に大人数となる企業の宴会は、9月末から10月初めに告知を開始し、競合店より先に“優良客”を獲得したい。
そのためには、競合店の動向をリサーチして、負けない企画やサービスを用意するとともに、告知の方法には“作戦”が必要になる。では、①何を、②誰に、③どのように行うか――。忘年会の告知作戦を3つのステップで見てみよう。
STEP1
いかにして競合店よりもシェアを取るか。「選ばれる店」になるための告知内容を熟考!
価格に応じた満足度を追求。自店ならではの「奥の手」を
「選ばれる店」になるためには、何を告知するべきか。白岩氏は「価格、ボリューム、食材、ドリンク、個室、融通性、独自のサービス」とリストアップする。
まず、価格。「他店より少しでも安く」と考えがちだが、忘年会の場合は、必ずしも安いことが歓迎されるわけではない。例えば企業の宴会の多くは、予算が決まっているからだ。「そもそも値引き戦では、個店はチェーンにかないません。それよりも価格に見合った満足感を提供できることをアピールすべき」と白岩氏。
ボリュームも同様。「残るともったいない」という意識は根強く、量が多いことが必ずしも売りにならない。質と量のバランスを打ち出すほうが有効だ。
食材では肉と魚の両方をそろえること、ドリンクではノンアルコールやオリジナルカクテルがあることが、幅広い客層に対応できる証となる。個室や内装、アクセスのよさもアピールポイントにつながる。
コースをオーダーメイドできる融通性も、選ばれるための切り札の1つ。「単に“ニーズに対応”するのではなく、『ここをこうしましょう』と提案すると、予約率は格段に上がります」と解説する。
そのほか、「奥の手」ともいうべき店独自のサービスも重要な武器。例えば、下見会サービス、お土産をつける、幹事へのねぎらいチケット、2次会会場の確保など、アイデアを練って用意したい。
注意が必要なのは、「オリジナルなサービスは競合店とかぶらないように熟考すること。特に『奥の手』は、競合店に真似されないように秘匿すること」と白岩氏。“情報戦”と呼ぶ理由がここにある。
STEP2
情報を的確に分けて整理。誰に何を発信するか、優先順位をつける!
“優良顧客”へまずアプローチ。情報に格差をつけて予約獲得
忘年会の告知内容、特に「奥の手」というべき店独自のサービスは、競合店に知られないように客に告知する――。これが忘年会告知の重要な点だ。「最初から、すべての内容を広く公開するのは危険。競合店もリサーチしていますから、告知が早ければ早いほど、真似される確率が高まります」と白岩氏。せっかくの「奥の手」も、競合店に真似されたら差別化できず、不発に終わりかねない。
では、どうすれば競合店に秘匿しながら、ターゲットに告知することができるだろうか。白岩氏は「広く一般に知らせる情報と、競合店には知られたくない情報を分け、誰にどの情報を告知するかをランク付けすること」を提案する。
そのランクを図式化したのが、下図。情報の秘匿性レベルの高低と、忘年会告知、および「奥の手」情報の提案順位を示している。告知対象としてもっとも重要視すべきなのが、「前年に(忘年会を)利用した企業・団体」。次いで「直近3カ月に利用した企業・団体」「個人利用の常連」「一般利用客」「世の中全般」となる。
「情報の秘匿性レベルが高いターゲットほど、利用実績がある“優良顧客”。こうしたお客様は成約率が高く、しかもキャンセルが少ない」と白岩氏。大切なのは、ここから優先的に予約をとること。優良客で予約が埋められれば、安心して忘年会シーズンを迎えることができる。
同時に、競合店にこれらの優良客をとられないようにするために、「秘匿性レベルが高いターゲットほど、個別アプローチを徹底するべき」と白岩氏は説く。単なる客と店ではなく、人対人の関係を目指して、メールやダイレクトメール、電話、訪問などを駆使して、情報を個別に渡していく。時間がかかりそうだが「9月末から10月に始めれば、十分に間に合います」と白岩氏。“今だからこそ”できる有効な作戦というわけだ。
STEP3
「特別感」が心をくすぐる。ターゲットに応じて的確に情報発信!
好奇心をくすぐる内容がカギ。「店対客」より「人対人」を重視
STEP2のランク付けを踏まえて、実際にどんな段取りで、個別に情報を告知していくか、具体的にみてみよう。
まず、「世の中一般」への告知。Webでの発信もここに含まれる。誰でも見ることができるので、店に興味を持ってもらえる内容であることは必要だが、だからといって情報を開示しすぎないことが大切。「重要なのは、お客様にアクションを起こしてもらう要素を盛り込むこと」と白岩氏は指摘する。
例えば、「ほかにもプレミアムな特別コースあり。お電話お待ちしています」などの誘い文句を入れ、店へのアプローチを誘導する。「耳寄り情報をゲットするためには、自分から店に連絡したほうがいい」と、相手が思うように表現できれば、大成功だ。首尾よく問い合わせがきたら、情報開示の次の段階。コミュニケーションをとって、忘年会の人数や要望、連絡先を把握し、今度は店からアプローチ。郵便やメールなどを送って、コースプランの詳しい内容、下見会の実施など秘匿レベルが一段高い情報を個別に届ける。チラシなどには必ず相手の企業名や個人名を書き入れて、他に流れにくくする配慮も必要だ。
この情報に反応を示したターゲットに対して訪問や面談を実施し、もっとも秘匿性の高い「奥の手」情報を届けるのが、情報開示の最終段階になる。コース内容に対する要望に具体的に応えたり、2次会会場の確保を代行したりといった、いわば「最終カード」をここで切る。
このように、段階を踏んだやり取りをしながら相手を見極め、情報を個別に開示していくことで、店を探している人との距離を縮めるとともに、特別感を持ってもらうことができる。「特別感が伝われば、選ばれる確率はぐっと上昇します」と白岩氏は太鼓判を押す。
もちろん、WEBを見て問い合わせをしてくれた相手が、「前年に(忘年会を)利用した企業・団体」や「直近3カ月に利用した企業・団体」など、「情報の秘匿性レベル」が上位のターゲットには、最初からアプローチを強めて優先的に情報を開示し、早期に予約につなげることも大切だ。
こうした利用実績のある相手や、個別のアプローチで特別感を持った相手は、ドタキャンやすっぽかしの確率が低い“優良客”。情報の告知法を使いこなして、彼らを確実に獲得し、忘年会商戦を手堅く勝ち抜こう。