2023/04/27 特集

“店頭販売”で売上&お店の価値をアップ!(2)~生産者との連携で野菜を店頭販売し、新規客獲得にも成功~

コロナ禍のテイクアウトニーズを獲得し、店の価値アップやブランディングにつなげている事例を紹介する全3回シリーズ。2回目は、生産者と連携して野菜の店頭販売を行って、集客につなげた取り組みを紹介する。

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目次
生産者との連携を強化し、野菜の直売を開始
野菜の直売によって認知が広がり、新規客を獲得!

 コロナ禍で一気に高まったテイクアウトニーズ。店頭販売によってそうしたニーズを獲得し、店の価値アップやブランディングにつなげている店がある。売上創出だけではなく、持ち帰りニーズの獲得によって認知度や新規客獲得に成功した事例を3つ紹介する。

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 第2回は、神奈川・日吉の居酒屋「日吉 日本酒 いろり屋金魚」。コロナ禍で苦しむ旧知の農家と手を取り合い、店頭で野菜の直売を開始。売上創出だけでなく、「野菜にこだわる店」というブランディングにつながり、新規の顧客獲得にもつながった。さらに、生産者から市場にのせられない野菜を格安で仕入れさせてもらうことで、原価を抑えたおすすめメニューを開発し、顧客満足度と利益アップにも成功している。

地元野菜の活用と店頭販売で、認知拡大と利益率アップを実現!

日吉 日本酒 いろり屋金魚(神奈川・日吉)
神奈川県横浜市港北区日吉本町1-4-25 1F
https://r.gnavi.co.jp/a567202/
2013年に日吉駅から徒歩2分の場所にオープン。古本屋だった物件を生かし、木の温もりが伝わる落ち着いた空間に改装。テーブル席や掘りごたつ席のほか、いろり焼きの調理を目の前で楽しめるカウンター席を備え、普段使いはもちろん、ビジネス層の宴会やカップルのデート、ファミリーの記念日など、さまざまなシーンで利用されている。

コロナ禍を契機に生産者との連携を強化し、野菜の直売を開始

 2013年7月、神奈川県横浜市の日吉駅前商店街にオープンした「日吉 日本酒 いろり屋金魚」。全国各地の地酒を常に40種類近く取りそろえ、旬の食材を使った料理を売りにした居酒屋だ。「近くに大学のキャンパスがあるため、学生向けの飲食店が多いエリアですが、もう少し上の20代後半~40代前半の方をターゲットにしました」とオーナーの田島功介氏は語るように、ビジネス層やファミリーを中心に集客してきた。

 そんな中、コロナ禍が起こって売上が激減。そこで、ランチ営業や弁当販売に取り組むとともに、同じく売上減に苦しむ地元の「藤田農園」との提携を強化して生き残りを模索することにした。

 藤田農園は店から車で15分ほどの距離にあり、近隣の飲食店やスーパーマーケットに野菜を卸してきた。「いろり屋金魚」も以前から取引があったが、扱っている品種が少なかったこともあり、関係性が希薄でコロナ禍になる直前の仕入れ量はごくわずかだった。「コロナ禍をきっかけに、お互いにとってどのような取引内容が望ましいのかを藤田農園さんと腹を割って話し合い、助け合いながら逆境を乗り越えようと考えました」と田島氏は振り返る。

 話し合いの結果、卸し先を失ってタブついてしまった藤田農園の野菜を「いろり屋金魚」が一手に買い取り、店で活用することにした。料理長の阿部恭隆氏が中心となり、店内で提供する料理はもちろん、「酒友オードブル」(1,800円)などのテイクアウト商品にも野菜を活用した。

日本酒と一緒に楽しめる料理を集めた「酒友オードブル」(1,800円)。藤田農園のルッコラを使った「ルッコラとベーコンのおひたし」、同じくわさび菜を使った「ツブ貝のチャンジャ」のほか、「がっこチーズ」「子持ち昆布」「シメサバ」「梅水晶」など、日本酒に合うメニューを9種類詰め合わせている。花見シーズンに酒のお供として購入する人もいる

 さらに2021年夏からは野菜の店頭販売も開始。藤田農園の紹介とともに、旬の野菜を店先に並べており、ほぼ仕入れ原価で販売しているため、近くのスーパーマーケットと比べても割安だ。「ほかのお店と値段を比較した上で当店で購入されるお客様も少なくありません。当店としての利益はほとんどありませんが、藤田農園さんにはこちらが希望する野菜を仕入れさせてもらったり、いろいろ融通を利かせてもらっています」と田島氏はメリットを語る。

コロナ禍を機に、旧知の関係だった藤田農園から仕入れた野菜を店頭で販売するようになった
陳列棚の横には、その日販売している野菜や藤田農園の情報も紹介。結果的に、こうしたアピールが「いろり屋金魚」が野菜にこだわっている店であるという認知拡大にもつながった

 取材時(2023年4月)は、10種類以上の野菜が店頭に並んでおり、中でも人気が高いのが、3~4月にかけて最盛期を迎えるたけのこだ。藤田農園が週に2回、自社で収穫した掘り立てのたけのこを「いろり屋金魚」がすべて買い取り、すぐにアク抜きして店頭に並べている。これが大人気で、すぐに完売となるほか、店内やテイクアウでも「たけのこの囲炉裏焼き」(780円)として提供し、売り切れ必至の人気メニューになっている。

取材日(2023年4月3日)のラインナップ。あく抜きをした「朝掘たけのこ」や「ちんげん菜」「水菜」「ロメインレタス」「春菊」など、季節ものを含めた新鮮な野菜を販売
「たけのこの囲炉裏焼き」(780円、写真はテイクアウト用)。旬のたけのこのニーズは高く、イートインでもテイクアウトでも注文率は高い。店頭販売していることで「たけのこが食べられる店」というアピールにもつながっている

野菜の直売によって認知が広がり、新規客を獲得!

 一方で農園と協力し合う上での苦労もある。ルッコラやカリフラワー、パクチーなど和食では使用しづらい品目を引き受けることもあるからだ。これらは料理長の腕と経験でメニューを工夫。飲食店ならではの付加価値の発揮で、困難を乗り越えている。

 こうして、野菜の直売を続ける中で思わぬ効果を感じるようになった。それが新規客獲得への貢献だ。まず、野菜直売によって店の認知が広がった。今まで店の存在に気付いていなかった主婦層が、店頭に並んだ地場の野菜に惹きつけられて、足を止めるようになったのだ。「ほとんど原価で販売していますし、何より収穫したばかりで鮮度の高い良品ばかり。他店と比べた上で購入してくださる方が多いです。野菜の購入をきっかけに店のスタッフとのコミュニケーションが生まれ、後日家族で来店してくれる例もありました」と田島氏は笑顔を見せる。

 さらに、店頭に新鮮野菜が置いてあることで、“食材にこだわっている、安心安全な飲食店”というイメージが醸成され、新規客の獲得につながっているのだ。

 また、藤田農園との関係性が深まったことで、規格外で小売に卸せない野菜を格安で販売してもらえるようになり、原価率の調整にもつながっている。野菜販売をきっかけにした生産者との絆の構築が、折からの物価高の中で、利益率の維持と向上につながっている。

 現在の課題は「平日の集客」と田島氏。コロナ禍の影響でエリアにビジネス層が減ったことが原因の1つだが、アフターコロナの新たなフェーズにどう対応して成長するかに取り組んでいる。

オーナー 田島功介氏
2004年に同じ物件の2階にベトナム料理店「HOA HOA」を創業。その後、1階に「日吉 日本酒 いろり屋金魚」を出店。コロナ禍を経て、新たなチャレンジとしてとんかつ店やパン屋なども開業した。

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