タイ発 世界の料理をタイの味で 前編

様々な飲食店が建ち並び、世界各国の料理を楽しめる食の都・バンコク。最近、ここでトレンドとなっているのが、各国の料理とタイ料理の融合。前編では、パスタやうどんなど「麺料理」とのタイの味のコラボを紹介。

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Vol.123

世界中から多くの旅行者や移住者が集まるタイの首都バンコク。様々な飲食店が建ち並び、世界各国の料理が楽しめる「食の都」に、最近ある現象が起きている。それは各国の料理とタイ料理の融合。かつて日本で生まれた「明太子パスタ」などのように、他国の料理を自国でなじみのある味と組み合わせて提供する店が好評を博しているのだ。

そのなかから、前編では「麺料理」を取り上げる。イタリアのパスタと日本の讃岐うどんが、タイの伝統的な味付けと出合って、どのように受け入れられているのかを紹介する。

タイ料理の代表格であるグリーンカレーをソースに使ったスパゲティなど、本格的なタイの味をパスタで楽しめる店が登場している
子供のころから洋食や日本料理に慣れ親しんできた若い世代がトレンドを牽引。特に情報発信力の強い学生が集まるショッピングモールなどでの出店が、成功の秘訣といえるかもしれない
タイで昔から愛されている「パッキーマオ」という素朴な炒め料理をアレンジした「焼きうどんキーマオ」。伝統的な料理と日本の焼きうどんのコラボレーションがタイの人々にも受けている

和風パスタをヒントに生まれたタイオリジナルのパスタ

バンコク随一の繁華街サイアムにある「サイアム・スクエア・ワン」は、観光客に人気のショッピングモール。タイ最高学府であるチュラロンコーン大学に隣接しており、放課後になると学生たちも大勢訪れる。そんなスポットに2014年6月オープンしたのが、フュージョン・パスタ専門店「アイアム・タイパスタ(I am Thai Pasta)」だ。

豚ミンチを唐辛子やホーリーバジルと炒めた料理「ガパオ」をアレンジした「スバゲティ・ガパオ・オンセン」。辛さは3段階から選ぶことができる

ここでは、グリーンカレー、トムヤムクンなどを筆頭に、22種類のタイ風味のパスタがそろう。パスタに使うトムヤムクンなどのソースは伝統的なレシピで作り上げ、レモングラスなど生のハーブや生胡椒をふんだんに盛り込んでいるのもポイント。一番人気の「スバゲティ・ガパオ・オンセン」(118バーツ=354円)は、タイの定食メニューの定番「ガパオライス」のライスをパスタにしたもの。「ガパオライス」では上に目玉焼きをのせるのが一般的だが、これをトロトロの温泉玉子にしたことで、スパイシーな肉みそがパスタとも絶妙に絡み合う。「ガバオライスの亜流ではない、新たなおいしさ」と大人気となっている。

また、「魚介たっぷり」という意味のタイのスープ「ポテーク・タレー」をアレンジした、「スパゲティ・ポテークタレー」(158バーツ=474円)は、イカやムール貝など、身が大きめの新鮮魚介を使い、“たっぷり感”を演出。酸味が利いたピリ辛スープに、パクチーとよく似た香りを持つパクチーファランなど、魚介の旨味を引き立てるハーブを加えて、個性の強い一皿に仕上げている。

こうしたパスタを開発するヒントとなったのは、日本の「和風パスタ」。オーナーシェフのアシラ・ルジラティカン氏は、7年前まで埼玉県でタイ料理店を経営しており、明太子パスタなど日本人が好む味とパスタの組み合わせを見て、「同じようにタイ料理もパスタと合わせることができるはず」と思いついたのだという。

パスタには輸入食品を使わず、国内にある調味料で作ることができるため、一般的なイタリアンパスタと比べて価格もリーズナブル。「洋風のパスタも食べたいけど、食べ慣れているタイの味も好き」という学生や、「定番のタイ料理以外のユニークなものを食べてみたい」という観光客らをしっかりとつかんでいる。

魚介スープがベースの「スパゲティ・ポテークタレー」。カラフルなハーブや唐辛子を使い、見た目にも「おいしそう」と思わせる工夫が人気の秘密
オーナーシェフのアシラ・ルジラティカン氏。日本にもタイパスタ専門店を出すのが夢だという
アイアム・タイパスタ(I am Thai Pasta)
5F, Siam Square One, Rama 1 Road, Pathumwan, Bangkok
https://www.facebook.com/IamThaiPasta/

地元の味への歩み寄りで日本のうどんがタイに定着

前述の「サイアム・スクエア・ワン」では、2014年6月にオープンした「丸亀製麺サイアム・スクエア・ワン店」もまた、地元タイの人々などから人気を得ている。セルフで付け合せの天ぷらなどを選ぶスタイルの日本のうどん店「丸亀製麺」がタイに進出し、すでに上記店舗を含め、24店舗をタイ国内に展開している。

「スパイシーポークうどん」は、豚肉にピーナッツの食感とレモンの酸味、辛味を加えたエスニック風味。しかし、あくまでもかけうどんが主役であることを忘れさせない

「丸亀製麺」がタイに初めて進出したのは2012年。当初は、出汁をかけたシンプルな「かけうどん」など、日本で人気のメニューを主体に勝負していた。しかし、「タイ人には変化を嫌う国民性があり、未知の味はなかなか受け入れてもらえませんでした」と、経営母体である株式会社トリドールの海外進出担当・長谷川真也氏が語るように、当初は売上が伸び悩んだ。そんななか、転機となったのは初出店から約4カ月後のこと。タイの伝統的な酸っぱ辛い豚肉料理「マナオムー」をイメージさせる「スパイシーポークうどん」(119バーツ=357円)の提供を開始したところ、タイの人々に大人気となったのだ。これは、かけうどんをベースに、豚肉、レモン、唐辛子など辛くて酸っぱい具材をトッピングしており、慣れ親しんだタイ風味の具材を食べ進めるなかで、日本の出汁やうどんも味わうことができる一品。「まずは、うどんに親しんでもらいたい」という狙いが的中した。

また、2014年には「シーフードトムヤムうどん」(139バーツ=417円)を発売。ふつうは屋台でなく、レストランで食べるぜいたくなトムヤムスープと合わせることで、タイの人々に「うどんは、屋台で安価に食べることができる麺料理とは違う“ごちそう”」という印象付けに成功した。酸っぱ辛いトムヤムスープともちもちとしたうどんが絶妙に絡み合い、ますます多くのファンを獲得していった。

さらに、炒めものが好きなタイ人の好みを考慮し、「焼きうどん」「オム焼きうどん」「スパイシー焼きうどん」「焼きうどんキーマオ」といったタイ風味の焼きうどんを次々に発表。特に人気の「焼きうどんキーマオ」(109バーツ=327円)は、家庭などで出される昔ながらのローカルフード「スパゲティ・パッキーマオ」の焼きうどんバージョンで、ハーブと具材をタイ独特の甘辛なしょうゆだれで炒めたもの。旨味と香りと辛さがガツンとぶつかり合い、“懐かしさ”と“新しさ”が共存する料理として新たなファンを生み出した。

現在、来店客の7割以上は地元のタイ人。「タイ風味のうどんは、日本の味を紹介するための1つのアプローチ」と長谷川氏が語るように、うどんのおいしさを知った若い層を中心に、かけうどんやざるうどんといった「本来の日本のうどん」を注文する人も徐々に増えているという。日本の食文化に親しんでもらうためには、まず現地の味に歩み寄る。それが飲食店の海外進出では大切なのかもしれない。

「シーフードトムヤムうどん」。タイでは「麺は少なめ、具は多め」が好まれるため、うどんは日本よりも細めにし、有頭エビを使うなど見た目にも満足感を感じさせる盛り付けにこだわった
株式会社トリドール海外事業推進プログラム課長・長谷川真也氏。タイ・ベトナムの新規事業立ち上げに関わってきた
丸亀製麺 サイアム・スクエア・ワン店
5F, Siam Square One, Rama 1 Road, Pathumwan, Bangkok
http://www.marugame-seimen.com

取材・文/さとう葉
※通貨レート 1バーツ=約3.0円
※価格、営業時間は取材時のものです。予告なく変更される場合がありますのでご注意ください。