オーストラリア発 本格派「おにぎり」「Bento」「讃岐うどん」で勝負する日本食ファストフードが地元住民に大人気

オーストラリア・ケアンズに、コロナ禍も乗り越え、地元住民からの支持を得て毎日賑わう日本食ファストフード店がある。今回は、食材や調理にこだわり本格的な日本の味を伝承することで活況を呈する「おにぎり店」と「讃岐うどん店」を、現在のケアンズの情勢ととともに紹介する。

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Vol.231

・オーストラリアのコロナ禍行動規制は、2022年10月末に撤廃
・代表的なソウルフードで20年、日本食のおいしさを伝承
・香川「讃岐うどん」に福岡「肉うどん」の肉をのせ、地元住民に大人気

オーストラリアのコロナ禍行動規制は、2022年10月末に撤廃

 オーストラリアにおけるコロナ禍関連の行動規制は、2022年10月末には全ての州において撤廃されたため、今では街中でマスクを着用する人の姿を目にすることはほぼない。オーストラリアが観光客を受け入れる体制は、すでに整っている。対して日本はようやく2023年5月8日に「5類感染症」へ移行、海外旅行者数の回復はこれからといったところだ。

 今回紹介するのは、オーストラリア北東部・ケアンズにある日本食店。ケアンズは、世界最大のサンゴ礁群グレートバリアリーフや、世界最古の熱帯雨林地帯クイーンズランド湿潤熱帯の玄関口。温暖な気候で過ごしやすく、海も緑も豊かで、自然をたっぷり満喫できる人気の観光都市のため、街は様々な国籍の人で賑わっている。

代表的なソウルフードで20年、日本食のおいしさを伝承

カタカナで「オニギリ」の看板が目印

 「ONIGIRI CAFE OMU」は、ケアンズシティ中心部のオフィス街にあるショッピングセンター「オーキッドプラザ」の2階にある。2004年に開業し来年で20周年を迎えるという、長きに渡り日本のファストフードを伝え続ける店の一つだ。

 現在のオーナーは2代目の本田拓郎氏。2004年開業当初からワーキングホリデーで従業員として働き、前オーナーのゴールドコーストへの引越しを機に2013年に店を引き継いだ。

 「経営は順調でしたが、コロナ禍で大打撃を受けました。一時はどうなるかと」と当時を振り返る。2カ月ほど店を閉め、その後は週に3回開店、時間を短縮するなど、思うように営業ができない日々が続いた。ただコロナ禍の約2年間はオーストラリア政府からのサポートがあったため、店をキープすることはできた。2022年8月からワーキングホリデーの受け入れが再開されるまで、従業員探しにも苦労したという。現在は従業員4人(うち1人がワーキングホリデーの日本人)で、店は1日2人体制で営業している。

 客層を聞くと「ほぼ地元の方です。もちろん日本からの観光客や日本人在住者の利用はありますが、どちらかというと少ないですね。オフィス街で働く人が中心で、国籍は問わず、オージー、中国系、東南アジア系とさまざまです」と本田氏。

  • 「おにぎりと唐揚げセット」(14豪ドル=約1,295円)。好きな具を3種類選ぶことができる。唐揚げ付きが人気
  • のりの横から、具がはみ出して見える。のりをはがしてみると、ここまでたっぷり入っていた

 看板メニューは「おにぎり」。ケアンズにはのり巻きのテイクアウトを提供する店は他にいくつもあるが、おにぎりを主力とした店は同店しかないという。米はベトナム産・日本米の「すしひかり」で、ほんのり甘みがあり炊き上がりはふっくら。そして具の量がすごい。かぶりつけば必ず具に当たるほどたっぷりと入っている。具材を主役として前面に押し出すことが、地元住民に支持されているゆえんだ。

 仕入れはケアンズにある問屋「BIG ASIA」にお願いしている。おにぎりの具の「昆布」は輸入規制で入らなくなるなど入手できないものもあるが、醤油から米、のりなど安定して良い品を調達できるという。

 おにぎりの上に具を見せる作り方は、当初からのスタイル。おにぎりは見た目が一緒。ショーケースに並べるため、誰にでも一目で具材が分かるようにとのせたのが始まりだ。しかしコロナ禍で客が激減したとき、作り置きすると時間の経過でロスが出てしまったため、注文を受けてから作るスタイルに変更した。都度の対応は大変だが、のりがパリッとした作りたてのおにぎりを提供するようになってから注文が増えたという。

⑧ツナマヨ、⑤照り焼きチキン、③しゃけが人気TOP3

 バリエーションは実に15種類もある(1個3豪ドル=約277円)。人気は「ツナマヨ」「照り焼きチキン」「しゃけ」がトップ3で、特にツナマヨの人気が高い。「納豆や梅干しの注文も出ますよ。うちで初めて食べたという声も聞きます。おにぎりは日本の誇るソウルフード。あえて知ってもらうためにメニューに加えています。存在を伝えていきたいです」と本田氏。

  • 人気の唐揚げをプラスしたメニューは、地元住民に好評
  • ボウル系は種類豊富にそろえている

 店の看板はおにぎりだが、売上を支えているのはボウル系だ。地元住民にはダントツで唐揚げが好評。大きくてやわらかくジューシー、味付けも醤油・酒・ショウガ・ニンニク・ゴマ油・塩・コショウと、和の調味料もしっかりと使うこだわりようだ。ボウル系は「照り焼きチキン丼」「唐揚げカレー丼」(いずれもレギュラーサイズ16豪ドル=約1,480円、Lサイズ21豪ドル=約1,942円)などが売れている。ウリの唐揚げをカレーにのせた「唐揚げカレー丼」は、地元住民に支持されそうな組み合わせで考案し、狙い通り人気となったメニューだ。

 そして「Bento」だが、かつては例えばケアンズからシドニーへ移動する飛行機で食べる朝食用など、団体旅行客用メニューの大口注文が旅行会社から入り、売上の15%をも占めていた。この注文が、ようやく7月に1件入ったという。「来店客数はすでに好調なので、このBento需要が増えれば、売上はコロナ禍前の状態に戻れそうです」(本田氏)と、見えてきた希望に笑みを浮かべる。

おにぎりは、あえて日本独特の具材もラインナップしている
ONIGIRI CAFE OMU(オニギリカフェ オム)
2nd Floor, Orchid Plaza.58 Lake St, Cairns,QLD 4870
https://omu-cairns.com/

香川「讃岐うどん」に福岡「肉うどん」の肉をのせ、地元住民に大人気

日本語ののぼり旗「讃岐うどん」が目印

 讃岐うどん「HUNGRY WOMBAT」もまた、同ショッピングセンターの1階中央に位置する。オーナーは岸本佳則氏。ケアンズで10年ほどアウトドアスポーツであるラフティングの仕事に従事していたが、2016年の一時帰国で四国・香川を訪ねたときに食べた、一杯のおいしいうどんに衝撃を受けた。「これから先、体力的に仕事をどうしようかと考えていた時でした。せっかくケアンズに居るのだから、残りの人生で、日本人として日本の何かを伝えたいと思う気持ちが強まっていたんです。香川のうどんに出合い、異国の地ケアンズで、なんとかこのおいしさを再現できないか、と考えたのがきっかけです」(岸本氏)。

 一念発起した岸本氏は店の開店に向けて動き出す。香川・三豊市のうどん店で修業の期間を経て、2019年4月30日、“平成最後の讃岐うどん新店”としてスタートした。

  • うどんは、麺線を作り低温熟成させてから使用
  • 毎朝丁寧に、出汁をとる

 麺は香川から運び込んだ製麺機でホームメード。コシがありつるりと喉越しが良い。出汁は富山県から仕入れるかつお節から取り、かえしは仕込みから2週間以上ねかせた自家製ものだ。材料と自家製にこだわり香川のうどんを再現しているが、オーストラリアは煮干しが輸入できず、スープに煮干しのパンチを効かせることができなかった。しかし「お客様のメインは地元の方ですが、この出汁が好評で。功を奏したと申しましょうか、ひょっとしたら独特な風味のある煮干しを入れずマイルドに仕上げた点が、うけたのかもしれません」と岸本氏は分析する。

口コミで広がり大人気となった看板メニュー「肉うどん」

 当初認知されるまでは大変だったが、「肉うどん」(19.90豪ドル=約1,840円)がおいしいと中国系の地元住民に口コミで広がり大盛況。一気に、連日人が押し寄せ行列ができる話題の店となった。

 人気の秘訣は牛肉だ。ケアンズにある他の和食店にも「肉うどん」というメニューはあるが、どの店も事前に調理された味付きの薄いスライス肉を仕入れてのせている。それではつまらないと思ったとき、福岡の「肉うどん」を思い出す。かくして讃岐うどんに甘辛にやわらかく煮込んだ大きな角切り牛肉をのせたオリジナルのうどんが完成。これを食べた中国系の客が、中国の牛肉麺に似た日本の麺料理店がオープンしたと話したことで、うわさが広まったという。看板となったうどんの肉は、一度に50キロのブロック肉を仕入れ、1日に使う4キロずつ、毎日じっくり甘辛く煮て仕込んでいる。

 「オープン後1年足らずでコロナ禍となり頭を抱えた期間も過ごしましたが、売上は2022年春頃から持ち直すことができました。毎日たくさんの方にお越しいただいているおかげです」と岸本氏。今では1日100人ほど、休日はそれ以上の来店があり、ランチタイムに麺が完売してしまう日もあるほどだ。

  • 「ぶっかけうどん」(15.90豪ドル=約1,470円)
  • 「冷やし中華風そうめん」(20.90豪ドル=約1,932円)

 通年温暖で暑い日も多いケアンズでは、気候に合う冷やし麺の需要も高く、レパートリーを豊富にそろえている。シンプルに麺の喉越しを味わう定番「ぶっかけうどん」のほか、そうめん風に細打ちしたうどんを酢醤油のスープでいただく「冷やし中華風そうめん」、うどんにわかめを混ぜ込んだ緑色あざやかな「わかめうどん」(17.90豪ドル=約1,660円)など、他店にはないメニューの開発にも力を入れている。

 

うどんは15.90豪ドル~、天ぷらは4豪ドル~。オーストラリアの外食では比較的リーズナブルな価格帯だ

 メニュー価格を見て、日本人からすると高く感じるかもしれないが、オーストラリアは日本と比較して物価が高く、外食をすると1メニュー20豪ドルするのは普通で、飲み物とあわせると1食30~40豪ドルはかかる。国内で手に入る食材が割高であり価格高騰もしている上に、輸入品に至っては日本の価格の約3~4倍する。また、従業員は現在3人体制でもう一人増やしたいところだが、オーストラリアの最低賃金は高く、アルバイトの時給で約3,000円ほどする。今は最小の人数で店を回してでも、一杯のうどんを楽しみに来店してくれる人を思い、食材と味へのこだわりを優先している。

HUNGRY WOMBAT(ハングリー ウォンバット)
ーHOMEMADE JAPANESE UDON NOODLESー

Shop, 1st Floor, Orchid Plaza.58 Lake St, Cairns,QLD 4870
https://www.instagram.com/hungrywombat.japanese/

 異国ゆえに、仕入れや食材原価、雇用の面での悩みや苦労は大きい。それでも彼らは、本格的な味を大事に日本食を伝承し続ける。このことは間違いなく、幅広い国籍の人々の間に日本の食文化への関心や根強いファンを生むことにつながっていくのだろう。

取材・文/ぐるなび通信編集部
※通貨レート 1豪ドル=約92.47円(2023/6)
※価格、営業時間は取材時のものです。予告なく変更される場合がありますのでご注意ください。