Vol.1
メニューが増えると客数が落ちる
飲食店経営者の傍らには、いつも一匹の悪魔がいます。この悪魔は、いつも経営者にこう甘くささやきます。「もっとメニューを増やしましょう。必ずお客が増えますよ」と。
最初のうちは首を横に振って拒んでいた、例えばハンバーグ専門店の経営者も、次第に甘いささやきに抗しきれなくなります。やがて「そうか、じゃあうちもスパゲティを入れてみようか」「とんかつも入れてみようか」「よし、カレーも入れよう」といった具合に、メニューを徐々に増やしていってしまいます。
気が付くとハンバーグ専門店だった店が、「洋食なら何でもあります!」という、フルメニューの店になっているのです。何もハンバーグの店に限ったことではありません。どんな業態でも、放っておくとメニューはどんどん増えていってしまいます。
それでも悪魔がささやいたとおり、お客様の数が増えればよいのですが、売れるメニューが拡散しただけで、たいてい客数は増えません。いや、むしろ専門店としての評判が落ちて、客数は減ってしまうものです。メニューの数と客数は比例しません。メニューが増えても、お客様の数は増えるとは限らないのです。
牛丼の吉野家は以前、メニューは「朝食」と「牛丼」の2品だけでした。その2品で1日の客数が900人を超えていました。
メニューが増えて、良いことの方が圧倒的に少ないと思います。食材数は増え、調理の手間は煩雑になり、人手が多くかかり提供時間は遅れます。また、場合によってはより広い厨房を必要として、客席を減らさなければならないかもしれません。
何よりもいけないのは、商品の磨きこみができなくなることです。「ウチの売りはコレ!」という、特化した商品が作れなくなるのです。
断然旨いものが一品ある店と、何を注文してもまあまあという店、どちらが生き残りますか? 前者に決まっていますよね。"この一品"に命を懸け、素材を変え、組み合わせや配合等を変え、調理方法を変え、絶えず改善して磨きこみを続ける店(店主)だけが生き残れるということを、肝に銘じておきましょう。
"この一品"が一番強いのです!
何度も言いますが、放っておくとお店のメニューは増えます。その防止策は、メニューの数と価格帯を決めておくことに尽きます。メニューには、「ベーシック」、「サブベーシック」、「新・珍・奇」の3つのジャンルがあります。その内容については次回以降、この連載で説明しますが、それぞれの領域でメニューの数を固定しておくことです。新しい品目を入れたら、ひとつ減らすこと。そうすればメニュー総数が増えることはありません。
メニューを増やせば増やすほど、店の力は弱くなります。そんなことよりも、どこにも負けない絶対の自信作を持つことです。繁盛店がなぜ強いかわかりますか。売りの一品を磨きこんで、絶えず質を上げているからです。味は変えずに、質を上げる。そのときにお客は「いつも変わらなくていいね」と言ってくれるのです。
常に前進し続けましょう。一カ所に留まっていると、お客様は必ず「味が落ちた(味が変わった)」と言うはずです。