2015/03/24 特集

飲食店の新規出店Q&A:プロに聞く、物件選びで失敗しないためのカギとは

新規出店の成功へのカギ、物件選びを詳しく解説します。立地の選定や投資回収のポイント、戦略的アプローチについて専門家のアドバイスをQ&A形式で聞いてきました。出店計画の成功に不可欠な要素を、実例を交えてわかりやすく紹介します。

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独立・開業を考えている人や、新たに店舗を出店しようとしている人にとって、物件選びは最初で最大の関門です。これに失敗すると、閉店せざるを得ない状況になることも少なくありません。そこで物件を決める際の戦略とポイントを、コンサルタントの井澤岳志氏に教えてもらいました。独立・開業を考えている人や、新たに店舗を出店しようとしている人にとって、物件選びは最初で最大の関門。これに失敗すると、閉店せざるを得ない状況になることも少なくない。そこで物件を決める際の戦略とポイントを、コンサルタントの井澤岳志氏に教えてもらった。

株式会社ライズウィル 代表取締役井澤 岳志氏
1976年、富山県生まれ。大学卒業後、北陸最大のコンサルティング会社に就職。2005年に独立して株式会社ライズウィルを設立。「低リスク」と「現場主義」を貫き、飲食店の開業支援や店舗再生などを手がけ、継続支援店舗における売上アップ成功率が94.1%に達するなど、結果を出すコンサルタントとして活躍する。また、北陸で2店舗、台湾で1店舗、飲食店を経営するほか、テレビや雑誌、全国各地の商工会議所、商工会での講演でも活躍。著書に「7つの超低リスク戦略で成功する飲食店『開業・経営』法」、「小資本・低リスクで繁盛店をつくる はじめての飲食店開業の教科書」(ともに日本実業出版社)などがある。
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3年以内に7割閉店の現実。失敗しない戦略が不可欠!

まず、井澤氏が指摘したのが、「新規開店する飲食店の実に7割が、3年以内に閉店しています」という厳しい現実。その背景の1つには、「駅前で人どおりが多い立地だから」などの理由だけで、安易に出店を決めるケースが数多くあるといいます。

「なかには『自分が新しいマーケットを作る』『ターゲットを呼び込む』などと意気込む人も少なくありません。しかし、これらは危険なキーワードです」。そんなことが簡単にできるほど、飲食店の経営は甘くはないのが現実です。

また、井澤氏は「成否は開店時に7~8割決まっています」と断言。そして「無謀なスタートで不幸な状況に直面する例が後を断ちません」と警告します。さらには「飲食店にとってもっとも大切なことは、正しい戦略」と指摘。ここで言う「戦略」とは、「誰(ターゲット)に、何(コンセプト)を提供するのか」ということ。正しい戦略とは「ターゲットとコンセプトを合致させ、競合ではなく、自店を選んでもらえるコンセプトを作ること」です。

例えば、ビジネスビル1階にクレープ店を出そうとした場合、ターゲット(見込み客)は立地上、ビジネス層で、商品のクレープ(コンセプト)と合致しません。ですが、同立地で弁当店なら、ターゲットとコンセプトが合致します。ただし、競合店の有無や商品のレベルによっては、ターゲットとコンセプトのバランスが崩れるので、チェックが必要となります。

「ターゲットは立地と深く関連づいているので、立地は戦略上、もっとも重要です」。失敗しないための最低条件であると同時に、「リスクを回避するためには、初期投資を抑えることも重要」と井澤氏は語ります。そこで、初期投資の多くを占める物件選びが重要になるというわけです。物件が居抜きかスケルトンかによっても、初期投資に大きな差が生まれます。

「立地を含めた最初の戦略と、物件に関する初期投資、そして売上見込みを見れば、その店の成否は自ずと決まります」。売上見込みは立地と相関関係にあるので、立地と物件が成否に占める割合は極めて高いことになります。では、失敗しない立地・物件選びについて、具体的なQ&Aで解説していきましょう。

Q: 「いい立地」ってどんな立地のこと?

A:人口や交通量よりも大事なのは、コンセプトとエリアの飲食需要の相性

飲食店にとっての「いい立地」として、人口が多い・交通量が多い・駅前である、などが挙げられます。もちろん、それらが重要でないわけではありません。しかし何より大事なのは、前述したように店が提供する商品やサービス(=コンセプト)を欲しがる人(=ターゲット)が、そのエリアにどのくらいいるかです。つまり、「いい立地」とは「店のコンセプトとエリアの飲食需要の相性がいいところ」なのです。

ですから、立地を選ぶときは、自分がどんな店をやりたいのか、店の見込み客はどんな年齢層で、どんな属性の人たちなのかをしっかりと把握し、彼らが多く存在する立地を探さなければいけません。もちろん、多店舗展開する力がある経営者の場合は、物件を先に決め、コンセプトや商品をエリアの特性に合わせて開発するのもいいでしょう。いずれにしても、最初にコンセプトとエリアの相性をしっかりと見極めることが、失敗しない店の第一歩といえます。

もう1つ指摘しておきたいのは、立地と物件は切り離せないということです。例えば同じ立地でも、100席の物件を埋めるだけのターゲットはいないけれど、20席なら十分埋められる業態もあります。逆に、席数が少なすぎて売上見込みが必要額に満たない物件では、たとえ「いい立地」でも、「いい物件」とは言えない可能性もあるのです。

立地選びは最重要課題ですから、慎重に検討してしっかりと戦略を立てたうえで、納得がいく選択をしてください(井澤氏)。

Q :「いい物件」かどうかはどうやって判断する?

A:判断の指標は「投資回収率=ROI」。初期投資を抑えた最初の設計が重要

物件の判断は、見た目の印象だけでなく、しっかりとした指標で確信を持って行うべき。その指標になるのが「投資回収率=ROI(Return On Investment)」です(計算式は下の枠内を参照)。これによって、出店のために投資したお金が何年で回収できるかを算出することができます。100%なら1年、50%なら2年で回収できるということです。

ROIとは「投資回収率 投資回収率=年間営業利益÷初期投資額 例) 初期投資額が1,000万円、月間の営業利益が25万円の場合、(25万円×12カ月=300万円)÷1,000万円=0.3 投資回収率は30% ★投資回収率が高いほど、回収期間は短くなる (20%なら5年、40%なら2年半、50%なら2年、100%なら1年で回収)

飲食店のROIは15~25%、つまり6、7年~4年で回収できる物件が標準的とされています。しかし、私は25%以下では、一度出店を検討し直すよう提案しています。現在の外食業界のスピード感に照らし合わせれば、25%以下では回収に時間がかかりすぎ、思うような経営ができないと考えるからです。

ROIを25%以上にするためには、継続的な売上をあげられる戦略を立てるとともに、初期投資をなるべく抑えることが重要になります。その初期投資に大きく関わるのが、どんな物件かということ。居抜き物件なのかスケルトンなのかはもちろんですが、同じ居抜きでも、物件によっては内装費が高額になることも珍しくありません。そうした「最初の経費の設計」をぬかりなく行うことが、飲食店の成否を左右します。ここがしっかりできれば、売上が当初の予測を多少下回ったとしても、慌てずに対応策に取り組むことができるのです。

ただし、ROIが高ければいい、というわけではありません。初期投資を早く回収したい人もいれば、回収が長引いても、この物件でどうしても店を出したい、という場合もあるでしょう。どちらの場合もROIをよく吟味しながら、決断してください(井澤氏)。

Q:売上予測を立てるために必要なことは?

A:エリアの競合店をくまなく調査してリアルな飲食需要を把握すること!

ここに出店したら、売上はどのくらいあげられるのか。それをできるだけ正確に予測するために有効な方法は、同一エリアの競合店調査です。調査エリアの範囲は場所によって様々ですが、半径2キロ以内を目安と考えます。

まず業態を問わず、エリアで一番の繁盛店を訪れ、誰が、どんなシーンで、どんな料理を、いくら払って食べているかを観察します。次に自分の店と近いコンセプトの繁盛店を同じように調べます。ここまでは「点」での把握。次に「面」でも把握するために、エリア内20~30店舗の総席数とピーク時の客数を調べます。これを平日・週末とも数回ずつ行い、「エリアの満席率(=実際の客数÷総席数)」を算出します。その後、改めて繁盛している競合店に行き、その人気の理由を探ります。

この調査を行うことで、エリアのリアルな飲食需要、すなわち主要な客層、業態、客単価、繁忙の曜日や時間帯、規模が見えてきます。それを踏まえると、自店にはどんな客がどのくらいの客単価で、いつ訪れる可能性があるのかを、かなり予測することができます。

ただし、地域の名物繁盛店、飛び抜けた個性がある店、大きなイベントの期間は、正しい飲食需要を反映しないので、調査対象から外します(井澤氏)。

Q:初期投資はどう抑えるの?

A:店舗設計・工事費をどう抑えるかがカギ。造作譲渡料にも注意

開業するときの初期投資は、できるだけ抑えてリスクを回避することが大切。開業にかかる様々な経費は右の表を参照してください。

初期投資を抑えるうえでもっとも注目したいのが、店舗設計・工事費(表の8~13)です。できるだけ安く、自分のイメージやコンセプトに合う店舗にするためにはどんな方法があるのか、信頼できるデザイナーや施工業者と納得がいくまで十分に検討しましょう。

また、店舗設計・工事費のなかには厨房機器やインテリア、什器なども含まれるので、居抜き物件の場合は、スケルトンと比べると初期投資を大幅に抑えられる可能性があります。ただし居抜きには、内装や備品類を前のオーナーから買い取るための「造作譲渡料」が必要になることもあるので、その金額が妥当かどうかの吟味も必要でしょう(井澤氏)。

Q:物件はどうやって探せばいいの?

A:飲食関連業者からの最新情報や商工会などの機関も狙いめ

飲食店舗の優良物件が、不動産情報として表に出ることはほとんどないと言えます。表に出たものはすでに何人かの飲食店関係者の目を通り、なお契約されなかった物件である可能性が高いことを念頭におく必要があります。

かといって、不動産業者が頼りにならないわけではありません。頻繁に足を運んで希望と熱意を伝え、優良物件が出たらすぐ連絡してもらえるような関係性を築いておくことも大切です。

ほかに物件情報を持っている可能性が高いのは飲食店の関連業者。酒屋やメーカー、食材の仕入れ先、施工業者などは仕事柄、廃業店舗の情報をいち早くキャッチしているもの。彼らにも情報提供を頼んでおくといいでしょう。

意外に狙いめなのが、商工業者の団体である商工会議所や商工会。地元を熟知しているので、そのエリアで物件を探す際の貴重な情報源になります。

物件探しにかける時間は人それぞれ。納得いく物件が出るまで何年も待つ人もいれば、探し始めてから2カ月足らずで出店する人もいます。ただし、それはすでに飲食業界にいる人。初めて参入する場合は、物件探しから開業まで半年程度はかかります(井澤氏)。

Q:居抜き物件の注意点は?

A:初期投資は抑えられるがプロにしか見抜けない内装の問題点に要注意!

居抜き物件の最大のメリットは、初期投資が少なくてすむこと。スケルトンですべて一から造るとなると、店のコンセプトに合わせることはできますが、初期投資がかさみます。一方、居抜きは、すでにある内装や配置に制約されて自由に造れない欠点もあります。それでも、現在の飲食業界では居抜きが主流。開業資金を抑えることがリスク回避につながるからです。

しかし、理想の立地に居抜き物件が見つかったからといって、飛びつくのは禁物。意外な落とし穴があるので入念にチェックしましょう(下の表参照)。

まず、内装費がどの程度かかるか見積もります。居抜きなので内装費を抑えられるはずが、実際には結構かかってしまったという例は少なくありません。特に配電、給排水、吸排気、ガスの配管などに問題がないかどうかは素人にはわからないので、信頼できる内装業者や施行業者に物件視察に同行してもらいましょう。また、見積もりは必ず2社以上から取るようにします。

見落としがちなのは備品類。エアコンや厨房機器などは老朽化して使えないこともありますから、必ずスイッチを入れて確かめます。また、予期せぬ出費に対応するため、予算は余裕を持って組みましょう(井澤氏)。

Q:物件を契約するときに気を付けることは?

A:定期建物賃貸借契約と保証金条項、退去費用も念頭に

店舗物件の賃貸契約は、住居の場合と基本的には同じです。

そのなかで気をつけたいのは「定期建物賃貸借契約」。「建物賃貸借契約」では特別の事情がない限り、契約期間が切れても更新できます。しかし定期建物賃貸借契約の場合、契約期間が終われば新規の状態と同じになり、大家(貸主)が契約しないと決めれば、店舗(借主)側に何の落ち度がなくても退去しなければなりません。店の売上がよくてもどうにもなりませんので、契約時に必ず確かめて、定期建物賃貸借契約を避けるようにしてください。どうしても定期建物賃貸借契約でないと貸さないと言われたときは、受け入れる代わりに保証金や家賃の値下げ交渉を行うようにしましょう。

また、保証金(敷金)は6カ月以上であることが多く、高額ですが、退去時には返還が基本。しかし、契約のなかに「保証金の償却」として「年3%」「解約時1カ月」などの条項があると、その分を支払わなければいけません。この点についても交渉しておきましょう。

さらに注意したいことに、退去時の条件があります。契約条項に退去時にスケルトンにすることが明記されていると、退去費用がかさみますので、その費用も想定しておくことが必要です(井澤氏)。

こちらのQ&AもCHECK! 飲食店の物件探し、その実情とは?

※データはすべて2015年2月ぐるなび調べ(n=回答者数)

居抜きが人気な一方、物件にこだわらない人も

下のQ1~4の円グラフは、飲食店舗の物件探しについてぐるなび加盟店に聞いた結果です。Q1を見ると、現時点で物件を探したことがある人は75%を超えていることがわかります。その内訳は(Q2)、多店舗展開が目的の物件探しが半数以上で、独立・開業は39.2%という結果になりました。では、居抜きとスケルトン、どちらの物件を探しているのでしょうか。Q3を見ると、居抜きが63.1%なのに対し、スケルトンは10.6%。やはり、初期経費を抑えられる居抜き物件が人気という、近年の飲食業界の流れを表しているといえます。その一方で、物件の種類には「こだわらない」と答えた人は26.3%。また、立地について聞いたQ4 でも、「一等立地」(43.3%)、「二等立地」(34.8%)を求める人が多い反面、こちらも「こだわらない」人が21.6%と、立地や物件に合わせて業態やコンセプトを決める人が多いことがうかがえます。

※Q3、4は複数の経験がある人は直近を、今後探す予定の人は希望を回答

物件決定まで半年以内が約7割。十分な競合店調査の必要性を理解している人は少ない!?

ぐるなび加盟店に、物件を探し始めてから決めるまで、どのくらいかかったかを聞いた結果がQ5の円グラフです。もっとも大きな数値を示したのは、「6カ月以内」(29.4%)。次いで「3カ月以内」(22.2% )、「1年以内」(17.8%)となりました。また、物件を探し始めてから半年以内に決めた人は約68%で、これから物件を探そうと考えている人にとっては、半年が1つの指標になるのではないでしょうか。

では、物件を決める際、何を重視しているのでしょうか?それを示したのが、Q6の棒グラフ。1位は87.4%で「家賃」。2位は「坪数」で60.1%。やはり毎月の経費や、その物件の大きさがコンセプトに合うかどうかが気になるようでした。続いて「出店エリア」が43.8%、「最寄駅からの距離」が40.2%と上位を占め、立地が成否を左右すると考えている人が多いことがわかります。注目したいのは、「周辺の競合店の様子」と答えた人が24.5%ということ。立地・エリアを気にする人が多い割に、エリア内の競合店を調べている人は意外に少ないといえます。井澤氏が解説しているように、「いい立地」とは、店のコンセプトとエリアの飲食需要の相性がいい場所です。エリアの競合店調査を十分に行うことが、本当に「いい立地」「いい物件」を見つけるために不可欠であることを、もう一度理解しておきましょう。

※Q5は複数の経験がある人は直近を、現在探している人、今後探す予定の人は想定を回答

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