Vol.27
複数店管理で成功した例はひとつもない
今回は“店長にやらせてはいけないこと”第2弾です。前回、「店長には売上責任・利益責任を負わせてはいけない」という話をしました。店長の仕事は、Q(Quality/商品の品質)、S(Service/サービスのレベル)、C(Cleanliness/スカッとした清潔さ)のスタンダードをきちっと守ること。そして店の支持を高め、お客様の数を増やすこと。これだけです。
さて、今回のテーマとして「1人の店長に複数店舗を管理させてはいけない」という話をします。飲食店を複数経営していて、1店舗の売上高が小さいと、それぞれの店に店長を置くことができず、複数店舗を任せることがよくありますね。月商600万円くらいないと、正社員の店長はなかなか置きづらい。そのため、1人の店長に、2店舗、3店舗、あるいはそれ以上の店舗を管理させよう、となります。経営者ならば、誰でも一度は考えるのではないでしょうか。
チェーン店でも、複数店管理を導入するケースがしばしばありますが、たいてい失敗します。アメリカのチェーン店でも、この組織形態を導入して成功した例はほとんどありません。このことは、よくよく肝に銘じておかなければなりません。
店長は一国一城の主です。「この城を守れ」と言われて、はじめて力を発揮できるのです。その城(店)の商圏内の顧客を、日々の営業でコツコツと増やし、来店頻度を高め、商圏内の人気を上げていく。この目標が明確になったときのみに、自分の“店長力”を鍛えることに専心できるものです。そして、店ではなく人のスキルと結束力を高め、営業力を一歩一歩上げていきます。複数店舗を任されていては、この“店長力”を高めることが、つまりは店の戦力を高めることができません。
繰り返します。複数店管理で成功したためしはほとんどありません。それでは、売上過少店をコントロールするには、どのようにしたらよいのでしょうか。
パート・アルバイト店長制が成功する方法
それには、優秀なパート・アルバイト(PA)を店長にするしかありません。これがまた難事業なのですね。PAはいても、「優秀な」が付くPAはなかなかいません。また、いくら優秀であっても、長期間、ほぼフルタイムで働けるPAはさらに少ない。だから、まず学生は除外しなければなりません。
理想は、同一商圏に住む主婦です。収入が家計の必須財源になっているような人でないと、長期間働くことはありません。正社員にはなりたくない(転勤などができない)、質の高いフリーターも候補者になります。意欲があって、作業の完全熟知者で、教え上手で、統率力があるPA。そして何よりも、店を愛しているPA。こういう人をPA店長にすれば、正社員でなくても店舗管理は可能です。
もう少し条件を詳細にすると、次のようになります。
- 実際に働いている(正社員同様の勤務日数で働いている)PAの中から選び出す。
- 白羽の矢を立てたら、社長が口説く。
- 家庭の事情(子育て等)をよく知っておき、会社がフォローできるようにする。そして、それを保証する。
- 準社員として一定の年収と昇給を保証する。
- 準社員として、ボーナスを保証する。
- 一定の成果報酬を認める(過度の報酬はNG)。
つまり、生涯骨を埋める覚悟を引き出せるかどうか、がポイントですね。休みの日に、家族や友人を連れて来るPAは、有力な店長候補です。
PA店長の上司は、スーパーバイザー(SV)か、営業部長です。そのSVもしくは営業部長が個々のPA店長の、諸々の(家庭の)事情を十分に把握していなければなりません。子供が熱を出した時、学校の行事がある時は、彼らがフォローに入らなければなりません。PA店長にとって頼りになる存在でなければならない、ということです。
PA店長は基本的に地元住民ですから、店のよい評判も悪い評判も、広めるのは彼(彼女)らです。そして、悪い評判は即広がり、一気に客数減につながります。諸刃の剣的な店長ですから、よほどキメ細かい対応をしないと、悪い影響が即表面化します。
それから、PAの時給アップや採用を、彼(彼女)らに任せてはなりません。それは、SVや営業部長の仕事です。ワークスケジュール(勤務予定表)作りは任せてもよいですが、最終決定権は持たせてはなりません。絶えず「我が店のスタンダード」を教え込み、自己流で店舗を運営させないことが、一番大切なことです。
店の業態や規模にもよりますが、PA店長制は会社のひとつのキャリアコースとして、確立されていなければなりません。また、PA店長から正社員になる道も拓かれていなければなりません。