2014/01/23 挑戦者たち

有限会社ケー・アイ・ディー 代表取締役 伊澤 健一氏

「湘南で一番になる」を合言葉に、地元に喜ばれる店舗を出店。二等立地戦略でオリジナル業態で勝負し、6業態7店舗を展開。「社員を独立させるための店舗経営」を掲げる伊澤氏の戦略とビジョンに迫る。

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会社の目標は店長を独立させること。人を育てながら、繁盛店をつくりたい

「湘南で一番になる」を合言葉に、地元に喜ばれる店舗運営を行っている有限会社ケー・アイ・ディー。二等立地戦略で勝負し、オリジナル業態を出店し続けて現在、6業態7店舗を繁盛させている。「社員を独立させるための店舗経営」を掲げる代表取締役・伊澤健一氏の経営戦略とビジョンに迫った。

――飲食業界に入り、独立されたのはどのような経緯だったのですか?

大学時代、バーや居酒屋でアルバイトをかけもちしていました。そのなかで、「飲食の仕事っておもしろいな」と感じたことが飲食業界に入るきっかけだったと思います。その頃から漠然とですが、「自分の店を持って独立したい」という気持ちがありましたね。大学卒業後、株式会社とんでんに入社し、和食レストラン「とんでん」で2年間、寿司を握っていました。その後、25歳で独立を目指して退職。独立するにはフランチャイズが一番早いと考え、1店舗目の「とり鉄 本厚木店」(現「ワイン酒場 串焼きバル 伊ざわ」)をオープンしました。不安はありましたが、「やっちゃえ!」みたいな勢いで出店しましたね。ありがたいことに、初めての出店でしたがすごく順調でした。

――なぜ1店舗目から繁盛したのでしょうか。また、その後も順調に?

スタッフ、つまり“人”がよかったからでしょうね。僕はまず、スタッフと仲良くなりたいと思っていて、「プライベートなことを話すことができて初めて仲良くなれる」と信じているので、アルバイトを含む約30名のスタッフ一人ひとりと交換日記をやりました。日記を通して、女子大生から彼氏の悩みを相談されたりもしました。そのような信頼関係が接客力の向上にもつながると思っています。とはいえ、一度決めたら考えを曲げない押しの強いタイプの人間ですから、反発もありました。でも、交換日記がそのあたりの人間関係をフォローしてくれたと思います。

ところが2店舗目を出した頃、店長に任せた1店舗目で、突然アルバイトスタッフ全員が「辞める」と言い出したんです。おそらく、その店長は僕の押しの強いところだけを真似てしまい、裏でのフォローのやり方などが、きちんと伝わっていなかったのだと思います。結局、僕と店長が全員に謝ってことなきを得ましたが、「店舗を増やすということは、人間を育てなければいけないということ」なのだと、わずか2店舗目で思い知らされました。そういった経験もあり、店舗展開については100店舗にしたいとか、そういう数字的な目標はありません。それよりも「人を育てながら、繁盛店をつくりたい」という思いの方が強いですね。

1975年、神奈川県藤沢出身。大学卒業後、飲食店チェーンに就職。26歳のときに独立し、「とり鉄本厚木店」をオープン。その後、「丸一伊澤水産」「ワイン酒場 イザヴィーノ」などの業態を打ち出し、湘南エリアを中心に店舗を展開。「湘南で一番になる」が合言葉。

――「繁盛店をつくりたい」という思いの根底は、どこにあるのですか?

2店舗目を出店した頃、親子二代で成功されている実業家の方に「成功するための家訓はありますか?」と聞きました。すると、「家訓はない。父は自分には何もしてくれなかったけど、周りに徳をまいていた。その徳が回り回って自分に返ってきている」と言われたのです。それまでの僕は、飲食店経営のことを何も知らない父の言うことに、聞く耳すら持たなかった。でも、「父が周りに徳をまいていたから、今の自分がいるんだ」と、その言葉を聞いて、父に感謝しました。徳と言っても、周りの人を大切にする、困った人を助けてあげるなどの小さなことなのですが、すぐ父に電話して、今までの態度を謝りました。父は「いいんだ、頑張れ」と、電話口で泣いていました。「繁盛店をつくりたい」と強く思うようになったのはそれからです。社員の親御さんにも、「あの繁盛店、息子の店でね」なんて、喜んでほしいからです。

もちろん、生まれ育った湘南への恩返しの気持ちもあります。友達が来たら連れて行きたい店があることは、地域の人の幸せと地元の活性化につながると思います。繁盛店をつくることが、僕がまくべき徳なのかもしれません。

――その後、オリジナル業態を出店したきっかけを教えてください。

もともと新しいことに挑戦したいという意欲は強かったのですが、直接的な要因は、鳥インフルエンザとBSE問題でしたね。「肉メインの店だけでなく、いろいろな業態の店を持っていないと、何か問題が起きたときのリスクが大きい」と感じ、3店舗目に魚介メインの「丸一伊澤水産」をオープンしました。それを契機に、オリジナル業態を出店するようになりました。

出店に対しては常にポジティブですが、店舗数を増やすことが目的ではないので、当社に合う物件を焦らずに探していくスタンスです。そして、地元に寄与しつつ、海外にも目を向けたいと思っています。海外に出店することで、そこから得られる情報を、既存の店舗運営に活かしていきたいですね。

そんななかでの目標は、「店長を独立させること」。それが、会社の存在意義だと思っています。ただ、経営者になることは苦しいことも多い。「今日来てくれたお客さんに、明日また来てもらうためにはどうしたらいいのか?」、そればかりをずっと考えているような仕事ですからね。独立を目指すスタッフには、「経営者は寝ずに考え、生み出す努力をしなければいけないこともある」ということを、しっかりと伝えています。その覚悟がないと失敗する。経験上、そう確信しているからです。

――二等立地での店舗展開をされていますが、なぜですか?

実は、これも店長の独立を意識した戦略です。独立したいという店長に店舗をそのまま譲渡して、もし家賃が高い物件だったら、何かトラブルがあった場合、一気に売上が下がって失敗する可能性があります。ですから、ランニングコストはなるべく低く抑えています。二等立地で勝ち抜くには、やはり「おいしい料理」を出すことが一番ですね。そのために原価を上げ、ていねいに手で仕込む。そこの経営努力に尽きます。また、外れメニューを作らないことも重要。例えば、4人で10品オーダーして「1、2品はおいしかった」というのはよくありますが、「どれを食べてもちょっと変わっていて、おいしい」という料理をそろえておくと、「今日はもうお腹がいっぱいだけれど、次は何食べる?」となります。それが口コミにつながっていくのです。

社員の家族も呼んで行われる新年会の様子。子供たちにはおもちゃ、社員には家族分の旅行券と休みがお年玉として渡される

――経営や雇用について、さらに今後の課題をお聞かせください。

店長が独立し、店を譲渡すると、会社の利益はその分、減ります。しかし、その人が経営者として学んだことをフィードバックしてくれ、お互いが成長していけることを期待しています。しかし、会社としては経営者になりたい社員と、会社のなかで活躍したいという社員の、両方に対して間口を持っていたいと思っています。休日を含め、それぞれの働くスタイルに対応できる会社でありたいですね。

飲食業界全体の話をすれば、現在、大きな外食企業が直接、生産地を購入・運営し、そのなかで高いパフォーマンスを出すという流れがあります。今後の課題は、そこに打ち勝つために何をしなければいけないのかを考え、実行すること。ただ、常にブラッシュアップしておいしいメニューを提供し、店長やスタッフの人間的な魅力を打ち出すという経営者の努力によって、お客さんを呼び込めると確信しています。

五反田 ワイン酒場 ゴールデンミートバル(東京・五反田)
http://r.gnavi.co.jp/g817702/
会社帰りに立ち寄るサラリーマンや女子会での利用が多く、満席が続くワインと肉に特化した店。客が自由に出入りできるワインセラーも好評。
ワイン酒場 イザヴィーノ 藤沢店(神奈川・藤沢)
http://r.gnavi.co.jp/b180705/
新鮮な鎌倉野菜を使ったバーニャカウダや、名物のストーブ料理とワインが楽しめる店。ワインは1本2000円均一、常時30種類以上を用意している。

Company Data

会社名
有限会社ケー・アイ・ディー

所在地
神奈川県藤沢市石川635-7

Company History

2001年 「とり鉄 本厚木店」(現「ワイン酒場 串焼きバル 伊ざわ」)オープン
2004年 五反田で焼肉店(現「五反田 ワイン酒場 ゴールデンミートバル」)オープン
2005年 「とり鉄 平塚店」オープン
2006年 「丸一伊澤水産」オープン
2009年 「塩ホルモン・もつ鍋 平塚 伊ざわ」オープン
2012年 「ワイン酒場 イザヴィーノ」オープン
2013年 「ワイン酒場 イザヴィーノ 藤沢店」オープン
     現在、6業態7店舗を経営