2014/03/18 挑戦者たち

株式会社First Drop 代表取締役 平尾 謙太郎氏

横浜を中心に居酒屋やバルなど9店舗を展開する株式会社First Drop。旬の食材にこだわり、漁港や野菜農家などを回ってグループを成長させてきた。“朝どり魚”で顧客の心を掴んだ、その発想の原点とは?

URLコピー

旬の素材でお客様を魅了する店づくり。その基本はブレないよう、意識しています

横浜を中心に居酒屋「魚と酒 はなたれ」や、バル「魚とワイン hanatare」など9店舗を展開する株式会社First Drop。旬の食材にこだわり、毎日のように漁港や野菜農家、酒屋などを回ってグループを成長させてきたのが、代表取締役の平尾謙太郎氏だ。流通大手で鮮魚ビジネスを学び、“朝どり魚”で顧客の心を掴んだ、その発想の原点とは?

――居酒屋を立ち上げる前は、どんな仕事をされていたのですか?

大学を出てから起業するまでの5年間、イトーヨーカドーの鮮魚売り場で働いていました。海沿いで育ったせいか、昔から魚が大好きで。将来はマグロのバイヤーになりたいと思っていたんです。商品企画やアパレル系の部署を希望する人が多かったなか、僕のようなタイプは少数派。面接の際には、「魚のプロを目指します」とアピールしたのを覚えています。

イトーヨーカドーでは、魚の捌き方や選別法など、基本をみっちり叩き込まれました。1日中キッチンに立ち、イワシの刺身500匹分、アジのおろし200枚をひたすら作り続けたり…。なかでも大きかったのは、単品管理や原価率など、いわゆる計数管理がしっかり身に付いたことですね。

鮮魚は、季節や漁獲高によって相場が激しく変動します。そのなかでコンスタントに利益を上げるためには、品目ごとの仕入れ量を厳密にコントロールし、販売予測値との誤差をできるだけなくす工夫が不可欠です。この考え方やノウハウは、居酒屋を始めた今もそのまま生きています。いわば商売の基本は、すべてイトーヨーカドーの売り場で学んだと言えるかもしれません。

――2003年11月、横浜の長者町に「魚と酒 はなたれ」1号店がオープンします。どうしてサラリーマンを辞めて、飲食業の世界に入ろうと?

いつかは自分で事業をやってみたいという気持ちは、入社した直後から漠然と持っていました。具体的に思い描き始めたのは、3年目が過ぎた頃。ヒントになったのは当時、イトーヨーカドーの鮮魚部門が始めた「朝網」という企画です。これは近隣の漁港で獲れた魚を仕入れ、その日の昼過ぎには店舗に並べるという試み。市場を経由する通常の物流サイクルに比べ、まる1日も早く鮮魚を手にすることができました。実際に食べ比べてみても、おいしさが全然違います。当時の僕にとっては、かなりの衝撃でしたね。

この手法をそのまま応用し、とにかく素材の新鮮さで勝負する居酒屋を作れば、料理のできない僕にも差別化ができるのではないか。そう感じたのが「はなたれ」を始めるきっかけになりました。コンセプトは、シンプルに「朝獲れた新鮮な魚を、その日のうちに食べられる居酒屋」。とはいえ、最初は満足な仕入れのルートもありません。そこでまず、三浦半島の長井漁港に足を運び、何が手に入るか直売所をチェックするところから始めました。

1976年1月25日、神奈川県茅ヶ崎市生まれ。大学卒業後、イトーヨーカドーの鮮魚担当を経て、2003年11月に「魚と酒 はなたれ」1号店を開業。半年で13坪月商400万円の繁盛店を作る。2年後には17坪に増築し、月商750万円に。現在、9店舗を経営し、9期連続増収。

――手探りのスタートだったんですね。毎朝、港まで足を運ぶ最大のメリットは、どこにあるのでしょうか?

大手の流通ルートには乗らない、その土地の魚と出会えること。これが一番大きいですね。概して分量は少ないですし、規格も不ぞろいだったりしますが、そこを工夫すれば、仕入れ値を安く抑えられます。何より、旬の魚なので味が抜群。例えばサバであれば、軽く締めるだけでおいしく食べられます。また、しらすなども市場のものとは食感が全然違う。実際、この2つはお客様にも大変喜ばれて、売上の面でも大きく貢献してくれました。

もちろん、地元の漁港だけに固執したわけではありません。輸送や保管の技術がこれだけ発達した現在、その恩恵を享受しない手はないと僕は思います。お客様にとって大切なのは産地ではなく、あくまでも鮮度と味。そこで三浦半島の魚に加えて、横浜の本場市場でも毎朝、全国の新鮮な魚介を仕入れるようにしました。また、冷凍が基本のマグロについては、三崎から上質なものを取り寄せています。

――「1つでも多くの“旨い”を正しく食の場へ」という基本理念は、そこから生まれたわけですね。

当時も今もそうですが、僕は料理もできないし、接客の経験もありません。できるのは魚の鮮度を見分けることと、それを捌くこと。ですから開店以来ずっと、素材そのものでお客様にアピールできる店づくりを追求してきました。どんな日替わりメニューを作り、どう陳列すれば、「これが食べたい」「また来たい!」と思っていただけるのか││。考えてみれば、これはイトーヨーカドー時代に重ねていた工夫と、ほぼ同じなんですね。店舗数と業態は増えましたが、この基本だけはブレないように意識しています。

創業からずっと数値管理を徹底してきたのも、まったく同じ理由なんですね。常に新鮮な素材を提供するためには、その日仕入れたものを売り切り、ストックやロスを出さない意識が何よりも重要です。そのため弊社では、各店舗のスタッフが前日の仕入れ、売上、利益、さらには1カ月の見込み売上や原価率などをリアルタイムで把握できるシステムを導入。また、各店のストッカーもすべて廃止し、小ロットで多少割高になっても構わないから、日々の素材を使い切ることを優先しています。そうやって制約の中で工夫を重ね、一人ひとりが損益分岐ラインをクリアする意識を持つことが、魅力的な店づくりにつながると考えています。

――現在、神奈川・東京に計9店舗を展開し、10店舗目のオープンも目前に迫っています。今後、会社としてどういうビジョンをお持ちですか?

やみくもに規模を広げるつもりは、今のところありません。ここ2~3年であと数店出店し、グループ全体の売上を現在の6億円から10億円までもっていくのが当面の目標です。

さらにもう1つ、経営者として特に注力したいのが教育です。働いているスタッフが成長できるような気づきの場として、この会社を育てていければと考えています。そのためにも各店舗のスタッフには、仕入れと値付けをより積極的に任せていきたい。仕入れコストと売上をしっかりコントロールしつつ、魅力的なメニューが作れるようになれば、独立開業の道がよりはっきりと見えてきます。実際、売上の大部分を締める日替わりメニューについては各店に任せていますし、その結果、スキルを身に付けて、会社を巣立っていく人が増え、それを見た若者たちが、「自分も!」と思える好循環が作り出せたら、幸せだと思います。

「生しらすプロジェクト」の活動の1つ「ビーチクリーン」。今年も社員・アルバイトが参加して茅ヶ崎~辻堂の海岸を掃除した

――4年前からは「生しらすプロジェクト」にも取り組んでおられますね。

これは、全店舗で提供している「生しらす」「釡揚げしらす」を用いたメニューの売上1%を、稚魚を放流する活動や海に関する環境団体への寄付に充てるというもの。豊かな海とおいしい魚を、次世代に残すのが目的です。活動はその都度、ブログなどで報告し、お客様からも「海の環境保全を考えるいいきっかけになった」と好評です。

素材の新鮮さで勝負してきた我々は、いわば魚に助けられてきた会社。このささやかな恩返しは、長く続けていきたいです。そして、お客様と社員のどちらからも、「人生にとってプラスの出会いだった」と感じてもらえるような会社であり続けたいですね。

魚とワイン hanatare(はなたれ)(神奈川・横浜駅東口)
http://r.gnavi.co.jp/b752706/
種類豊富なワインと、新鮮な魚介のマリアージュが楽しめるバル。ボリュームたっぷりのカルパッチョやパエリア、アヒージョなどが人気。
はなたれ 丸の内本店(東京・丸の内)
http://r.gnavi.co.jp/b752705/
丸の内界隈のビジネス層で賑わう東京進出1号店。最大40名の宴会に対応可能で、すべてのコース料理にはなたれ名物「魚魂13点盛」が付く。

Company Data

会社名
株式会社First Drop

所在地
神奈川県横浜市中区長者町5-68 青柳ビル301

Company History

2003年 「魚と酒 はなたれ 本店」出店
2005年 有限会社ファーストドロップ設立
2007年 株式会社First Dropに組織変更
2008年 「魚と酒 はなたれ 横浜鶴屋町店」出店
2009年 「はなたれ小僧 横浜駅東口店」出店
2010年 「魚と酒 はなたれ 品川店」出店
2011年 「日本酒 Saka蔵」 出店
2012年 「魚とワイン はなたれ 野毛店」「魚と酒 はなたれ 丸の内本店」「魚とワインHanatare(はなたれ)」出店
2014年 「魚と酒 はなたれ 丸の内トラストタワー店」4月1日オープン予定

※本記事の情報は記事作成時点のものであり、情報の正確性を保証するものではございません。最新の情報はご自身でご確認ください。

ぐるなび通信をフォローする