2014/10/24 挑戦者たち

株式会社 ネクストグローバル 代表取締役 時吉 宏昌氏

神奈川を中心に焼鳥店など8店舗を展開。時吉氏は、飲食店で働いた経験がほとんどないまま飲食店の経営に乗り出した。「大事なのはヒト。モノを売る前にヒトを売りたい」と語る時吉氏の経営戦略を伺った。

URLコピー

店づくりにおいて大事なのは、何より人。だから、現場はスタッフに任せています

神奈川県を中心に焼鳥店「ごう」など飲食店8店舗を展開する、株式会社ネクストグローバル。代表取締役の時吉宏昌氏は、飲食店で働いた経験がほとんどないまま、飲食店の経営に乗り出した異色の経歴の持ち主だ。「大事なのはヒト。モノを売る前にヒトを売りたい」と語る時吉氏の、オリジナリティあふれる経営戦略を伺った。

――家業の板金加工とは畑違いの飲食業を、なぜ始めたのですか?

幼い頃から板前になりたいという夢を持っていたのですが、大学卒業後、24歳で家業の板金加工メーカーを継ぎました。先輩の職人たちに認めてもらうまでが大変で、それから3年くらいは会社に布団を持ち込んで、泊まり込みで仕事をする毎日でした。そうやって一生懸命仕事をするうちに、職人たちにも認めてもらえるようになり、ようやくやっていけるという自信も持て、少し余裕ができました。それと同時に昔からの夢だった飲食業への気持ちがふつふつと沸いてきて、夢がよみがえってきたんです。でも、当時すでに27歳。飲食業の経験といえば、学生時代に少しアルバイトをしたことがあるだけ。そこで、「今から板前にはなれなくても、飲食店を経営するという道がある」と思ったのです。

――飲食の経験がほぼないなかでの店舗経営は、ハードな挑戦ですよね。

周りからもよく「あり得ない」と言われましたね。何もわからなかったので、縁があって知り合った飲食店経営者の方に、いろいろと教えてもらいました。業態を考えたときにまず思ったのは、やるなら洋食ではなく、和食で勝負したいということ。なかでも、昔から愛されてきた焼鳥なら、時代の変化にもあまり左右されず、長く続けられるはずだと考えたのです。

そんなときに出会ったのが現在、焼鳥店「Bird Area」の運営を任せている、創業時に右腕となった人物。焼鳥店で勤務した経験がある彼がいたことで、2005年に1店舗目の「ごう元住吉店」を無事にオープンすることができました。そして、2007年には2店舗目となる「ごう 大倉山店」を出店。この立地については以前、(神奈川の)日吉に住んでいたことがあり、東急東横線に馴染みがあったので、その沿線にと決めていました。

その後も出店を続けていますが、店名は同じでも各店の個性を大事にする店づくりを意識しています。店長を中心とした店のスタッフの個性が感じられる“個人商店”の雰囲気を出したい。チェーン店にはしたくないので、各店で盛り付けも違えば、それぞれの店にしかないメニューもあります。

1977年、茨城県出身。大学卒業後、家業の板加工メーカーを継ぐ。27歳で飲食業に進出し、2005年、焼鳥店「ごう 元住吉店」をオープン。その後、着実に店舗を増やし続け、2013年には初の海外進出を果たし、韓国・ソウルに「ごう ソウル店」を出店。現在、8店舗を展開中。

――店を経営するにあたって、特に大事にしていることは何ですか?

飲食で大切なのは、「何を食べるかではなく、誰と食べるか」。店づくりも同じで、モノを売る前にヒトを売りたい。「あの人がいるから、あの店に行こう」と思われる人になってほしいし、彼らを売っていきたい。そういう意味では「誰と働くか」も大事ですね。

「経営」においては、社長が三角形の頂点にいて、その下に社員、アルバイトがいるという形がいいと思いますが、「運営」においては、アルバイトが一番上、その下に社員がいて、社長は一番下で支える、逆三角形がベストだと考えています。だからスタッフには、「全責任を取るから、好きにやれ」と、いつも言っています。

――飲食の経験がないことが、逆に強みになっているようですね。

それはあるかもしれません。私自身、飲食店で働いた経験がほとんどないので、現場はスタッフに任せるしかない。任せられるということは、それだけ信頼しているということです。ただ、現場のことは完全に任せている分、逆に、「お客様のプロ」であるという意識は持っています。社内の誰よりもたくさんの店を見ているという自負がありますし、その経験を踏まえ、徹底してお客様目線で意見やアドバイスができます。経営者は自分の店をどうしても主観で見てしまいがちですが、本来は客観で見ることが大事。その目線から生まれたものの1つが、「焼職人制度」です。焼鳥店にとって焼場はいわば聖域で、誰もが立てる場所ではない。だから、弊社では焼場に立つための実技テストがあります。僕も含めた会社の幹部の前で実際に焼いてみて、そのテストに合格した者だけが、晴れてお客様の目の前にある焼場に立つことができるのです。

――現場を任せるとはいえ、口を出したくなることはないのでしょうか?

確かに店に行くと、気付くことはいろいろあります。そのたびに細かく指摘することはいくらでもできますが、それでは人は育たない。まずは「何がダメなのか」を考えさせることが大事。そうしていくうち、誰かのために働くのではなく、最終的に自分のために働くのだという意識も芽生えてきます。それが功を奏しているのか、これまで社員を募集したことはありません。現在いる社員も皆アルバイトから始めて、そのまま社員になりたいと言ってくれた人間ばかりですね。

――昨年、海外初進出として韓国・ソウルの店をオープンした経緯は?

弊社は「人ありきの出店」が基本。人が育つまでは出店せず、社員の中から「こういうことがしたい!」という声が上がり、それに見込みを感じたら出店するというスタイルです。

ソウルでの出店も、アメリカに住んでいたことがあり、海外で店をやりたいという夢を持っている社員の存在がきっかけです。ちょうど私自身、アジア各国には日本の居酒屋の“まがい物”が多い印象があり、きちんとした日本の食文化が伝わっていないというもどかしさを感じていました。そこで、まずソウルに店を出し、「日本の食文化のすばらしさを正しく伝えたい」と思い立ったのです。将来的にはアメリカ進出も視野に入れています。

年1回、アルバイトを含む全店のスタッフが集まり、神奈川・茅ヶ崎で地引き網に挑戦。採れたてのシラスを味わいながら交流を図る

――店舗展開を含めて、これからの展望を聞かせてください。

現在、ろばた焼業態の店を新たに展開しようと計画中です。肉も魚も野菜もあり、総合居酒屋であるろばた焼は、焼場が聖域であるという部分が、これまで展開してきた焼鳥にも通じます。そんなろばた焼を進化させた店を目指しています。会社として具体的な数字や目標を決めているわけではありませんが、20店舗ぐらいまでは、これまでどおり、神奈川県内でのドミナント戦略を続ける予定です。

ヒトとモノを大事にしていれば、カネは付いてくる。あくまでもヒト、モノ、カネが優先順位だと信じています。だから、会社はファミリーであるスタッフをどこまでしっかり見てあげられるか。「温かく見張る」くらいのスタンスで、社員の独立支援も積極的に進めていきたいと思っています。

今後も、ヒトを第一に考える理念はそのままに、社名の「ネクストグローバル」のとおり、常に“次の世界へ”という気持ちで挑戦し続けたいですね。

ごう 大倉山店(神奈川・大倉山)
http://r.gnavi.co.jp/a715601/
ベッドタウンにあるため特にファミリーに人気で、ママ会、女子会のほか、誕生日など記念日の利用も多い。新名物として牛タン料理を打ち出し中。
ごう 川崎店(神奈川・川崎駅)
http://r.gnavi.co.jp/e406900/

JR川崎駅から徒歩約3分に立地し、ビジネス層の宴会利用も多い。川崎店限定の「岩渕ホルモン串!!」(259円)は、店長の名を冠した人気の逸品。

Company Data

会社名
株式会社 ネクストグローバル

所在地
横浜市鶴見区矢向1-20-40-703

Company History

2005年 「ごう 元住吉店」オープン
2007年 「ごう 大倉山店」オープン
2009年 三代目「ごう 川崎店」オープン
2010年 新川崎に「麺童 虎徹」オープン
2011年 鶏ホルモン屋「ごう 学芸大学店」オープン
2012年 「ごう 綱島店」オープン
2013年 「ごう ソウル店」オープン
2014年 「ごう 学芸大学店」をグループ会社化し、「Bird Area」に呼称変更。
     現在、計8店舗を運営

※本記事の情報は記事作成時点のものであり、情報の正確性を保証するものではございません。最新の情報はご自身でご確認ください。

ぐるなび通信をフォローする