Vol.54
外食業の店主は、価格は自分で自由につけられる
これは以前にもこの連載内で述べましたが、外食業の特徴の一つに、自分で値付けをできることがあります。原価が10円でも100円の価格をつけてもよいし、原価80円のものを100円で売るのも「あり」です。ここが他のビジネスとの際立った違いです。最近の家電などはオープン価格が一般的で、これはお客に価格を決めさせるものですから、誰からも指図をされずに独断で価格を決められる外食業は、極めて異例の存在だと言うことができます。
そんなことができるのは、外食が製造・直売業だからです。よく「工場直売」というのがありますが、外食業は基本的に「工場直売」なのです。工場(店)で作って、その場で売って、サービスまでする。つまり、最終的な商品価値を店で生み出しているのです。同じ食材を使っても、調理技術とサービスの質と店のしつらえによって、まったく違う商品価値を生み出すことができる、外食は実に不思議な商売なのです。
値付けは店主の思い通り。考えてみれば、自分で自分の価値評価をくださなければならないのですから、かえって難しい任務を背負わされていますよね。そして、多くの経営者がここで失敗します。値付けのミスは致命的です。
立地ごとに違う価格で攻めてみる方法もある
いくら自分で値付けができるといっても、それぞれの商品には標準価格があります。それから、同じ商売をやっていても、立地によって、許される価格と許されない価格があります。この2点をおさえておかないと、来店客の納得は得られません。
まず標準価格ですが、立地によって大きく変わります。例えばコーヒー一杯の価格(以下、すべて税込表記)。「ドトールコーヒー」が現在220円(ブレンドコーヒー/Sサイズ)。「スターバックス」が302円(ドリップコーヒー/ショートサイズ)。「コメダ珈琲」のような喫茶店ですと420円(ブレンドコーヒー、立地によって変わる)。同じく「椿屋珈琲店」が(こちらも立地によって変わりますが)800円(オリジナルブレンド)になります。
コーヒーの底値は、「マクドナルド」とコンビニになります。1杯100円です。商売の中身と立地によって、大きな違いがあることがわかります。しかし、頭に叩き込んでいなければならないことは、100円でどこでも結構おいしいコーヒーが飲める時代なのだ、という事実です。
1杯500円で売ろうと、それは店主の自由ですが、「差の説明」はきちんとできていなければなりません。また、それはお客が納得できる説明でなければなりません。あらゆる外食商品の底値が大幅に下がっているのが現状で、「サイゼリヤ」のグラスワインは100円です。ちゃんとしたワインですよ。そういう店が存在することがわかっていて、1杯1,000円取ろうが、1,500円取ろうが、それは店主の自由です。もちろん、これも「差の説明」ができていれば、の話ですが。
一流のホテルでは、チャーハンを2,000円で提供していますが、「幸楽苑」では334円(半チャーハン)、静岡の強力中華チェーン「五味八珍」では745円で提供しています。しかし、ホテルなどの場合「『この建物で』『この雰囲気で』食べられるなら2,000円も当然だな」とお客が納得してくれるのであれば、2,000円も「あり」ということになります。
立地によっても、価格は変わります。あるスパゲッティ専門店が百貨店内で1,000円で提供して当たっていました。これを郊外の乗降客数の少ない駅前で、そのままの価格で提供したのですが、ものの見事に失敗しました。当然ですよね。同じフォーマットでも、立地によってはハネられてしまうケースがある、ということです。チェーン店は、自分のフォーマットが通用するところにしか、店を出しません。基本的に、立地によってフォーマットを変えるようなことはしません。チェーンを目指すならば、そうすべきでしょうが、単独の繁盛店を複数出すのであれば、その限りではありません。
立地に合わせて、値付けも商売の中身(フォーマット)も変える柔軟性があってもいいでしょう。多様な立地に合わせて、別々の価格と商品構成で出店してみる。その過程の中で、より大きな潜在市場にぶち当たり、強力なチェーンフォーマットを手に入れることもあるのです。