2011/07/05 挑戦者たち

株式会社一家ダイニングプロジェクト 武長 太郎氏

徹底した“お客様目線”で驚異のリピート率を紡ぎ出す。カフェ&ダイニング業態を中心に、20~30代の女性を惹き付け、東京、横浜で急成長を遂げている株式会社エスエルディー。オリジナリティ溢れる提案力で飲食業態を立ち上げているが、初期の事業は飲食ではなく、船上ライブのプロデュースだった。

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徹底した"お客様目線"で驚異のリピート率を紡ぎ出す

20歳で起業し、和風ダイニングを立ち上げたのが14年前。株式会社一家ダイニングプロジェクトの代表取締役社長・武長太郎氏は、「第2の我が家」というコンセプトで、地域密着の店作りを推し進めてきた。直営店の経営から、店舗プロデュース、経営者の育成まで、活躍の場を広げる武長氏に、これまでの歩みと今後の展望を聞いた。

武長 太郎 氏「こだわりもん一家本八幡店」にて

――20歳で第1号店を出店したのは、
異例の速さです。その経緯を教えてください。

高校卒業後、大学に入りましたが、人生の目的がはっきりせず、まったく勉強に身が入りませんでした。そこで、1年生の夏休みに自分探しの旅に出ました。コインを投げて行き先を南に決め、車中泊をしながら熊本に入ったところで、ある飲食店と出会いました。マスターとお客様のとてもいい笑顔が印象的で、たくさんの笑顔に囲まれているマスターがうらやましく、自分もこんな店を作りたいと思いました。

22歳までに飲食業で起業する目標を定め、夏休み明けの9月には大学を中退。開業資金作りと、経営ノウハウを学ぶため、ホテルで働き始めました。そして翌年、20歳を迎えた頃に、思いがけずチャンスがやってきました。母親の資金的な後押しもあり、閉店予定のクラブを譲り受け、大成功。それで自信を得て、半年後には熊本で出会った店をイメージした、理想のダイニングのオープンにこぎつけました。それが現在の「こだわりもん 一家」(当時は「くいどころバー 一家」)本八幡店です。

――その店が今日に至るまで、一家ダイニングプロジェクトの理念を体現しているのですね。

熊本の店で見た笑顔は、心底、くつろいだ時のものでしたから、人が最もリラックスできるのはどんな時かを考えました。そこで出てきたのが「第2の我が家」というコンセプト。心身ともに、自分の家の居間にいるように振る舞える店です。そこから店の在り方を導き出しました。靴を脱いで上がるようにし、木造りのぬくもりある空間に、掘りごたつを完備。「いらっしゃいませ」ではなく、「お帰りなさい」の言葉で迎えるようにしました。店名は、家に帰ってくるように、いろいろな人が一つの家に集うという意味で〝一家縲桙ニ付けました。

何もかもが手探りで、メニューは家庭料理のレシピ本を参考に、簡単に作れておいしいものを自分で探しました。原価率の計算もせず、「いくらだったら、食べてみたいか」という感覚だけで値段を決めました。一方で、繁盛店のリストを手に入れ、片っ端から訪れて、内装を見たり、テーブルの広さをこっそり測ったりしました。スタッフも駅前でスカウトして集め、接客のノウハウもなかったので、とにかく「自分だったら、どうしてほしいか」ということだけを基準に考えました。

そんな素人感覚が、かえってよかったのかもしれません。幸い初日から満席になりました。「地元にこんなに楽しいお店ができてうれしい。今度は友だちを連れてくるわね」と、店のコースターの裏にメッセージを書いてくれた年配の女性のお客様がいて、うれしくて涙が出ました。

――リピート率が70%という人気店に成長しました。
その秘密はどこにあるのでしょうか。

最大の理由は「第2の我が家」というコンセプトが、この町(千葉・本八幡)に合っていたことだと思います。ここに住んでいる人の多くは東京に通勤しています。仕事で疲れて、地元に帰ってきたときに、ほっとできる店や、自宅のようにくつろげる店が求められていたのではないでしょうか。都心であれば、まず幅広い層にアピールして新規客を獲得していくことが求められますが、ベッドタウンではリピーターになってもらうことが何より大切なのです。都心にある店とはまるで戦略が違ってきます。

そうはいっても、特別な秘策があったわけではありません。何のノウハウもなかったからこそ、自分にもスタッフにも「例えば、10年ぶりに再会した友人を自宅に招くとき、どんなふうにもてなしたら喜んでもらえるかを考えて仕事をする」ということを求めたのです。経験のないアルバイトスタッフでも、これならイメージできます。それが徹底した「お客様目線」につながったのだと思います。この結果からも、大切なのはマニュアルではなく、もてなす心だと言えます。

「第2の我が家」というコンセプトは、飲食店にとって普遍的なものだと確信しています。特に都心のベッドタウンである町でのニーズは高いはずです。「こだわりもん 一家」も、メニューはニーズに合わせてブラッシュアップし、ドリンクの重点などは変えても、店の在り方の根本は14年間、まったく変わりません。また、その後に出店した7店も不況に屈せず、営業できています。

――「こだわりもん 一家」のほかにも、
ユニークな業態を開発していますね。

「大漁一家」と「博多劇場」「屋台屋 九ちゃん」は、元気と活気がテーマです。「大漁一家」は魚市場の活気と鮮魚、地魚が楽しめる店。「博多劇場」「屋台屋九ちゃん」は福岡博多の中洲の風物詩ともいえる屋台村をイメージし、長いカウンターにおでんや餃子、もつ鍋などをたくさん並べたライブ感が魅力です。

今の時代は、こうしたライブ感のある元気な店が求められています。少し前は個室ブームで、隣の客に遠慮せずに少人数のグループで集まる光景が主流でしたが、今は少し違ってきています。個室での親しい仲間とのひとときもいいけれど、飲食店の魅力は、店の大将や女将との気兼ねない会話だったり、スタッフとの軽快なやりとりだったり、知らない客と意気投合する瞬間だったりという、出会いや語らいにあるのだと思うのです。この傾向は今後、加速していくでしょう。ますます人間らしさを追求した店作りが大切になってくるのではないでしょうか。

――人材の育成や店舗プロデュースにも
意欲的に取り組まれていますね。

店舗プロデュースは、蓄積した店作りのノウハウが外食産業の発展に役立つなら喜んでお手伝いしたいと、オファーに応じて始めたものです。

人材の育成では、今までは店長を育ててきたのですが、これからは経営者を育てたいと思っています。経営者という仕事は、いろいろ苦労はありますが、それを含めて面白い仕事です。自分が考えて作った店で、スタッフが育ち、お客様の笑顔が見られるのですから、こんなにうれしいことはありません。だから、社員の独立を応援し、経営者を増やしていきたい。当社を売上100億円の会社にするより、10億円の会社が10社できて、お互いに苦労や歓びを分かち合えれば、そのほうが絶対面白いし、外食産業の活性化にもつながります。

――最後に今後の目標や、
目指している展開についてお聞かせください。

新しい業態として、韓国料理店を考えています。韓国料理はとても人気があるのですが、気軽に入れておいしい店は、そう多くはないと感じています。当社のコンセプトと組み合わせて、新しい韓国料理店ブームを創出していきたいです。

既存の7店では、それぞれの個性を大事にしながら時代のニーズに合った進化を目指します。先ほどのライブ感もその一つです。キッチンスタジアムにして、店全体を巻き込むようなパフォーマンスのある店作りに取り組んでいきたいですね。

そして何よりも、スタッフとの絆を強めたい。今回の震災で売上が落ち込んだときも、スタッフたちが精力的に店を運営してくれたおかげで、全店、1日も休まず営業することができました。

困難なときほど、団結力が求められます。このスタッフとともに、100年後もここで営業を続けられる店を築いていこうと思っています。

こだわりもん 一家 成田店
(千葉・成田)http://r.gnavi.co.jp/g233709/京成成田駅から徒歩2分。新鮮食材が並ぶ炉端カウンターでの活気ある接客、旬にこだわった料理、全国から取り寄せたお酒を目当てに連日、常連客で賑わう
大漁一家 北千住店
(東京・北千住)http://r.gnavi.co.jp/g233708/築地魚市場の元気と活気をテーマにした店舗で、2007年にオープン。現在、本八幡店と2店舗を展開中。市場から目利きの達人が仕入れた魚をメインに、スタッフの威勢のよいかけ声も自慢。8~10種のネタをてんこ盛りした「大漁てんこ盛り寿司」、魚のあらで炊いた「漁師のざっぱ煮」、わたと味噌でしっかり味つけした「丸イカのゴロわた煮」などの漁師料理が人気。
屋台屋 九ちゃん 柏店
(千葉・柏)http://r.gnavi.co.jp/g233713/九州博多の風物詩・屋台をそのまま再現。博多の名物料理が目白押しで、船橋店、小岩店と3店舗がある。「鉄鍋餃子」や「スープ炊き餃子」のほか、「博多串焼き」「おでん」、鶏をまるごと煮込んだ「水炊き鍋」。3種類からスープを選べる「牛もつ鍋」などが並んでいる。屋台の活気そのままの店の雰囲気が人気で、スタッフとの気の置けない会話も楽しい。

Profile

たけなが たろう

1977年

千葉県生まれ

1996年

中央大学法学部に入学するも、外食産業に進むことを決意して中退。ホテルに就職しサービス業の基本を学ぶ

1997年

有限会社ロイスカンパニーを設立し、クラブ経営に成功。直営1号店オープン

2000年

株式会社一家ダイニングプロジェクトに商号変更

2006年

店舗プロデュースも手掛け、千葉の飲食店勉強会「千葉フードリーム」を立ち上げる

Company Data

会 社 名

株式会社一家ダイニングプロジェクト

所 在 地

千葉県市川市八幡2-5-6
糸信ビル3F

店 舗 名

「こだわりもん 一家 本八幡店」
「大漁一家 北千住店」
「博多劇場 千葉店」
「屋台屋 博多劇場 成田店」
「屋台屋 九ちゃん 船橋店 」
「ステーキハンバーグ&サラダバーけん 白井店」(FC店舗)ほか

※本記事の情報は記事作成時点のものであり、情報の正確性を保証するものではございません。最新の情報はご自身でご確認ください。

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