“日本式”焼肉が台湾でヒット

“豪州和牛の焼肉”を売りに成功を収める乾杯グルーでは現在、高級感を重視した業態「老乾杯」を台湾に8店舗展開。6号店「老乾杯 大直店」は、週末は予約で埋まるほどの人気だ。

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近年、和食への注目度が世界的に高まるなか、海外に進出する日本の外食企業も増加傾向にある。アジア各国で、“日本の食”を売りにしている繁盛店を取材し、そこから、海外出店を成功させるためのヒントを探る。

豪州和牛を売りに“日本式”焼肉が台湾でヒット!

【台湾・台北】老乾杯 大直店(ろうかんぱい だいちょくてん)
台北市中山區北安路780號3F
(美麗新廣場NEW SQUARE内)
http://www.kanpaiclassic.tw/
高品質の豪州和牛を売りに、日本酒やワインも楽しめる、大型商業施設内の焼肉店。系列の焼肉店「乾杯」より落ち着いた雰囲気で、123坪の大箱にテーブル席や個室を用意。アッパー層を中心に、ビジネス層やファミリーを集客している。

仕入れに強い商社と提携。人材育成は座学も重要

“豪州和牛の焼肉”を売りに、台湾で成功を収めている乾杯グループ(乾杯股?有限公司)。会長を務める平出荘司氏は、日本人の父親と台湾人の母親を持つ、東京生まれの東京育ち。「高校卒業後に、台湾へ語学留学した時に、母親が出資していた知り合いのホルモン焼店を手伝ったことがきっかけで飲食業に興味を持ちました」と平出氏。一度、日本の焼肉店で修業をした後、再び台湾に戻り、そのホルモン焼店の店長を任され、台湾の食文化や国民性を学びつつ、日本での経験を活かして人気店へと成長させた。その後、知人の焼肉店を引き継いで独立し、1999年に乾杯グループを創業した。

同社の主力業態「乾杯」は、毎日20時になると来店客全員が「乾杯」をするというユニークな取り組みで大人気となった焼肉店。肉は、日本が世界に誇る「豪州和牛」を使用している。「台湾では、牛は農耕作業を行う動物というイメージが強く、和牛はもちろん、牛肉自体の自給率が高くありません。そのため、仕入れは輸入品に頼っています」と平出氏。仕入れの転機となったのは、2004年に和牛の焼肉店「但馬屋」を運営する株式会社牛心の社長と出会ったこと。日本の国産和牛に引けを取らない質の高い豪州和牛の取引に強みを持つ日本の商社を紹介してもらい、上質な肉の提供が可能になった。合わせて、ていねいで行き届いた接客も口コミで評判を呼び、若年層やビジネス層から絶大な支持を獲得し、着実に店舗を展開していった。

さらに2005年には、「乾杯」よりも落ち着いた雰囲気で焼肉を楽しんでもらいたいと、個室を増やし、高級感を重視した業態「老乾杯」1号店をオープンした。店名の「老」には「成熟した大人」という意味が込められており、こだわりの日本酒と焼肉をゆっくり楽しめる“大人向けの店”がコンセプト。現在、台湾に8店舗を展開している。

その6号店として2016年3月にオープンしたのが「老乾杯 大直店」。台湾最大の都市・台北の地下鉄劍南路(けんなんろ)駅近くの商業施設3階に出店。アッパー層を中心に週末は予約で埋まり、夜は3回転する日もある人気ぶりだ。

来店客のお目当ては、もちろん焼肉。なかでもオーダーがもっとも多いのが「本日限定豪州和牛六種盛り合わせ」(大サイズ2980ドル=約1万639円)。料理長がその日のおすすめ部位を選んで提供するメニューで、プロが厳選した部位を食べ比べられると好評だ。また、注文が入ってから炊き始める「鶏釜飯」(小サイズ250ドル=約893円)も人気メニューの1つ。「日本の焼肉店では“ご飯もの”と言えばビビンバなどが定番ですが、日本らしさが伝わりやすい釜飯をメニューに取り入れました」と、平出氏は狙いを語る。

スタッフは、正社員が16名で、アルバイトが20名。「全員台湾人ですが、彼らはサービスへの考え方が日本人に近く、日本の接客スタイルへの理解も早い。店舗での実践はもちろん、座学にも熱心に取り組むので、しっかりした研修制度を用意するほか、売上目標の達成率に応じたインセンティブ制度を設け、モチベーションアップにつなげています」と、平出氏。

豪州和牛を売りにした焼肉店のパイオニアとして、現在、グループ全体で焼肉店や鉄板焼業態など、台湾に46店舗、上海に2店舗を展開する乾杯グループ(正社員800名、アルバイト600名)。今後は台湾からアジア各国へ、さらなる飛躍を期している。

「老乾杯 大直店」成功のポイント

1. パートナー

出店時のパートナーはいないが、主力食材の豪種和牛を仕入れるにあたり、豪州和牛の取引に強い商社と提携

2. メニュー

「豪州和牛」や「釜飯」をメニューの売りにし、台湾の人に“日本らしさ”をアピール

本日限定 豪州和牛六種盛り合わせ
大サイズ
(2,980ドル=約1万639円)
店の売りである豪州和牛のおすすめ部位を盛り合わせており、高いオーダー率を誇る

鶏釜飯 小(250ドル=約893円)
ご飯ものはビビンバなどではなく釜飯を用意。“日本らしさ”を感じられると好評

3. 人材

座学にも積極的な台湾人に合わせ、「現場で見て覚える」だけではなく、勉強会などのカリキュラムを組む

4. 販促・演出

来店客の目の前で肉を切り分けたり、スタッフが焼き上げるメニューを導入することでファンを獲得

リブロース量り売り(280g/2,744ドル=約9,796円)
目の前で肉を好みの厚さにカットする演出が好評。スタッフが客席で焼き上げて提供

「老乾杯 大直店」の主なメニュー、コース

●アラカルト

  • 老乾杯限定熟成チルド牛タン(480ドル=約1,714円)
  • 老乾杯限定豪州和牛カルビ(460ドル=約1,642円)
  • トントロ(220ドル=約785円)
  • 鶏の三種部位盛り合わせ(320ドル=約1,142円)
  • 台湾宜蘭産合鴨のムネ肉(320ドル=約1,142円)
  • 季節の野菜セット(220ドル=約800円)
  • ミックスポテトチーズ焼き(250ドル=約893円)
  • 生のり蛤スープ(320ドル=約1,142円)
  • 冷やし稲庭うどん(350ドル=約1,249円)
  • 梅酒ゼリーと柚子シャーベットのおとなのパフェ
    (160ドル=約571円)
  • 平日ランチ限定 本日特選豪州和牛焼肉セット
    (680ドル=約2,427円)

●コース

  • 滿心套餐コース(全11品/1,580ドル=約5,640円)
  • 壽心套餐コース(全11品/2,080ドル=約7,426円)
大型の商業施設の3階に出店。デジタルサイネージを使ってメニューを写真付きで表示
入口からホールへ進む通路にある炭焼場。珍しい光景に動画や写真を撮る人も多い
メニューブックには日本語や英語の表記も入れ、海外からの旅行者にもわかりやすいように工夫
鶴と梅の絵が描かれた個室は、日本らしさと高級感を感じさせる雰囲気
コースは全部で3種類で、1,280ドル(約4,569円)から用意。豪州和牛のステーキ付き全11品の「滿心套餐」(1,580ドル=約5,640円)が一番人気

店舗データ

業態   焼肉店
オープン 2016年3月
席    140席
客単価  昼/1,170ドル(約4,177円)夜/1,831ドル(約6,537円)
客層   アッパー層やビジネス層を中心に、週末は商業施設を訪れたファミリーも多い

1台湾ドル(文中では「ドル」で表記)=約3.57円(2017年4月)
価格は税込(税率5%)、別途サービス料10%

乾杯グループ(乾杯股份有限公司)会長 平出 荘司 氏
東京都町田市にて日本人の父と台湾人の母の間に生まれる。台湾への語学留学時に、飲食店の手伝いをした経験から飲食の道へ。1999年に同社を創業し、台湾で店舗展開を進める。

台湾の基本情報

面積     36,191km2(九州は42,000km2
人口     2,350万人
言語     中国語、台湾語、客家語、その他原住民の言語
通貨     台湾ドル(文中では「ドル」で表記)
飲食店数   約18万9,000店舗(2010年)(日本料理店 約6,457店)(2015年)
世帯平均年収 約217万円

「老乾杯 大直店」周辺エリアの特徴

台湾最大の都市・台北。地下鉄劍南路(けんなんろ)駅を中心に高級住宅街が広がる大直エリアは、近年台湾でも地価が高騰している場所の一つ。「老乾杯 大直店」が入る複合型商業施設には、映画館なども入っている。

出典:日本貿易振興機構