生産者を開拓し、和食の魅力を発信

上海の外灘エリアにある日本料理店「SUN with AQUA JAPANESE DINING 東京和食」富裕層やビジネス層をターゲットに、長崎産の魚介を使った料理で長く愛される店に成長している。

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近年、和食への注目度が世界的に高まるなか、海外に進出する日本の外食企業も増加傾向にある。アジア各国で、“日本の食”を売りにしている繁盛店を取材し、そこから、海外出店を成功させるためのヒントを探る。

中国で生産者とのルートを開拓し、和食の魅力を発信

【上海・外灘】SUN with AQUA JAPANESE DINING 東京和食
上海市中山東一路6号「外灘6号」2階
http://sunwithaqua.com
華やかで重厚なビルが建ち並ぶ繁華街「外灘(がいたん)」に位置。地元富裕層をターゲットにした日本料理を売りにしており、昼、夜ともにコース料理が中心の高級店。

上海の和食店では珍しい「魚の煮付け」が看板に

19世紀後半から20世紀前半にかけて、外国人居留地として栄えた上海の外灘(がいたん)エリア。その一角にある1906年竣工の洋館「外灘6号」2階に、2006年オープンしたのが、日本料理店「SUN with AQUA JAPANESE DINING 東京和食」だ。アジアを中心に200店舗以上(FCを含む)を展開するサントリーF&Bインターナショナルが経営しており、“10年続けば老舗”と言われる上海で長く愛されている。

店内は、カウンター席やテーブル席のほか、歴史的洋館の内装を活かした個室も8つ用意。BGMにはジャズが流れ、高級感ただよう雰囲気だ。「“外灘らしい空間で、本物の和食を食べてもらう”がコンセプト。もともと上海には和食の店が多く、競争も非常に激しくなっています。外灘エリアは日系企業や日本人向け住宅が集まる地区ではないため、地元の富裕層やビジネス層をターゲットにしました」と、総料理長の本多淳一氏は語る。

食材は、日本からだけではなく、手に入るものはなるべく地元で調達している。「店で使う米の生産を託せる農家を探すため、中国各地の日照時間や気候を調べました。そして稲作に適していそうな中国北部の黒龍江省に足を運び、アポなしで農家を訪ね歩いて交渉しました。野菜も同じ方法で仕入れルートを開拓し、収穫を手伝いに行くこともあります。生産者の方からは、『上海で、ここまでする飲食店の人はいない』と驚かれます」と、本多氏は笑顔を見せる。食材へのこだわりや情熱を行動で示すことで、異国の地でも信頼関係を構築することに成功している。また、近年、中国では食の安全への関心が高まっていることから、生産地の情報をSNSなどで発信し、“安心・安全な店”としてアピールしている。

そんな同店の売りは、長崎などから仕入れる魚介を使った料理。特に、「金吉魚(キンキ)の煮付け」が人気だ。上海で“和食の魚料理”といえば刺身が定番で、煮魚を提供する店は少なかったため、他店との差別化を狙ってメニューに組み込んだ。「当初、ベビーパクチーを添えたり、ニョクマム(ベトナムの魚醤の1種)を使うなど、入門編として上海の人になじみのある食材や調味料を使いました。そして、煮付けの認知度が上がった後で、正統派の煮付けで提供を開始。『ウチの煮付けは世界一だから食べてみて』と、積極的に薦め続けたことで、看板の一つになりました」と、本多氏は成果を語る。

また、上海の人に日本酒のおいしさを知ってもらうため、約30銘柄をラインナップ。愛知県の酒蔵に依頼して醸造したオリジナルの日本酒「燦水月(さんすいげつ)」も用意している。「店のオリジナルと伝えると、興味を示すお客様も多く、オーダーのきっかけになっています」(本多氏)。日本から酒蔵の人を招いて基礎知識などを来店客に紹介する「日本酒セミナー」を行うなどして、着実に日本酒のファンも増えている。

スタッフは全部で50名。日本人は本多氏のみで、現地採用のスタッフばかりのため、人材教育にも力を入れる。「彼らに調理や接客の技術を伝え、ゆくゆくは料理長や支配人になってもらいたい」と、本多氏は将来を見据える。

今年2月、本多氏は農林水産省から「日本食普及の親善大使」に任命され、現地での日本料理コンテストの審査員など、日本食の魅力を広める活動も行っている。流行も人の好みもめまぐるしく変化する上海で、現地で出会った生産者やスタッフと力を合わせて店づくりに励みながら、和食のすばらしさを多くの人に伝えたいと考えている。

「SUN with AQUA JAPANESE DINING 東京和食」成功のポイント

1. パートナー

米や野菜は現地の農家に足を運びルートを開拓。何度も出向いて交渉し、信頼関係を構築。自分で収穫に行くこともある

2. メニュー

上海では珍しい魚の煮物など豊富な料理を用意。ボリューム感やインパクトのある盛り付けにも気を配っている

“本物の和食”にこだわる
上海では珍しい煮魚も

金吉魚(キンキ)の煮付け(1,080元=17,927円)。魚の煮物は珍しく、差別化に成功

てんぷら付き「蟹三昧北海釜めし」(150元=2,490円)。人気のウニとイクラは、後乗せ用に別添え

3. 人材

経験よりも学ぶ素直さがあるかを見て、現地の人を採用。衛生講習を定期的に行うなど、基礎からていねいに教育している

現地で採用した中国人スタッフを育成
スタッフは現地で採用。ホール係は支配人、キッチン担当は料理長へと、未来を見据えた教育を行っている

4. 販促・演出

相性のよい料理や、値段と味の関係など、様々なテーマで日本酒セミナーを開催。SNSでもイベント情報を配信

日本から蔵元を招待して日本酒セミナーなどを開催!
日本酒に興味を持ってもらうため、定期的に日本酒のセミナーなどのイベントを開催している

「SUN with AQUA JAPANESE DINING 東京和食」の主なメニュー、コース

●アラカルト

  • 料理長おすすめ特上刺身盛り(1~2人前、800元=13,280円)
  • 料理長おすすめ寿司盛り(8貫260元=4,316円)
  • 黒鮪づくし五種(240元=3,984円)
  • 料理長おすすめロール寿司盛り(160元=2,656円)
  • 特選牛フィレ(300元=4,980円)
  • 活伊勢海老鉄板焼き(170元=2822円)
  • 銀鱈鉄板焼き(180元=2,988円)
  • 天麩羅盛り(160元=2,656円)
  • 鶏から揚げ(70元=1,162円)
  • 江戸前そば 氷盛り(60元=996円)
  • すき焼き風温玉肉うどん/そば(88元=1,461円)
  • SUN特製デザートカルテット(100元=1,660円)

●コース

  • 楽-RAKU-(ランチコース、全7品/260元=4,316円)
  • 煌-KIRAMEKI-(全7品/800元=13,280円)
  • 極-KIWAMI-(全7品/1,000元=16,600円)
個室利用客の単価は1,000元(1万6,600円)。和食店ながらカジュアルモダンな内装で、テーブルも広く、ゆったりとした空間
メニュー表の写真は、本多氏が撮影したものを使用している
店の味に合うように水や米選びから手がけたオリジナル日本酒「燦水月」。お勧めを聞かれた場合はこれを提案する

店舗データ

業態   和食店
オープン 2006年9月
席    197席
客単価  昼/260元(4,316円)夜/800元(13,280円)
客層   中国人富裕層およびアッパー層のビジネスパーソン、男女比は半々。日本人客は1%未満の月も

※1人民元(文中では「元」で表記)=約16.6円(2017年7月)

ゼネラルマネージャー 兼 総料理長 本多 淳一 氏
福岡県出身。21歳で上京し、銀座の会席料理店で経験を積む。シンガポールでの和食店勤務を経て2012年に上海へ。地元客との交流を大事にしながら和食の普及に尽力している。

上海の基本情報

面積     6,340.5km2
人口     約2,415万人
言語     普通語(北京語)、上海語
通貨     人民元
飲食店数   約18万店舗(日本料理店 約3,600店)(2016年)
個人の年間平均所得 49,867元(約80万円)

「SUN with AQUA JAPANESE DINING 東京和食」周辺エリアの特徴

外灘地区は戦前、外国人居留地として栄え、今も上海の中心的なエリア。当時の面影を残すビル群に、金融機関や5ツ星ホテル、高級店ブティック、ギャラリーなどが入る。夜景スポットとしても有名。

出典:上海統計年鑑、上海市統計局、中国統計局