和牛の希少部位や日本流サービスでファン獲得

香港の黒毛和牛焼肉専門店「焼肉グレート」は、香港では珍しい希少部位を約20種類を提供。関心度も高く、週末は満席になる人気ぶり。日本流の接客で満足度もアップさせている。

URLコピー

近年、和食への注目度が世界的に高まるなか、海外に進出する日本の外食企業も増加傾向にある。アジア各国で、“日本の食”を売りにしている繁盛店を取材し、そこから、海外出店を成功させるためのヒントを探る。

香港では珍しい和牛の希少部位や日本流サービスでファンを獲得!

【香港・上環】Yakiniku Great
G/F, Manhattan Avenue, 255 Queen's Road Central, Central
http://imaginations.co.jp/
香港では、オーストラリア産の牛肉を用い、カルビ、ロース、タンなど一般的な部位を出す焼肉店が多いなか、黒毛和牛の希少部位を提供。週末は予約で埋まる人気店。

店を印象付ける「お通し」。日本でのスタッフ研修も実施

香港島の経済的中心地・中環の西側に位置する上環。昔ながらの乾物問屋や漢方薬の店などが軒を連ねる一方、現地に住むセレブや欧米人が多く集まるおしゃれなエリアも混在している。その大通り沿いに2015年1月オープンしたのが、黒毛和牛焼肉専門店「Yakiniku Great(焼肉グレート)」だ。

オーナーの津川勝治氏は、割烹などでの経験を経て、栃木・宇都宮市で「焼肉グレート」をオープン。日本国内に4店舗を展開した後、香港出店で初の海外進出を果たした。「最初はアメリカに出店しようと、2010年ごろからニューヨークへ通っていたのですが、折悪く狂牛病が流行し、黒毛和牛のアメリカへの輸出が禁止になってしまい、出店を見合わせました。そんななか、知人から香港について話を聞き、アメリカの前に香港で挑戦することにしました」と、津川氏は振り返る。

初の海外進出にあたり、「何事も人に頼らず」がモットーの津川氏は、合弁ではなく完全独立資本の出店にこだわり、1年前から香港に移り住み、準備を進めた。現地で紹介された香港人マネージャーから情報を得ることもあったが、自ら香港の様々な場所を訪ねて物件を探した。実際に肌で感じた街の雰囲気や道行く人の印象を大事にし、香港で焼肉店の来店客はほとんどが富裕層だという情報も参考に、富裕層や欧米人のアッパーミドルが集まる上環を出店場所に選んだという。「この物件は、10カ月ほどかかって見つけました。香港では、物件を内見する際に即決を迫られることが多いので、物件の良し悪しを素早く見極める目と決断力が求められます」と津川氏。

主力食材の和牛肉は、日本から輸入。日本の姉妹店で仕入れる肉を処理している食肉センターが、香港への輸出認可を持っていなかったため、認可を持つ日本の業者を探し、香港の仲介業者を通して、上質の黒毛和牛を仕入れている。特に、希少部位を約20種類そろえているのが特徴。香港の焼肉店では希少部位はまだ珍しく、現地の人にとっては初めて見る部位が多いため、メニュー表に詳しい説明を入れている。「希少部位を組み込んだ『おまかせコース』を430~720ドルの価格帯で3種類用意しており、注文率も高いです」と津川氏。店内に希少部位を示す牛のイラストを掲示して、各部位の場所が確認できるようにするほか、部位ごとに最適な焼き方も説明している。また、黒毛和牛の握りを「お通し」(30ドル=約425円)として提供したり、「あごだし素麺」(198ドル=約2802円)など、和風のサイドメニューも用意。当初は、なじみのない「お通し」にクレームもあったが、半年ほどで定着。希少部位への関心度も高く、週末は予約で満席になる人気ぶりだ。

さらに、質の高い接客も重要と考え、人材育成にも力を入れている。姉妹店と同じマニュアルを中国語に翻訳してスタッフを指導。「焼肉の味だけでなく、サービス面も充実させて最高の時間を過ごしていただけるようにしています」と津川氏は胸を張る。研修として、香港人スタッフを日本の食肉センターや姉妹店へ連れて行くこともあり、食材などの知識を学んでもらいつつ、モチベーションの向上にもつなげている。

現在、香港で2店舗目の準備を進め、将来的には3店舗目の展開も視野に入れている。さらに、2020年までには当初の目標だったアメリカへの進出を計画中。香港での成功を足がかりに、さらなる飛躍を遂げようとしてる。

「Yakiniku Great」の成功のポイント

1. パートナー

現地の情報に詳しい香港人のマネージャーに相談しつつ、物件探しや食材の仕入れなども、人任せにせず自分で行う。

2. メニュー

香港人にはなじみのない「希少部位」を提供。「お通し」など、あえて日本流を貫くことで、他店との差別化に成功。

売りは黒毛和牛の希少部位。お通しやそうめんなども好評!
「とうがらし」や「ミスジ」(ともに肩肉の一部)などの希少部位を含む「おまかせコース 松」(1人前620ドル=約8,773円、写真は2人前)が人気

現地では珍しい「お通し」(30ドル=約425円)を提供。黒毛和牛の握り(写真)などで、肉の質の高さを伝える
年間通して温暖な気候に合わせて、香港店限定で「あごだし素麺」(198ドル=約2,802円、2~3人前)を提供。シメの一品として人気を呼んでいる

3. 人材

「世界一業務基準」と名付けられたマニュアルや日本での研修で、従業員のモチベーションを高め、長期就業につなげる。

日本の店舗との共通マニュアルや研修の実施で人材を育成!
日本の姉妹店や牛肉の仕入れ先での研修を実施。香港人スタッフのモチベーションアップにつながっている

4. 販促・演出

店内でも、希少部位の豊富なラインナップをアピール。他店ではできない特別な食体験が、リピーターを生んでいる。

希少部位の場所がわかるイラストで関心度アップ!
牛肉の希少部位を示すイラストをカウンター席の上部に掲示。店で提供する部位にはランプをつけてアピール

「Yakiniku Great」の主なメニュー、コース

●アラカルト

  • ミスジ(1人前149ドル=2,093円)
  • とうがらし(109ドル=1,542円)
  • 大三角(134ドル=1896円)
  • 栗三角(118ドル=1,670円)
  • 丸芯(134ドル=1896円)
  • 杓子(109ドル=1,542円)
  • 究極サーロイン(199ドル=2,816円)
  • ヒレ(134ドル=1896円)
  • 和牛カルビ(98ドル=1387円)
  • 和牛ロース(88ドル=1,245円)
  • 北海道帆立貝柱焼き(98ドル=1,387円)
  • 焼き野菜の盛り合わせ(98ドル=1,387円)
  • グレート塩サラダ(98ドル=1,387円)
  • 出来立て混ぜキムチ(70ドル=991円)
  • 和牛ネギトロ丼(小鉢)(98ドル=1,387円)

●コース(2人前から注文可)

  • おまかせコース 竹(430ドル=6,085円)
  • おまかせコース 松(620ドル=8,773円)
  • おまかせコース 極上(720ドル=10,188円)
日本の店舗で使用していた独自のマニュアルを中国語に翻訳して活用。網交換時の注意点や部位の説明など、質の高いサービスを徹底
焼肉と日本酒の組み合わせも好評。定番6種、季節のおすすめが2種あり、冷酒が人気
希少部位の知識がない人でも安心して楽しめるようにと、「おまかせコース」を3種類用意

店舗データ

業態   焼肉
オープン 2015年1月
席    49席
客単価  850ドル(12,028円)
客層   アッパークラスのビジネス層、香港人や欧米人がほとんどで、日本人は少ない

※1香港ドル(文中では「ドル」で表記)……約14.15円
別途サービス料10%

株式会社 イマジネーションズ 取締役 津川 勝治 氏
神奈川県出身。調理師専門学校を卒業後、割烹での修業を経て、「焼肉グレート」を栃木でオープン。かねてからの夢だった海外出店も果たし、現在、国内4店舗、香港1店舗を経営。

香港の基本情報

面積     1,104.4km2(東京都の約半分)
人口     約737万人(2016年末)
言語     中国語(一般には広東語が多い)、英語
通貨     香港ドル(文中では「ドル」で表記)
飲食店数   約16,620店(日本料理店 1,280店)(2015年)
香港市民の月収(中位数) 約21万円

「Yakiniku Great」周辺エリアの特徴

香港の上環は、海産物や漢方薬の専門店が並ぶ昔ながらの下町と、超高層ビルが林立する世界有数の金融街という2つの顔を持つエリア。起業した香港人や欧米の駐在員など、セレブが多く住み、おしゃれな飲食店も多い。

出典:日本貿易振興機構、香港政府統計処