2019/06/20 挑戦者たち

リテンションマテリアル合同会社 代表 大塚 達 氏

首都圏で居酒屋などを運営するリテンションマテリアル合同会社の大塚達氏。創業6年で急成長しているが、その歩みは波乱万丈だ。ビジョンも売上目標もミーティングもないという経営方針も含め、躍進の秘訣を探る。

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どんな経験も糧になると思えば、逆境や失敗さえも楽しめる

――異業種からの転身だそうですがこれまでの経歴を教えてください。

 大学卒業後、ベンチャーの不動産会社に営業職で入りました。高校生からアメフトしかやっていなかったので、具体的な将来像はなく、単純に「稼ぎたい」「鍛えられる環境に身を置きたい」と考えて選んだ会社です。実際に仕事は過酷で、毎日ひたすら飛び込み営業と1000軒のポスティングを繰り返しても、最初の半年は1戸も売れませんでした。それでも先輩に鍛えられながら無我夢中で働くうち、ついに社内トップの成績を収めるまでに。その矢先、リーマンショックで会社の経営状況が悪化し、やむなく退職。中学時代の友人の紹介で、地元・八王子の焼肉店でアルバイトを始めました。

 次の仕事が決まるまでのつなぎのつもりでしたが、上司の誘いで正社員になり、半年後には店長に就任。前職とは違い、お客様に「ありがとう」と言ってもらえることがうれしく、やりがいを感じました。一方で、結果を出してもなかなか給料が上がらず、収入面で将来に希望を持てなかったことから3年で区切りをつけ、知人の紹介でコンサルティング会社に転職しました。

 そこでは飲食店のコンサルティングに携わり、顧問先の1つが、のちに営業権を買い取り、創業店舗となる東京・蒲田の居酒屋「叶え家」です。赤字が続いていたその店の経営を引き受ける人を探しているという話が出た際、コンサル会社の社長から声がかかったのが僕でした。焼肉店で働いていたとは言え、居酒屋のことは何もわかりません。それでも、「引き受けます」と即答し、2013年6月に会社を立ち上げて独立しました。

――かなり珍しい創業の経緯ですが、もともと独立志向はあったのですか?

 起業は考えたこともありませんでした。それでも引き受けたのは、直感的におもしろそうだと感じたからです。「迷ったときは楽しい方を選ぶ」のがモットーで、結果が仮に失敗に終わったとしても、自分自身に深みが増しますし、話すネタにもなる。そんな感じでポジティブに捉える性格です。「叶え家」を引き継いでからは、新規客の開拓を最優先にWebを含めた販促に注力。また、コストパフォーマンスの高い料理を提供しながら、接客などは及第点レベルの“普通”でいいと、スタッフに伝えました。そうすれば、必ず新規客の中からリピーターになる人が出てくるはずと考えました。結果、半年後には黒字に転換。現在、蒲田でも屈指の繁盛店になっています。

 この経験から実感したのは、「なにごとも半年あればどうにかなる」ということ。最初は右も左もわからず途方に暮れたとしても、投げ出さずに半年続けていれば結果は必ず出る。実際に、アメフトも、不動産営業の仕事もそうでした。この半年という目安は、「楽しい方を選ぶ」という選択基準とともに、新しいことに挑戦するとき、自分を後押ししてくれています。

Toru Otsuka 1985年、東京都生まれ。高校、大学とアメリカンフットボールに打ち込み、新卒で不動産会社に営業職で入社。リーマンショックを機に1年で退職し、焼肉店で3年間勤務した後、コンサルティング会社に転職。2013年6月に会社を設立し、「蒲田 二代目 叶え家」で独立・創業した。

――創業から6年で店舗数は8店に拡大。ハイペースな出店の理由は?

 もともと多店舗展開は予定になく、必要に迫られて、というのが正直なところです。実は、「叶え家」を軌道に乗せた後、業績が悪化した以前の経営会社ごと買い取る決断をしました。同時に、その会社が抱える負債も背負うことに。それを返済していくためには、立ち止まることなく、店舗を増やして売上を上げるしかなかったんです。

 次に出した「二代目 叶え家 ゆとり鶴見店」は、閉店の話が持ち上がっていた居酒屋を買い取って出店しました。その後も、立ち飲み、肉バルと業態を増やしながら、半年に1店ほどのペースで出店。エリアはJR京浜東北線沿線を基本にしています。業態開発ではトレンドも多少は意識しますが、それよりも自分たちがやりたいことを重視しています。特に「立飲み集会所 日本酒人」は、日本酒の蔵元とのつながりが増えるなか、よい酒を広く発信したいという想いで開発した業態です。

 おかげさまで、現在展開している8店舗の売上はすべて好調で、最近では飲食店の経営再建やM&Aの相談も多く受けるようになっています。これまでの経験から他社にないノウハウが蓄積されてきているので、今後も経営不振の店舗を買い取って独自のノウハウで売上を伸ばしたうえで、大手の外食企業や独立を目指す人に売却していく予定です。それを繰り返しながら、会社として8~10店舗程度の規模を維持できればと考えています。

――組織づくりについての方針や特徴について教えてください。

 店長を決めず、その日、その店にローテーションで入っている社員が責任者を務める形にしています。こうすることで、人の融通が利くため休みを確保しやすく、僕自身も毎日違う店の現場に立つことができます。また、各店の売上目標やミーティングもありません。集客のための仕かけを考えて実践するのは僕の役割であり、店舗のスタッフには日々の営業に集中し、店を盛り上げることに徹してほしいと考えているからです。そもそも、飲食店は日々やらなければいけない業務が多く、長時間労働になりがち。きちんと休みを取りながら、目の前のお客様に向き合い、楽しく仕事ができる環境を整えることが重要だと思っています。

 社員やアルバイトとは普段から垣根なく、フランクに会話を交わしているので、ミーティングがなくてもコミュニケーション不足を感じることはありません。これはあくまで持論ですが、組織の一番上に立つ者は、人から好かれる人間であることが大切だと思っています。みんなから気軽に話しかけてもらえ、愚痴も言い合える関係性でありたい。経営者としての威厳を示したいという気持ちはまったくなく、むしろスタッフにもお客様にも、「社長とは呼ばないで」と伝えています。

 企業理念や長期的な目標もあえて掲げず、目の前のことに全力を注ぎ、岐路に立ったときにその都度、選択をする。そのやり方が、自分の性格には合っている気がします。一方、選択の局面でおもしろいと思った方を迷わず選んで進むためには、日頃からの準備が重要で、組織、店舗、人材など絶えず様々な準備を重ねています。

「野毛飲み集会所 陣 桜木町店」オープン時に。スタッフと気軽に話し合える関係性を大事にしている

――長期目標は持たないそうですが、この先、実現したいことは?

 今の自分があるのは、僕を信頼し、いざというときに手を差し伸べてくれる周りの人たちがいるからこそ。今後も店舗展開を続けながら、お世話になっている方々に恩返しできればと考えています。そして、独立の意思を持ちながらも、経験やノウハウ不足から踏み出せずにいる人たちの力になりたいという想いもあります。実際、独立を志す社員に店を譲渡し、夢の実現をサポートする仕組み作りを始めています。

 何よりうれしいと感じ、モチベーションになるのは、僕のおかげで成功できたとか、人生がよい方向に変わったと直接言ってもらえることです。この先も、関わる人にそんな言葉をかけてもらえる人間であり続けることが、個人としての一番の目標です。

Company Data

会社名
リテンションマテリアル合同会社

所在地
東京都大田区西蒲田7-67-14

Company History

2013年 会社設立。蒲田「叶え家」(現「蒲田 二代目 叶え家」)の営業権を買い取り創業
2014年 「二代目 叶え家 ゆとり 鶴見店」オープン
2015年 「立ち飲み集会所 日本酒人」オープン
2016年 「野毛飲み集会所 陣 桜木町店」「肉バル ミートピア 六本木駅前店」オープン
2017年 「叶え家 川崎店」「肉バル ミートピア 田町店」オープン
2018年 「ビアガーデンテラス 肉バル 上野」オープン

蒲田 二代目 叶え家(東京・蒲田)
https://r.gnavi.co.jp/e686000/
鮮度が自慢の海鮮に加え、宮崎から空輸される朝締めの軍鶏や、肥育農家から直接仕入れる馬肉の料理が名物。季節の日本酒もそろう。
ビアガーデンテラス 肉バル 上野(東京・上野)
https://r.gnavi.co.jp/14yncdcy0000/
高温の炭火で焼き上げた肉料理を、世界各国の自然派ワインとともに堪能できる。開放感ある雰囲気が楽しめる窓際の席が人気。