2019/06/28 繁盛の黄金律

新メニュー開発でやってはいけないこと

飲食店には「常に変化し続けること」が求められ、その最たるものは「メニューの変化」です。ただし、その方法を間違えると繁盛店が台無しになることも…。キーワードとなる「専門性」について解説します。

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Vol.94

新メニュー開発のやり方次第で、繁盛店が台無しになる

 外食の最大の敵は、「休眠客」です。放っておくと、休眠客はどんどん増えていきます。つまり、どんどんお客が減っていきます。お客の側からしてみれば、店に対して特別イヤなことがあったわけでもない。メニューがまずくなったわけでもない。しかし、今まで使ってくれていた常連客の足が、いつの間にか遠のく。来店しなくなる。皆さんの店でも、そういうお客が少なからずいると思います。

 どんな強力なオリジナルメニューを持っていても、店が変化し続けていないとお客はだんだんと来店頻度を落としていき、店がハッと気がつく頃には、すっかり足が遠のいてしまっているものです。変化のない営業は、休眠客を確実に増やす(=客数を減らす)ことになります。

 外食業の最大の変化は、メニューです。新しいメニューを打ち出すこと。これがいちばんわかりやすい変化であり、休眠客の目を覚まさせるのに、いちばん効果のある方法です。しかし、たいていこの新メニュー開発というところで、つまずきます。とんでもない方向でメニュー開発したがために、せっかくの繁盛店が台無しになったケースが山ほどあります。

 店を台無しにするメニュー開発には、次のようなものが挙げられます。

  1. 調理が複雑になる。
  2. 新しい調理機器、器具が必要。
  3. 提供に時間がかかる。
  4. 専門性が失われる。

 つまり、その新メニューを入れたばかりに、調理オペレーションの流れが停滞してしまうようなものは、厳禁ということです。

 特に、お客にとって時間制限があるランチタイムなどで、このようなメニューを出したら、一気に客数が落ちてしまいます。ランチはスピードが第一です。ランチタイムはむしろ、メニュー品目の絞り込みをしなければなりません。余計なメニューを棄てて、全体の提供スピードを上げる戦術をとらなければなりません。こうしながらも、変化は求められます。例えば、8種類出していたランチメニューを6種類にして、そのうちの1つを新メニューにして変化をし続ける。こういうやり方で、お客の休眠を防ぐことができます。

専門性を弱めるようなメニューを開発してはいけない

 新メニューの導入でいちばん危険なのは、専門性を失うことです。新しいメニューを次々に入れていって、しまいには自分でも「何屋」だかわからなくなる。こういう店をよく見かけますね。新奇を追い過ぎて本来の専門性を失うことぐらい危険なことはありません。いちばん大事なことは、どんなに変化をつけても「何屋か」を明確にしておくことです。

 この専門性という言葉には、2つの意味があります。1つは、品種(業種)としての専門性。「うちは◎◎屋です」ということが、メニュー全体で訴えられていなければなりません。ですから、新メニューを入れるにしても、専門性が今よりも強化されるようになっていなければなりません。極端に言うと、洋食屋で和定食を出してはいませんよね。うなぎ屋で天丼を出したら、何屋かわからなくなりますよね。そういうことです。そのメニューが登場することで、「何屋か」がより鮮明にならなければなりません。つまり、新メニューを開発するにあたっては、主力食材を明確にし、開発の範囲を決めておかなければなりません。

 専門性のもう1つの意味は、価格です。より正確に言うと、価格帯です。例えば、あなたの店がカレー専門店であったとします。そのカレーメニューが、700~1,000円の範囲に収まっているとします。この店で、2,000円のゴージャスカレーを出したら、どうなるでしょう。来店されたお客の顔が一瞬こわばりますよね。「これは何じゃ」と。その2,000円のカレーが、いくらおいしくて価値のあるものであったとしても、あなたの店で出すカレーではありません。価格の守備範囲が違うのですから、出してはいけません。

 自信作だからどうしても出したい、というのであれば、別の店でそのゴージャスカレーの専門店をやるべきです(立地も客層も来店動機もまるで違いますから、たいてい失敗しますが…)。このように、専門性には、価格帯という意味もあるのです。これは、業態(商売のやり方)としての専門性といってよいでしょう。

 以前にも書きましたが、自分の得意分野は、価格と立地と営業時間帯に表われます。店主の皆さんは、知らず知らずのうちに、この3つでもっとも得意な分野を見出して、いちばん得意な商いをしているものです。ですから、まずは自分の得意分野は何なのかを、価格と立地と時間帯ではっきりと意識しなければなりません。

 店はどんどん変化する必要があります。変化し続けなければ、生きてはいけないのです。しかし、主力メニューは何なのか、守備範囲の価格帯はどこなのか。このことを片時も忘れてはなりません。そこは動かしてはいけないのです。

株式会社エフビー 代表取締役 神山 泉 氏
早稲田大学卒業後、株式会社 柴田書店に入社。「月刊食堂」編集長、同社取締役編集部長を経て、2002年に株式会社エフビーを発足。翌年、食のオピニオン誌「フードビズ」を発刊。35年以上もの間、飲食業界を見続けてきた、業界ウオッチャーの第一人者として知られる。