2019/07/26 繁盛の黄金律

デリバリーで失敗しないための、3つの押さえどころ

日本でも外食のデリバリー化が進んでおり、売上を伸ばしている個人店が少なくありません。ただし、飲食店にとってデリバリーには、メリットもあればリスクもります。知っておきたいことや注意点を解説します。

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Vol.95

アメリカでは、デリバリー市場が24兆円に達する

 あなたの店が採用するかどうかは別にして、外食のデリバリー市場が急速に膨らんでいることは、頭の中に入れておかなければなりません。アメリカはその先進国で、来年2020年には、デリバリー市場が24兆円規模に達する、と言われています。24兆円と言ったら、ほぼ日本の外食市場と同じ規模です。

 ファストフードやファストカジュアル(ファストフードのやや高級版)店では、売上の5~6割、テーブルサービスをするレストランでも、2~4割が、テイクアウトとデリバリーで占められています。テーブルサービスのレストランでゆっくり食事をする人はどんどん減っているのです。「作らない」「(家から)出ない」の流れが、次第に大きくなっています。つまり、調理をしない、でも外食もしない、という傾向が強まっているのです。これは、日本も中国も、皆同じ傾向です。

 この市場に向けて、食品メーカーは冷凍食品の品ぞろえを強化していますし、食品スーパーはミールキットの開発に余念がありません。ミールキットというのは、最後のひと手間をかければ料理が完成品になる“寸止め調理キット”ですね。もちろんデリバリーも、この流れに乗って市場を膨らませています。「出前館」や「ウーバーイーツ」などの、デリバリー専門の会社がどんどん生まれています。

 例えば本来は600円のものが、400円のデリバリー料金を付加して売られるわけですから、店側の売り値は守られます。お客はそれを承知で注文するわけです。高くても、店にわざわざ行く手間が省けるならば、それで結構ですと、納得づくです。この仕組みをフル活用して、売上げを伸ばしている個人店も少なくありません。しかし、リスクもあることを充分に知っておかなければなりません。

商品を限定し、レシピを変え、パッケージを開発する

 デリバリーの最大のリスクは、「運べばまずくなる」という点です。

 料理はできたてがいちばんおいしいに決まっています。時間が経てば経つほど、味は落ちます。いわゆる経時劣化ですね。これを計算に入れておかないと、お客はとんでもないものを食べさせられるおそれがあります。時間が経っても味が(あまり)落ちない工夫が必要で、本来はデリバリーに適するメニューだけを提供すべきです。(スープや出汁に入った)麺類などは運びづらいし、経時劣化が激しいですから、できればデリバリーメニューからは外しておくべきです。

 それから、同じメニューでも、デリバリー用はレシピを変えるべきです。そのポイントは、劣化をいかに抑えるか、です。日本料理の世界でも、料理屋の料理と仕出し屋の料理は違いますね。仕出し屋の料理は、「一定の時間が経ってから食される」ことを前提に、一つひとつの料理が作られています。これと同じことを、それぞれのメニューでやらなければならないのです。ピザがなぜデリバリー商品として普及したのか、それを考えればすぐにわかることです。時間が経っても味がさほど落ちないこと。そして、荷崩れしづらいこと。この2つの強みがあったからです。

 こう考えると、

  1. メニューを限定すること。
  2. レシピを変えること。
    そして、
  3. 経時劣化と荷崩れを抑えるパッケージを開発すること。

 この3点が重要になります。これを無視して、デリバリーの注文に不用意に応じていると、店の評判は確実に落ち、いつの間にか、店売り(イートイン)のお客も激減してしまうことになります。

 しかし、デリバリーの本当のコワさは、お客の顔が見えない、というところにあります。デリバリーも自店で配送していれば、どういうお客がどういう動機で注文しているのかがわかりますが、外注に頼ると、その情報が入ってこなくなるのです。これは、個人店にもチェーン店にも同じことが言えます。情報はデリバリー会社に蓄積されていって、あるときに立場が逆転してしまいます。極端に言うと、飲食店がデリバリー会社の支配下に置かれる、ということになりかねません。

 私は、こういう事態が来ることを、いちばん恐れます。外食のいちばんの魅力は、注文を受けたものを、技術のあるプロがその場で作って、即提供する。これに尽きます。つまり、店にやってくるお客が、いちばん大切なお客です。これをないがしろにしてデリバリーに依存しすぎると、あなたのお店は確実に人気が落ち、消えていくことになります。

株式会社エフビー 代表取締役 神山 泉 氏
早稲田大学卒業後、株式会社 柴田書店に入社。「月刊食堂」編集長、同社取締役編集部長を経て、2002年に株式会社エフビーを発足。翌年、食のオピニオン誌「フードビズ」を発刊。35年以上もの間、飲食業界を見続けてきた、業界ウオッチャーの第一人者として知られる。