2019/08/30 繁盛の黄金律

パート・アルバイトをキッチンの戦力にするための大原則

パート・アルバイトを“戦力化”するために、とくにキッチンの戦力にするために必要な大原則は、「各メニューのレシピやマニュアルを持つ」ことと、「根気よく教える」こと。それぞれについて詳しく解説します。

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Vol.96

個々のメニューのレシピと調理マニュアルを持つこと

 「パート・アルバイト(PA)の戦力化」でいちばん難しい場所は、キッチンでしょう。戦力化とは、実際に個々のメニューを作れるレベルまで到達させることですから、これは並大抵のことではありません。ズブの素人を調理人に仕立て上げるのですから、これは大変です。

 現実は、「キッチンへの素人の出入りはご法度(はっと)」などとは言っていられないところまで、人手不足は深刻なのです。PAをキッチンの戦力にするためにまず重要なことは、1つひとつのメニューに関して、使えるレシピと調理マニュアルを持つことです。この2つがなければ、キッチンにおけるPAの戦力化など、とても無理な話です。

 ここで言うレシピとは、1人分の食材と調味料の分量を示したものです。調理マニュアルとは、その食材を使って完成された商品にするための工程表です。この調理マニュアルを、調理する人は頭に叩き込んでおかなければなりませんから、覚えやすくするために簡潔に表現されていなければなりません。リズミカルに覚えられるようになっていなければなりません。これが大前提です。

 次にPAの作業を限定することです。何でもこなせるプロの料理人を育成するのではありませんから、やることの範囲を明確にする必要があります。

 調理場の仕事には難易度があります。

  1. 食器洗い
  2. 仕込み(食材のカットなど)
  3. サラダ、おつまみなどコールドメニューの調理
  4. グリドル(鉄板調理)
  5. フライパンなどの加熱調理

 洋食系ですと、主にこの5つで構成されますが、⑤がいちばん高難度です。⑤は、PAにはちょっと難しいですが、④までは可能です。まずは④までできる“PA調理人”を、どう効率的に育てるか、です。

根気強く、マン・ツー・マンで、ステップ・バイ・ステップで教える

 まず大事なことは、誰がトレーナーなのかをはっきりさせることです。複数の人から「あれやれ」「これやれ」と言われたら、それだけでPAはパニックになります。すぐに辞めてしまうでしょう。トレーナーは、通常は調理長(キッチンリーダー)です。しかし、調理長が教え上手であるとは限りませんから、その場合は育成担当のキッチントレーナーが、マン・ツー・マンで手取り足取り教えなければなりません。このマン・ツー・マンで、というところが大事です。PAの習熟度は1人ひとり違っているのですから、1人のトレーナーが複数のPAに同時に教えることは、事実上不可能なのです。

 PAはキッチンに入るというだけで怯えてしまうものです。この怯えを取り除くためにまずやるべきことは、キッチンの案内です。アイドルタイムに、トレーナーがキッチン内の説明をするのです。それぞれの厨房設備の名前と役割、性能を教えます。また、どうしてそういう配置になっているかを説明します。このときとくに大事なのは、冷蔵庫内、冷凍庫内の食材の定位置です。何がどこにあるかを記憶してもらわなければなりません。これこそ基本です。その後のトレーニングでも、覚えられているかどうか、何度も確認をしなければなりません。

 レシピと調理マニュアルも、その内容をトレーニング中に何度も声に出してもらって、覚えているか確認しなければなりません。記憶を確認するのです。また、個々のメニューを作る段階に入っても、声出しは必要です。マニュアル通りに身体が自然に動けるように、自身の調理の手順をよりスムーズにするためです。

 キッチンの戦力にするためには、トレーニングマニュアルに従って、ステップ・バイ・ステップで技術力を高めていかなければなりません。根気のいる仕事です。トレーナーは我慢強く、平常心を保てる人でなければなりません。何よりもまず、調理のおもしろさ、楽しさを知ってもらうことが重要です。もちろん、個人の適性の有無にもよりますが、教え上手のトレーナーがじっくりと育成すれば、調理人を目指す正社員になってくれるかもしれません。

 いちばんやってはいけないことは、先ほど言いましたように、キッチンの複数のメンバーが、様々な仕事を命ずることです。いわゆる「追い回し」という使い方ですね。技術が身に付かないばかりか、そういう使い方をされたPAはいっぺんに嫌気が差して、「サヨナラ」と店を去っていってしまいます。

 それから、各メニューのあるべき形を一品一品教えておかなければなりません。完成品としての“到達点”がどういうものなのか、「姿」や「形」を知らなければ、調理の育成プロセスをスムーズに進むことはできません。

 最後にもうひとつ。試食も絶対に必要です。味と形がわかっていなければ、調理に対する興味が湧きません。繰り返しますが、料理を作ることへの興味を引き出すことが大事です。間違っても雑用係としてコキ使ってはいけません。

株式会社エフビー 代表取締役 神山 泉 氏
早稲田大学卒業後、株式会社 柴田書店に入社。「月刊食堂」編集長、同社取締役編集部長を経て、2002年に株式会社エフビーを発足。翌年、食のオピニオン誌「フードビズ」を発刊。35年以上もの間、飲食業界を見続けてきた、業界ウオッチャーの第一人者として知られる。