2019/09/27 繁盛の黄金律

“教え上手のプロ”をつくることが、経営者の最大の仕事

「店主(店長)のいちばん大事な仕事」とはなんでしょうか。売上・集客アップはもちろん、「二度と来ない」と来店客に思わせないためには、「優秀なトレーナーの育成」が不可欠です。そのトレーナーの、資質と能力のポイントを解説します。

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Vol.97

場当たり的な注意や叱責は、従業員を萎縮させるだけ

 「いくら従業員に口を酸っぱくして注意しても、うちの店のサービスはちっとも向上しない。クレームも増える一方」と、嘆く経営者が多くいます。しかし、それはあなた(経営者)が悪いのです。「人間は、されたことをする」動物なのです。

 やることなすこと経営者(や上長)からガミガミ言われ、頭にきている従業員が、お客にやさしく、にこやかに接しますか? 無理でしょう。もし、サービスのレベルを上げ、お客に対して親身に接する従業員を増やそうと思ったら、まずは経営者自身が心を入れ換え、行動を変えなければなりません。まずは、あなたの心の余裕のなさを、あらためることです。

 場当たり的な注意や叱責はNGです。相手は、何を注意・叱責されているのか理解できず、ただオロオロするばかりです。何の改善にもつながりません。大事なことは、お客の迎え入れ、席へのご案内、オーダー受け――と続く、1つひとつのサービスを、それぞれ別個に実地教育することです。ひとつのサービスが完璧にできるようになったら、次のステップに進むという、根気のよい教育訓練を施していかなければなりません。

 従業員1人ひとりのレベルは、皆バラバラなのですから、マンツーマンの個別訓練でなければなりません。集合教育では無理なのです。だから店主(あるいは店長)が、教育訓練の担当者でなければいけませんが、全員のトレーナーになるわけにはいきません。ですから、まずは、優秀なトレーナーを育てることに専心すべきです。

 店主(店長)のいちばん大事な仕事は、優秀なトレーナーの育成である、と言い切って間違いないでしょう。そのトレーナーは、パート・アルバイトでも構いません。トレーナーとしての資質と能力があればいいのです。

ストレスを感じたお客は、二度と来店しない

 そのトレーナーの資質と能力はどんなことかというと、次のようなものが挙げられます。

  1. 作業を完璧に熟知していること(自ら実演ができる)
  2. 穏やかで根気強いこと(いつもニコニコ。感情的にならない)
  3. 教え上手で、ほめ上手(何かができたら、一緒に喜ぶ)
  4. 公平な評価能力がある(えこひいきをしない)
  5. いつも相談相手になれる人

 この5つになります。

 トレーニー(トレーニングを受ける人)がどういう性格の人か。長所は何か、弱点は何か。そこまで踏み込んだ観察眼を持っていなければなりません。そして、その観察眼にはやさしさが宿っていなければなりません。“摘発”してやる、などといった悪意の観察は、トレーニーを萎縮させるだけです。

 また、従業員のピリピリ張り詰めた緊張は、すぐに来店客に伝わります。そんな空気の中で、お客は食事を楽しむことができるでしょうか。店からパワーをもらって、ストレスや悩みを解放する場所が、レストランであり飲食店なのに、さらにストレスをかけられたらどうでしょうか。たとえ料理のレベルが高いとしても、「もう二度と来ないぞ」ということになりますね。

 いちばん大事なことは、適度にゆったり、のんびりとした空気が流れていることです。そのためには、訓練を十分に積んで、ベストのサービスができる従業員が、自主的に、自由闊達(物事にこだわらず、おおらかな様子)に、明るく、ニコニコ、伸び伸びと、働ける状況をつくることです。その場その場で逐一、店主(店長)が従業員に対してガミガミと注意・叱責することが、どれだけ罪深いことか、おわかりいただけたかと思います。百害あって一利なしです。チェーン店で、それをいちばん安定的にできているのはスターバックスでしょうね。中にはいまひとつの店もありますが、“バラツキ”があまりありません。なぜだか、わかりますか?

 教育訓練の仕組みがしっかりできていることが第一の要件ですが、もうひとつ、スターバックスには店で調理しなければならないフードメニューがひとつもありません。そこで働く人は、コーヒー関連のメニューのメイキングと、目の前のお客へのサービスに集中できるのです。このように、仕事の範囲を限定することが、サービスの質を向上させることの大前提です。このことも、肝に銘じておかなければなりません。

 そのスターバックスの創業者が、こんなことを言っています。「経営者が働く人に示す態度と同じことを、店の従業員はお客に示す」。まさに冒頭に言った、「されたことをする」のです。

株式会社エフビー 代表取締役 神山 泉 氏
早稲田大学卒業後、株式会社 柴田書店に入社。「月刊食堂」編集長、同社取締役編集部長を経て、2002年に株式会社エフビーを発足。翌年、食のオピニオン誌「フードビズ」を発刊。35年以上もの間、飲食業界を見続けてきた、業界ウオッチャーの第一人者として知られる。